episode 28 裁判
「静粛に。被告人は前へ」
僕は国王殺害の容疑者としてアルヴァニア城内にある〝審議の間〟に連れて行かれた。
到着するなり手首を縛られ証言台に立たされる。完全に犯罪者扱いなんだが……。
傍聴席にはミラクルズハプンの仲間達が、心配そうに僕を見つめているけど大丈夫だよ。僕は王様を殺してはいないんだから。
そしてみんなと離れた席に座ってるデリック、その隣に風神柱の精霊の姿もあった。
「被告人、アステル・ランドベルクは昨日、アルヴァニア城謁見の間でガイロス王と謁見中に王を殺害、この時近くにいた近衛兵6名も同時に殺害されている。当日の記憶を再生する」
当日の記憶……?
すると、宙に光の窓が出現し中に謁見の間が見える。
王様と…………ぼ、ぼ、僕!?!?!?!?
確かに僕は闘技大会に優勝して、王様から呼び出された事があった。その時謁見の間に行ったけど、あの時はミレイネスやウルもいた。
光の窓にはミレイネスやウルは映ってはなかった。僕だけ。
と言う事はあの日の記憶じゃない。ならこれは何だ?
審議官は昨日って言ってた。昨日なんてアルヴァニアにいるはずないのに、僕と王様と2人で会って話をしてるところが映ってるんだよ。
僕の吃る特徴まで忠実に再現されていて、自分自身が忘れてるだけでこれが事実なのかと錯覚してしまうぐらい完璧に僕だったんだ。
「あぁ……そんな……」
と、静かに嘆くミレイネスの言葉を背中で聞きながら、僕もその窓に映ってる光景に目を疑った。
窓の中の僕は神威刀を引き抜き、王様の腹部を3回突き刺したのだ。
そしてその後、審議官が話してた通り駆けつけた6人の兵士達も刺し殺した。
紛れもなく僕なんだ。それも神威刀で……。
こんな記憶、どうやって作ったんだ? 十中八九、いや100%デリックが僕に濡れ衣を着せようとしている事は間違いないんだけど。
「あれはアステルじゃない! 偽者だ! アステルはあたし達とずっと一緒にいたんだよ! この記憶は何者かに作り変えられたものだ!」
ウルが立ち上がり、審議官に訴えかける。
「記憶を映像化するのは私の役目だ。私は審議官として誓って記憶の改ざんはしていない。映像化した記憶は、事の一部始終をその目で見た国王、兵士達の記憶だ。死人(しびと)の記憶を作り変えるなど不可能。よってアステル・ランドベルクが、国王及び、兵士6名を斬殺した事は事実である」
「しかし審議官! わたくしやこのウルはアステルと一緒にデルメシアにいました! 殺害が起こった昨日です! アステルに殺害は不可能です! わたくしの記憶もそこに映して下さい! 証明出来ます!」
「生人の記憶こそいくらでも改ざんが可能であり、この場で提出しても無意味だ。アステル・ランドベルクがデルメシアにいた証明にはならない。先程も話した通り、死人の記憶は作り変える事が出来ないのだ。故に何より真実である」
「しかし、明らかに何者かがアステルを嵌めようとしています!」
「傍聴席の者、口を慎みなさい。これ以上勝手な発言を行うと退室を命じる事になるぞ」
「………………はい」
「今回殺害に使われたものは、細剣の様な細い武器を使用しており、記憶の通りそれも一致している。どの場面から考察しても、アステル・ランドベルクがガイロス王、兵士6名を殺害した犯人である」
死人の記憶は改ざん出来ない。いや……違う。
あの記憶の映像自体を改ざんした訳じゃない。例えば物凄い変装の達人がいたとして、王様や周りが僕だと思い込んでるって言う事もあるかも知れない。
だって、あそこに映ってる僕は僕じゃない事は分かってるんだから。
話し方や仕草を完璧に真似られたと言う事は、僕の事をよく知ってる人物と言う事になるんだけど……デリックしかいないんだよ。
この件でデリックが急に現れた事が不自然過ぎる。
ただデリック自身にそんな変装能力はないし、変装魔術みたいなのも今まで聞いた事がない。
誰かにやらせたのか? まさか……風神柱の精霊が?
いや、それもあり得ない。
精霊ならウルと一緒で、僕を神導だと気づいてるはずで一応彼女の生みの親な訳だから、そんな悪事に手を貸すなんて事もあり得ない。
「以上の事から判決を下す。一国の主を殺害したその罪は重い。アステル・ランドベルクを死刑に処す」
『!!!!!?』
「アステル・ランドベルク、何か言い残す事はあるか?」
「も、もも、もう一度、き、きき、記憶をみ、みみ、見たいです」
「それは構わんが、記憶の改ざんを怪しんでいるのなら無意味だぞ?」
そう言いながら水晶玉を手渡される。この中にさっきの記憶が入ってるんだな。
何か見落としてるところがあるかも知れない。
「1週間後に刑を執行する。これにて閉会」
「アステル……」
再びミレイネスの弱々しい声を背中で聞く。
ミレイネス、また会えるよ。勿論僕は死刑になったりはしない。絶対に覆して見せるよ。
暫くは一緒にはいれないけど、必ず真相を暴いてやる。
水晶玉を見ながら心に決めた僕は、兵士達に連れられ牢獄にぶち込まれたのだった。
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