episode 27 容疑者は突然に

 

「あのトカゲ野郎〜! 一体どういうつもりなんだ!」



 デルメシアから帰国した僕達は、馬車に乗って真っ直ぐに自分達のギルドハウスに向かっていた。


 僕達が倒した魔物はヘルブリンガーじゃなかった。

 デルメシアで出会ったリザードマンの話を聞いて、ヘルブリンガーは何百年も前に絶滅したって言われてる伝説上の魔物って事が分かったんだ。その後、彼の住む村でも話を聞いたんだけど、あの魔物はグレートシャークと言う極めて温厚な魔物で、滅多に人を襲う様な事はないそうなんだ。


 巣の近くでサンドフィッシュと戦った事が、どうやら僕達を襲った原因らしい。


 リューインは、嘘の情報を話したって事になるけど、イマイチその理由が分からなかった。



「けれども何故嘘を? あのリザードマンの獲物を奪い取りたかったのでしょうか……」


「リューインの名前を出しても知らなかったからな。2人に接点はないと見ていいだろう」


「だ、だだ、だけど、りゅ、りゅリューインはど、どど何処にい、いいるのかな?」


「とりあえずこのまま、ミラクルズハプンに戻ってみましょう。セラさん達が何か知っているかも知れませんしね」



 そう言えばリューインと話していた時、何か違和感があったんだよな。何の実績もないギルドに依頼して来るところとか……。







「おかえりなさい」



 扉を開けると受付のカウンターを丁寧に拭いてるセラが、どこか元気なさそうな表情で出迎えてくれたんだけど、何かあったのかな。

 彼女の異変に後ろの2人も気づいたようで、



「セラさん? 何かありましたか?」


「ん? ミンシャとリースは何処だ?」


「王都に行ってる」


「王都に? 買い出しか?」


「アルヴァニア国王が、何者かに殺害されたって今王都は大騒ぎしてるところなんだよ。ミンシャとリースはそれを確かめに行ったよ」


「なに!?」


「さ、殺害ですって……?」



 国王が……殺害された……?



「一体誰がその様な事を……」



 そんな事を受付カウンターで話していると、勢いよく玄関の扉が開かれた。ミンシャとリースだ。

 凄く慌ててるけど、どうしたの?



「もうじきここに国の兵士達がやってくる!! 早く何処かに隠れて!!」



 僕の方を見てリースはそう言った。



「え、え、ぼ、ぼぼく?」


「アステルは国王殺害容疑で指名手配がかかってます! 私達も理由は分かりませんが、恐らく……」



 と、まだミンシャが話し終えてないところにミレイネスが割り込んで来た。



「アステルはわたくし達とずっと一緒にいました! 殺害なんて出来ませんし、そもそもその様な事をなされる方ではないのです! 隠れろだなんて、それじゃあまるでアステルが殺害したと言ってる様なものではありませんか!」


「い、いやミレイネス、あたしだってそう思ってるんだって! 濡れ衣なのは分かってるし! あいつだよ! 絶対にあいつの仕業なんだよ!」



 隠れろったって……僕は国王を殺害なんてしてないし、ウルやミレイネスとデルメシアに行ってたんだぞ?



「あいつと言うのは誰だ?」


「デリックに決まってんじゃん! あいつ、王都のど真ん中でアステルが国王を殺害したって叫んでたんだよ! この前の復讐でアステルに濡れ衣を着せようとしてるんだよ! 絶対そうだよ! あいつぅぅ〜!!」


「だが、この前の闘技大会で奴の勇者としての信頼はガタ落ちになったはずだ。早々に周りは信じないだろう」


「第一アステルは、わたくし達とずっと一緒にいましたし。デルメシアまでの3日間の旅路、片時も離れる事はありませんでしたから!」


「ああ。あたしらが証明出来る」



 そう僕達が話していると「アステル・ランドベルク!」と言う僕の名前を叫ぶ声が店の外から聞こえて来た。

 兵士達だろうな。僕は国王なんて殺害してない。僕の為に隠れろってリースは言ってくれたんだろうけど、何も悪い事をしていないのに隠れるなんて僕は嫌だ。


 僕は逃げも隠れもしない。話を聞いてもらえれば分かってもらえるはず。

 そんな思いを胸に扉を開けて外に出てみると、そこには50人程の小隊がギルドハウスを隙間なく包囲していたんだ。



「よう。もう何処にも逃げられねぇぞ、クソデブ無能殺人鬼」



 そう言いながら、兵士達の中からゆっくり姿を現したのはデリック。

 口元を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべていた。

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