episode 25 王の聖域
あっちぃ……。
砂漠の国デルメシアのザラ砂漠へやって来た。
リザードマンのリューイン曰く、ここにSS級の魔物が出るそうなんだけど。
リューインと別れる前に魔物について貰った情報によると、〝ヘルブリンガー〟って言う全長20メートルの巨大鮫らしい。
砂の中を泳ぐ鮫と言う意味では、サンドフィッシュって魔物がいるんだが、ヘルブリンガーはそれの超巨大版って感じ。
デルメシアの領土のほぼ半分を占めるこの大砂漠、ザラ砂漠に昔から生息してるらしいんだけど、数々の冒険者達が挑戦して無事に戻って来た者はいなかったって言う……そんな凶悪な魔物だったら、放っては置けない。
それにしても、ギンギラギンに照らして来る太陽にマジで水分をぶん取られて干からびそう。
ミレイネスもとても暑そうに額の汗を拭いながら歩いてるんだけど、ただ汗を拭いただけなのにどうしてこんなに美しいのだろうか。
ん? それに比べてウルは全く汗を掻いてない!?
不思議そうに僕がチラチラ見てると、気づかれてしまった……。
「あぁ、あたしは、地神柱の精霊は地属性だけじゃなく、火属性も司ってるんだ」
つまり火属性である太陽の暑さには何も感じないと。
精霊ってそんな能力が備わってたんだな。
「現れませんね。そろそろ目的の場所ですが……」
「ザラ砂漠の丁度中心まで来ると、巣があるって話だったが、何処にも見当たらないな」
「もしかして、夜にならないと現れないのでしょうか」
「なるほど、出現する時間帯はあるかもな」
グゴゴ。
ん? 今地面の揺れを少し感じた気がする。
「今、揺れましたよね?」
「地震みたいだな」
グゴゴゴゴ。
「今度は大きい揺れでした! これってもしかしてヘルブリンガーの仕業?」
「いや、ヘルブリンガーにそんな能力はないはずだ。これは……」
パサァン! パサァン! パサァン! パサァン! パサァン!
砂の中から5体、砂漠の鮫サンドフィッシュが飛び出して来た。砂から勢いよく飛び出して、そのまま僕達に鋭い歯をガチガチ音を立てながら噛みついて来る。
「アステル、ここはあたし達に任せろ」
「ええ。アステルが出るまでもありません」
ウルは尻尾をフリフリしながら、降りて来る1体を待ち構えていた。どっちが獲物なんだ状態だよ。
まるで犬だよ……でもフリフリしてる尻尾が可愛いな❤︎
「ほら、受け取れよ! レギア!」
ウルは手のひらから炎の塊を作り出して、数発サンドフィッシュに命中させた。
あれって魔術か? いや違う、呪文詠唱しなかった。
そうかあれが精霊特有の魔術、精霊術なんだ。
「キシェェェ!!」
食らったはずだけど、そのまま大きく口を開いてウルを丸ごと食べて砂の中に入っていったぞ。
おい、ウル大丈夫か?
助けに行こうかと思った時、ウルを食べて戻った奴が再び、パサァンと砂の中から飛び上がって来た。
と思ったら、
「はあぁぁぁぁーーー!!! レグーラ!!」
サンドフィッシュの体が強く光輝いて、大きな大爆音と炎に包まれながら粉々になって飛び散ってしまった。
その中から燃えた炎に包まれたウルの姿が、漆黒の髪と尻尾が炎の様に燃えた赤に変わったんだけど、ウルの纏う炎が消えた瞬間に、髪や尻尾も元の漆黒に戻った。
属性の力を使うとウルの髪や尻尾の色が変化するんだな。
僕に向かって口を開いて落下して来る2体。ウルがそれに気づき地属性の精霊術で、僕の前に壁を作って守ってくれた。
「ドルーフ!」
ドガーンと言う壁に当たった衝撃音が目の前で起こる。
役目を終えた壁が光と共に消えると、漏れなく2体が地面にパタパタと倒れてもがいているのが見えた。
そこへ素早く近づいたウルは2体の尻尾を掴み勢いよく空に向かって投げ飛ばし、また火属性の力をその身に宿して真っ赤に体を燃やしながら宙に浮かんだ2体に突進して行ったんだ。
「ほらよ! レグゾード!!」
ウル自身が巨大な炎の球となってそのまま突っ込んで、大爆発。2体は勿論消滅。
ウルの戦ってるところ初めて見たけど、ここまで強かったなんて思わなかったよ。
どうやらリースの様な格闘スタイルなんだけど、精霊術を織り込んだ特殊な戦闘スタイルで、敢えて彼女にクラスを付けるなら〝格闘魔術士〟って感じかな。
そしてミレイネスの方だけど、彼女は天聖から普通の人間に退化したからな。
だから正直心配だったんだ。守ってあげないとって。
そんなミレイネスの戦闘スタイルは何となく、魔術を使った攻撃で距離を取って戦う魔法使いスタイルなのかと思ってたんだよ。
「開け! 我が魔力の扉!! クイックフェザー!」
光の翼を背中に生やし、空高く飛び上がると彼女の身の丈程の光の大剣を彼方より呼び出して隼の如く3体のサンドフィッシュの全てを斬り刻む。
あの剣……セレストレーヴァじゃないか。確かあれも神威刀と同じく神剣と呼ばれていたはず。
細い腕であんな大剣を軽く振り回すんだから、何ともパワフルな女神様だな。
恐らく神界から呼び出したんだと思うんだけど、神気を使えない今のミレイネスが神剣を扱うには相当膨大な魔力が必要なんだよ。
眩しい……ミレイネスがセレストレーヴァを両手に持って掲げると光がまた更に強くなっていく。
「止めです! 食らいなさい!
