episode 30 レディース会議 -ミレイネス視点-


 アステルが投獄され、ミラクルズハプンへと戻って来たわたくし達は、今回の国王殺害と濡れ衣を着せた可能性のあるデリックについて話し合う事に。

 食堂兼ミーティングルームに適当に散らばって座り、これまでの経緯を改めて辿って行く事にしました。



「やはり、あのリューインが怪しいと思うんだが」


「そうですね。アステルも言ってた通り、実績もない出来たばかりのギルドに依頼をするってちょっと考えられませんね」



 と、ミンシャさんの話にリースさんも続きます。



「あんた達が倒した魔物がヘルブリンガーじゃなかったじゃん? 結局あのリューインってトカゲは何がしたかったの?」


「未だにそこが謎ですね。わたくしはデリックとリューインは繋がりがあると推測していますが、何の証拠もない現状では、推測と言うよりも願望ですね」


「ミレイネスの推測はほぼ間違いないと私も思うよ。だけど、リューインがアステル達をデルメシアまで向かわせたのは何の為なんだろう」



 と、セラさんが皆さんにお茶を配りながら疑問を投げ込みます。



「国王殺害を実行するアステルを演じる為だろ。裁判の時、審議官がやけに早く終わらそうとしていた事が気になって、本当に記憶の改ざんが出来ないか、あたしなりに試してみたんだが、死人の記憶を別の記憶に変える事が出来ないのは確かだった」



 ウルの話に「私も」とミンシャさん。



「容姿を真似る術、所謂変装魔術みたいなものがこの世に存在するのか調べてみたんです。変装魔術と言うのはありませんが、相手の視界を操作して幻を見せると言う幻惑の魔術はあります。今回は記憶の中の映像なので、幻惑の魔術ではないでしょうね」


「それに、アステルの仰る通り神威刀で腹部を3回に渡り突き刺したとありますが、もしそれが本当ならば肉体は消滅して残りません。つまりあの記憶の神威刀も偽物であると確証出来ます」


「100%確定してるのは、殺害したアステルは変装した誰か、って事で話を進めていい? 記憶の改ざんはもう完全に不可能だって事なら、デリックと審議官を疑わなくていいって事だよね? じゃあその繋がりを追わなくていい?」


「リース、私は何者かが変装した方を追いたい。主観だが審議官の行動がテキパキし過ぎている印象だった。人間の性格を深く知ってる訳じゃないからただの勘違いかも知れないが」


「とりあえず、リューインにもう一度会うべきだと思っています。ただ……」


「足取りが掴めない」



 セラさんの仰る通り、足取りが掴めません。

 色々と話し合いをした結果、リューインはとりあえず置いて、デルメシアに住むリザードマン達に話を聞く事にしました。わたくし達はデルメシアへ。



「と言う事でいいよな? アステル」



 ウルが天井に目を向け、アステルの名を呼びました。

 もちろん天井にいる訳ではなく、アルヴァニア城地下にある牢獄とテレパシーで繋いでいるのです。

 今回わたくし達の話し合いは全部、アステルも共有出来ていました。

 これは精霊であるウルの力ですね。



《み、みみんな、きき、き気をつけてね!》


「アステル、そちらは大丈夫ですか? お食事はしっかり取られていますか? 看守などに意地悪されていませんか?」


《う、うん。こ、ここ、こっちは、だ、だいだい大丈夫。だ、だだ、だけど、か、かかかむいむい刀を、と、とと、取られた》


「ミレイネス、心配し過ぎだって。アステルは神様なんでしょ? あ、てかさてかさ! 牢屋ぶち破っちゃえば?」


「アステルはそんな事をする方ではありません。脱出する術があろうとなかろうと、疑いが晴れるまで牢獄にいる、そう言う方なのです! 恐らく神威刀も自ら預けたのでしょう?」


