episode 33 真相を追って -ミレイネス視点-


「リューイン? いや知らねーべヤ」



 はぁ。溜め息が出てしまいました。

 デルメシアに来れば何方かはリューインの事を知っているだろうと思っていたのですが、尋ねる方皆さん見事な程知らないと言う状況。


 デルメシアの首都アンビルにて各自散開して聞き込みをしてそろそろ2時間が過ぎようとしていたタイミングで、リースさんのご提案によりわたくし達は宿泊中の宿へと戻って参りました。

 皆が集まったところでわたくしが開幕皆さんに聞き込みの成果を聞いて行きます。



「皆さん、何か情報は掴めましたか?」



 わたくしの問いに皆首を横に振ります。



「もしかしたら〝リューイン〟って名前自体が偽名の可能性があるかも」


「リースの言う通り、あたしも名を偽っているのかとも考えたんだが、実はそこまで名の知れ渡っていない奴なのかも知れない」


「ジャハル、アンビルと大きな街を回って来ましたが、デリックと繋がりがあるからと言ってリューインが必ずしも有名人とは限らないと思います」


「デリックの事だから、リューインを仲間に引き入れたのには必ずデリックの役に立つ〝何か〟があると思うの」



 セラさんのお話に「何かとは?」とわたくしが問います。

 その疑問に答えたのはリースさんでした。



「普通に能力じゃない? アステルに濡れ衣を着せられる能力。ん〜例えば……アステルに化けられる能力とかぁ?」


「そうだね。リューインには変身能力があってそれに目をつけたデリックって感じだね」


「ちなみにリザードマンに変身や擬態する能力自体は備わっているのでしょうか?」


「いや、そんな能力は聞いた事がない。種族特有の能力などではなく、リューインだけが使える能力と見た方がいいだろう」


「どうしましょう……次は小さな村を中心に伺って参りますか?」


「うぇぇ……こんな暑い中で小さな村を回って行くのって結構キツくない? ミンシャ、あんた冷気属性魔術コールドスペルでいい感じに周り冷やせないの?」


「魔術は戦闘用なので、貴方がターゲットになっていただけるのなら可能ですけどね」


「それって、あたしに向かって攻撃するって事でオーケー?」


「そうなりますね」


「そんなのダメに決まってんじゃん!」



 リースさんとミンシャさんの口論がどんどん膨らんで行く中、セラさんが現状をまとめながら2人の間に割り込みます。



「とりあえずジャハルとアンビルは一応手掛かりなかった訳だし、この近辺の小さな村を回って行かない?」


「わたくしは賛成です。こうしてる間にも死刑までの時間がどんどん迫って来ているので、行動する事は大事であると思います」


「ミレイネスの気持ちも分かるが、闇雲に聞き込んでも無駄な時間を使ってしまうだろう。アステルの命が懸かっているからこそ、ここは慎重に候補を決めてから向かうべきだ」


「そんな悠長に構えている時間はないのですウル。候補が絞れるものがあれば時間をかける価値はあるのかも知れませんが、現状、全く手がかりもありません。ならば片っ端から回って行く方が良いとわたくしは思います」


「いや、それこそ時間の無駄だ」



 と、今度はわたくしとウルが口論を広げてしまいました。

 候補を絞る段階の話ならば、もう実際に向かって探して行動した方が良いのです。

 しかしウルには伝わりません。アステルが心配なのは分かるが神導であり神気を扱える彼が、一般的な人間に殺されるはずがない。

 それはそうかも知れません。けれども違うのです。アステルは力で捩じ伏せるような事は絶対にしません。

 もしその様な方ならば、牢屋に入らずに出てきているでしょう。

 口論の火種はリースさん、ミンシャさんにも飛んでしまい、セラさんが止めに入ります。


 そんな時でした。トントン、とわたくし達の部屋の扉をノックし入って来た年老いたリザードマンが。それはわたくしが最後に聞き込みをした方だったのです。

 5人の中からわたくしを見つけ、テクテクと近づいて来ました。



「アノ〜さっきの話なんだがヤ、アーもしかしたらゴダルガ村のディルナさんとこの息子さんかも知れねぇベヤ」


「本当ですか!?」


「ゴダルガ村? お爺ちゃん、その村はここからどう行けばいい?」



 と、セラさんが聞くと丁寧に村までの道をお話しして下さいました。突然大有力な情報を手に入れたわたくし達。勿論ゴダルガ村に向かう事を決めます。

 そうと決まったら今すぐにでも出発したいわたくしは、皆に声をかけ出発の準備をしていたのですが、お爺さんからまた信じられない情報がもたらされたのです。



「丁度この間、その息子さんが亡くなったとかでナ、それで覚えてたんだガヤ」


『な、亡くなった!?』



 一同驚愕し、固まりました。



「お爺さん、何故亡くなったのですか?」


「それは分からんでナ。村へ行ってディルナさんに聞いてみろヤ」



 亡くなった……?

 この息子さんがリューインであったとするならば、非常に不可解です。

 わたくし達は事の真相を知る為に、ゴダルガ村へ足を運ぶのでした。

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