episode 31 黒ずくめの男 -デリック視点-


「なにもんだてめぇは!」


「そうですねぇ〜黒いフードの男……黒の……じゃあ、クロノとでも呼んで下さい」



 本当の名前は言いたくねぇってか。益々怪しい奴だなこいつ。



「それで? 俺をゆすってんのか?」


「ゆすってる? あー私は別に貴方を困らせに来た訳ではありませんよ? 勿論、お金をいただく事もありません。どちらかと言えば協力しませんかと提案しに来たんですよ。ふっふっふ」


「協力だぁ? てめぇと協力して俺は何の得になる?」


「そうですねぇ、例えば……あの擬態能力、気に入ってもらえたようですね。あれは私が彼に与えた能力です」


「り、リューインの事を言ってんのか?」


「はい。あのリザードマンは私の力で能力を得ました。ふっふっふ。そして彼は偶然貴方と知り合う事が出来た」



 こいつの仕業だったのか。何が偶然だ。てめぇが仕組んだんだろうが。



「リューインはとても貧しい家で育った家族想いのトカゲですからねぇ。お金の為ならなんでもする。それが一国の王を殺害する事も躊躇いはしないでしょう。何日何時にこの場所に、水色の長髪の男性が、貴方の力を求めにやって来ると助言を与えただけです」



 この様に、とクロノは話を続ける。



「デリックさん、貴方も得られるんです。スーパーパワーをね」


「おい、てめぇはなんでそんなに色々詳しいんだ? あのクソデブを倒せる力が欲しいと思ったが、それを知ってるのはここで寝てるレエナだけだ。何でてめぇが知ってる?」


「あーその事ですか……ふっふっふ。それについてはお答え出来ませんが、今重要なのはそこじゃないでしょう? スーパーパワーを得られると言う事です。アステルさんの様な人智を超えた神の力をね……」


「そのアステルはもうじき死刑になんだよ。もう勝負はついたんだ。てめぇと協力せずともな」


「ほう、もう決着がついたと? 果たしてそうでしょうか?」


「何が言いたいんだよ」



 ごほん、と咳払いをした後クロノはまた話し始めた。



「2日後に判決は覆ります。何故なら間も無く貴方の罪が露わになるからです。必ずそうなります。逆に貴方が死刑を宣告され立場が逆転する事になるでしょう。しかし貴方がスーパーパワーを得て、貴方自身の手でアステルさんを殺す事ができれば……もうお分かりですよねぇ?」



 判決が覆る前に俺の手でアステルを殺せってか。

 しかしなんなんだこいつ……。



「てめぇは占い師かなんかか?」


「いえいえ、占いなんて出来ませんよ。ふっふっふ。まあでもそれに近い事は出来る、とだけ言っておきましょう」


「分かった。で、見返りはなんだ? まさかタダでそのスーパーパワーをくれる訳じゃねぇんだろ?」


「お察しの通り、流石ですねデリックさん。見返りは貴方が所有されている2つのスキル……勇者と剣聖のスキルを私に渡す事、そして聖剣ギグドラーンも下さい。勇者のスキルがない貴方にとっては不要になりますからねぇ」



 勇者は兎も角として、こいつ……剣聖のスキルを持っている事も知ってやがんのかよ。

 ますます怪しくなって来たな。



「おいちょっと待て。スキル無しになっちまうじゃねぇかよ。スキル無しになったら魔力が使えなくなるだろうが。そんなんでどうやってそのスーパーパワーを使えるようになんだよ」


「スーパーパワーとは、〝神気〟と言いましてね。これを使える為にはスキル無しになる必要があります。ちなみにですが、アステルさんは神気を使えます」


「神気? それを使えるようになったらアステルを殺せるってのか?」


「神気とは神々だけが扱える事の出来る力。つまり貴方は神になるのです」


「神か、面白ぇ。よし、協力してやろうじゃねぇか」


「交渉成立って事でよろしいですね?」



 そう言いながら、手を差し出して来やがる。

 色々怪しい部分はあるが、そんな事よりも俺に今1番必要なのは誰よりも強い力を得る事だ。

 このクロノって野郎が何者でも、その神気っつう神の力が使えるようになんなら、この話、悪かねぇ。


 俺はそいつの手を取り固く握手を交わした。

 そうだ、この手でアステルを殺してやるんだ。くっくっく……。

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