《よ、よよ、よくわ、わ分かったね……》


「分かります。だってわたくしは誰よりも貴方の事を知っていますから。うふふ」



 よく分かったねと褒めていただいた事で、嬉しくなってしまい1人で舞い上がっていると、何やら周りからの視線が鋭利な刃物の如く突き刺さって来ました。



「アステル、ミレイネスと結婚するんですか?」



 最初に突っ込んで来られたのはミンシャさんでした。



《え、え? ま、まま、ままだし、しし、し知り合ったば、ばかりだから、け、けけ、結婚は、か、か考えてな、ないな、ない……》


「な〜んだ、じゃああたしもまだ可能性としてある? アステルに助けられた時目が覚めたんだ。本当の愛に……キャハ❤︎」


「リースはふざけてるけど、私は本気なの。助けてもらって貴方に恋してしまったの。心から愛してるよアステル」


「ちょっとセラ、何もふざけてないじゃん!」


「キャハって言えるのは余裕がある証拠です。でもセラもアステルの事可哀想とか言って、笑ってましたからね」


「そうだ! デブとか本当の事言ったら可哀想とか言ってた! あんた最下位だわ! キャハハハ!」


「最下位はリースだよ。アスデブなんて酷い名前でずっと呼び続けていたんだから」


「うぅ……そ、それは……ほ、ほら愛称じゃん! アスデブゥ〜❤︎ って可愛くない?」


『可愛いくない!!』



 わたくしを含めてみんな一斉にリースに突っ込みました。

 神界からずっと見守っていたわたくしからすると、3人共酷いです。アステルを好きになる資格はない。

 わたくしは生まれた時から、今もずっとアステルの味方であり続けました。その途中で恋が芽生え、アステルの優しい心、魂に触れ、この方と一生添い遂げたいと思い結婚を考えたのです。


 これらの観点から見て、わたくしが第1位なのです!

 と、熱く皆さんに語らせていただきました。

 アステルへの気持ちはどんな方にも負けはしません。



「ミレイネスはダメだ。嫁には向いてない」



 とウルが割り込んで来ます。



「女は料理でも愛する者に幸せを与えなければならない。この中で料理が得意だと言える者はいるか?」


「私は料理出来るよ。このハウスの料理をよく担当してるし」


「なるほど、確かにこの5人の中だとセラが断トツだろう。だが、女としての魅力に欠ける。顔は美人だと言えるがスタイルは貧弱過ぎる、これはリースにも言える事だろう。ミンシャはスタイルは良いがただスタイルが良いだけ。料理も出来ない。そう考えると総合的に卒無くこなせるのは、あたしだけだ」



 この発言に誰も反論出来なくなってしまいます。

 ウルは美しい美貌を持っている事は当然として、スタイルも抜群で、料理も出来る。そして何処となく大人な雰囲気も漂わせ、確かにこの5人だと彼女が1番アステルに相応しいのかも知れないと思ってしまいました。


 しかし、わたくしはそんな彼女の唯一の欠点を知っています。



「いえ、貴方は女性としての言葉遣いがなっておりません! そんなぶっきらぼうな言い方では、どれだけ他が優秀でもトキメキを感じないのではありませんか? やはり女性として見られるには、見た目も大事ですが言葉遣いも大事だと思います」


「それは私もそうだと思います! ウルは男性のような一面かがありますね。それを素敵だと言う男性もいますがマイノリティの意見です」


「アステルー? あれ、アステル聞いてる?」



 アステルの声が一切聞こえなくなり、また逃げたと皆さん溜め息と共に口を揃えます。



《で、ででデリックが、き、きき記憶にう、う映ってた》



 死刑宣告を受けてから、アステルは今回の事件の記憶を審議官に貰っており、その一部始終を何度も確認したそうです。

 アステルの話によると、斬殺された後ほんの一瞬だけ事切れる直前の兵士が扉に目を向ける場面があるのですが、そこに一瞬水色の長髪の男性が見えるんだと仰いました。


 そしてそのデリックらしき男性が何か一言話していたと言うのです。

 何度も何度もその場面だけを見直したのですが、残念ながら一部だけしか分からなかったそうです。


 しかし、それだけで十分でした。


 何故ならばデリックの口から〝リューイン〟と話していたのですから。


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