そう叫んで思い切って振り下ろした。
無数の光の線がパァッと辺りに飛び散ったかと思えば、床でひれ伏しているサンドフィッシュに向かって光の線が集まって来る。
そして無数の光の線が体を貫き、焼き尽くした。
『ギエェェーーーーーー!』
3体のサンドフィッシュは跡形もなく消え去ってしまった。
え、女神様……めちゃくちゃ強いやん……。
スーッと降りて来ると、クイックフェザーとセレストレーヴァは光と共に消えた。
すると、いきなり力が抜けたかのように倒れていく。
僕はすかさず神威フォームになってサッと彼女を抱えた。
そうだよね、やっぱり神剣を扱うには魔力だけで支えるのはとても難しいよ。
肉体が滅んでないだけ、ミレイネスが発揮できる魔力がそれだけ強大だったって事。
流石、元天聖だけの事はあるけど、無茶しちゃダメだよ女神様。
「はぁ……はぁ……はぁはぁ。や……やはり、魔力だけでは…………長くは持ちません……ね」
「大丈夫かい? 立てる?」
「……はい。もう大丈夫です。わたくしの事を心配して……来て下さったのですか……?」
「うん、神剣を魔力で支えるなんて無茶だよ」
「分かっていたのですが……アステルに凄いと、わたくしだって戦える事を見て貰いたくて……」
「うん、本当に凄いよ。頑張って修行したんだね」
咄嗟だったからお姫様抱っこしちゃった。
凄いよな。中身は同じアステルなのに神威フォームになると、普通じゃ出来ない事が出来るようになるんだ。
おデブちゃんのままだったら、助けに行けなかった。
体力的な事もそうだけどあんな美しい女性に僕なんかが触れてもいいのかなって躊躇ってしまう。
「あぁ……アステル。愛してますぅ!!」
ギューーーーー!!
ちょっ……なんちゅう力……。首が締まってるんですが。
「ぐ、ぐぐる……じ……ぃ」
「あ!? す、すす、すみませんっ!!!」
◆
「……なあ、ミレイネス。あたしに何か増強魔術(バフ)をかけたか?」
「いえ、何故です?」
「普段よりも精霊力が増してるんだよ。気持ち良くて精霊術を連発しちまったけど、普通ならスタミナ切れを起こしてるはずが全くなんの疲れも感じなかった」
「あぁ、それでしたらアステルの恩恵です。わたくしもアステルのおかげでセレストレーヴァを召喚出来ましたから」
「え? 僕の恩恵?」
「忘れましたか? 王の聖域と言うスキルを」
「お、王の、せ、せい、精……ぇ……き……」
「はい⭐︎」
ニコっとして微笑みを見せて来る。
そ、そんなスキルあったっけ? と言うかよくニコニコしながらそんな事言えるよ女神様……。
「王の聖域は、周りの戦士達の能力を高める効果のあるスキルで神導様の力の3分の1に達するまで、その増大に限りはありません! 神導様にしか備わらないこれこそ奇跡の様な力ですね!」
な、なぁ〜んだ王の
効果は剣聖の十聖闘気陣に似てるけど、神導の3分の1の力と同等レベルまで能力が高まるのは凄いぞ……。
そうだ、思い出した。確か戦闘に参加せずに戦況を静観してる状況下において発動するスキルなんだった。
「なるほど、これであの漲る力の原因が分かった。ミレイネスの話が本当なら、まだまだ力が高まりそうだな!」
「このスキルは徐々に効果が増大していくので、長期戦になればなるほど有利になりますね! ですよね? アステル!」
「うん。思い出したよ。それでも2人共想像以上に強かっ……」
ドッッッッッパァァァァァァァァァァァァァーーー!ン!!!!!!
来たか、ついに現れたヘルブリンガー。
「2人共下がってるんだ。今度は僕1人でやる」
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