第3話

 すごく、発展してるなあ。

 僕は、動きを続けることで、そのことをひしと感じた。

 お父さんはロボットは人間を支配している、と言っていたけれど、傍から見ればロボットは人間の暮らしを助けているだけで、ひどいことなどしているようには見えない。

 が、それは僕が住んでいたところだけの話で、でも、確かに人々は記憶をなくしていて、ロボットはそれに異議を唱えていないようにも見えた。

 仮に、ロボットに意思、そして感情があるという父の話が本当だったとして、じゃあ彼らは毎日記憶をなくして生きている人間を、どのような目で見つめているのだろうか。

 まあ、知らないけれど、僕は特に関心もなかったし、でも今はとにかく目指すことにしていた。

 ロボットは、でもこんな風に記憶をなくしていない僕に、気付く気配がない、それは奇妙なことのようにも思えるが、正しいことであるようにも思う。

 彼らは、人間ではないのだ、人間が作り出した産物、だから、どこか、考え方とか感じ方とか、そういうものが人間と異なっていて、それはそうだ、当たり前なのだろう。

 「着いた。」

 「やっと。」

 「遠かった。」

 一通りの感慨が、僕の中の感情を貫いている。

 目指して居場所は、そんなに遠くは無かった。

 ロボットの行動は予測がしやすく、彼らに道中、尋ねるのだ。

 「ここはどこですか?」と、するとロボットは流ちょうな話し方で、こう言う。

 「〇〇町です。」と、しかし、僕はまた聞くのだ、「じゃあ、あっちは?こっちは?」と、そうするとロボットは自分の認識エリアにある部分だけを詳しく話し、彼らの関心が向かわない場所というものが、どこに存在するのかが手に取るように分かる。

 「ありがとう。」と伝え、僕はそこへと向かった。

 何か、父から聞いていたロボットの印象とは違う、人間に苦しい労働をさせ、虐げぬいた、みたいな話だったのに、今のロボットは違うのだろうか。

 人々は確かに記憶をなくしているが、全力で尽くしサポートをしているのはロボットなのだった。

 「分かったよ、見つかったよ、お父さん。」

 ついに、目の前には待ち焦がれていた世界がある。

 が、そこは理想と一致したような場所などではなかった。

 なぜか、通りには人がおらず、家、と呼べるようなものがなかった。

 それは、テントといった方がいいような粗末な物ばかりで、ところどころから腐臭のようなものが混じって漂っていた。

 僕はでも、少しだけでも話を聞きたいと思って、足を進めた。

 確かに、ロボットの姿はない。

 けれど、「こんにちは…。」少しだけ話しやすそうな、果物を売っている女性に声をかけてみた。が、

 「何、あなた誰?知らない人よね、どこから来たの?」

 彼女の瞳は怯えていた、何を恐れているのかは分からない。が、やせ細った体に、光の挿さない眼だけをこちらに向けている。

 「いや、あの。旅行というか。」

 「はあ…?」

 彼女は本当に不可思議なものを見るような目をして僕の方を窺った。

 が、「あなた、周りがロボットだらけだって、知っているでしょ?」

 「はい。」とだけ僕は答え、彼女は続けた。

 「ならいいわよ、でもね。ロボットを恐れた私たちは、こんな風に生きていくことさえままならない。そして、今更助けを求めたって、あいつらは裏切り者に手を貸すような生易しい奴らじゃない。」と言い放った。

 彼女も、誰もかれもがみな、困窮している。

 それが、世界の真実なのだろうか。

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