episode 24 来客


 僕達のギルド〝ミラクルズハプン〟の店のオープン初日。

 王様から権利を貰ったあの日から、丁度1週間が過ぎようとしていた。


 王様が手配してくれた王宮建築士達のおかげで、1ヶ月はかかるような作業工程を僅か1週間で完成させたのは流石としか思えない。

 僕にしてみれば本当にあっと言う間だった。

 まだ名前も決まってない数日前じゃ、ミレイネスとウル、そして僕の3人だけだったのが、この1週間の間に更に3人、一緒に経営していく仲間が増えた。

 

 美女3人衆。ハイプリーストのセラ、スペルダンサーのミンシャ、武闘神のリースだ。

 彼女達は、デリックが居なくなった事で行く宛もなくなり、どうしても僕と一緒に仕事がしたいらしく、最初は断ったんだけど3人共修行をして見違えるぐらい成長したし、本当の彼女達は悪い人間じゃない。

 

 それに僕の為に修行したって言われて、断り続けるのは申し訳ないと思っちゃったんだよね。だから歓迎したんだ。


 6人が横に並んでまじまじと完成したお店を瞳に入れる。

 大都市のギルドよりは、こぢんまりしてるけど僕は広いより狭い方が好きだから、王宮建築士の人にもその旨を伝えたんだ。オーダー通りだね。


 今、初めてみんなでお店の中に入った。当たり前だけど何処を見ても新品で新しくて、檜の木の良い匂いが漂ってる。

 

 うん、いい感じだ♪


 まず入口。入った正面に受付カウンターがあって、左右に通路が分かれてるんだけど、右に進むと応接室があって、ここで詳しい依頼内容を確認するんだ。

 みんなそれぞれ気になる所に散らばって行ったんだけど、僕だけ応接室にいる。狭い所みんな好きじゃないのかな。

 そんな事を思いながらソファーに座る。僕はあまりソファーには詳しくないけど、明らかに高品質な素材で作られてる。それに座り心地も硬過ぎず、柔らか過ぎずで最高。


 ふと、受付カウンターの方から声が聞こえて来た。

 リースともう1人は……ミレイネス?



「なんかさー旅の宿って感じしない?」


「うふふ、そうですね。これもアステルの拘りなんですよ」


「食事出来て宿泊も出来るギルドって凄い発想……こんな依頼人目線に寄り添って考えてるギルドマスターって今までいたかなぁ? 少なくてもキングスナイトで各地回ってた時に、そんな優しいギルドマスターは居なかった気がする」


「アステルの優しさには、いつも感動を覚えます。うふふ」



 気づいたらソファーから立ち上がってドアに耳を当てて話を聞く僕がいた。

 なんか出て行きたくないな……。褒められてる時に出ていくのは恥ずかし過ぎる。


 だけど他も気になるし………………よし。


 僕はただ彼女達の前を通り過ぎるたったそれだけの為に神威フォームになり、縮地を使って気づかれずにカウンターを通り過ぎるのだった。

 本当に神気の無駄遣いだよ。でも誰にも気づかれずに移動出来たぞ。


 受付カウンターの左通路を抜けるとそこは食堂兼ミーティングルーム。ここにはセラが1人いた。僕に気づくと、



「ギルドの堅苦しい雰囲気を全然感じないし、凄く安らげて良いお店だね」


「う、うん。き、きき、気に入ってもも、もらえた?」


「もちろん!」



 2階は寝泊まりが出来る休憩室が2部屋設けてある。

 その休憩室の部屋にはウルとミンシャがいた。

 前の廊下に近づいて聞き耳を立てる。


 ……って、僕は一体何をやってるんだ。

 こんな事はダメだ。そう思って階段を降りようとした。



「言っときますけど、私だってアステルの事が好きなんです。結婚とかって話なら私も立候補します」


「悪いがミンシャ、あんたはアステルの好みじゃない。ただ乳がでかいだけの女はそもそも興味を持たない」


「私は今まで告白して断られた経験はありません。確かに貴方やミレイネスは同性の私が見ても美しい美貌を持っているとは思いますが、アステルはただ姿形で好きになったりはしない人なんです。貴方達より一緒に過ごした時間が長いのは私なんですから」


「あたしは精霊だぞ? 少しは遠慮したらどうなんだ?」


「勿論精霊としては尊敬してますよ。しかし、女性としては私も遠慮はしません。ましてや好きな男性の事なら尚更です」



 み、ミンシャも僕の事を? 2人の話の内容と共に声のボルテージも大きくなってどうしようか悩んでると、1階からも激しい論争の爆弾が投下されていた。



「はあ!? アステルと婚約!? ちょ、ちょっと待ってよ! 何で勝手にそんな話進めてんのよ!」


「進めるも何も、わたくしが1番初めに告白をして今アステルのお返事を待っている状態なのです。申し訳ありませんが、これだけは何方にも譲れません。アステルの事は諦めて下さい」


「私、アステルに告白して来る。アステル何処に行ったのかな」


「ちょっと! セラ! あんたも何1人抜け駆けしようとしてんの! 信じらんない! あたしだって気持ち伝えたいのにぃ!」



 これ、身動き取れなくなったぞ……何処行ってもやばいやつだ……。

 新しくこれから人々を助ける為に頑張っていこうって団結しなきゃならない時に、これは困り過ぎる。

 直感でやばいと思った僕は直ぐに隣の休憩室に入り布団を被って隠れる。



「また逃げたか……アステル出てこい!」


「1階にはいらっしゃいませんでした」


「気配を完全に消してますね……」


「2階しかもうないじゃん!」


「みんなで取り押さえるよ。いい?」



 ひぇぇ〜! みんなが僕を探してるぅ〜!

 しまったなぁ……こういう緊急事態に備えて、隠し部屋を作っとくべきだった。

 だけど、設計図はミレイネスやウルにも見られてたし、どっちにしても見つかってたか。



「いた! おい、みんな! ここにアステルがいたぞー!」



 その声はウルか……。やっぱ直ぐに見つかっちゃうよね。

 僕は5人の美女に囲まれて揉みくちゃにされながら、1階の応接室へ向かう。

 僕の体の色んな所に柔らかいものが当たったり、お花畑のような色んな良い匂いで、召されそうなんだが……。


 神様である僕は一体どこに召されると言うのだ。


 そんな時に、お店の玄関に来客が現れた。

 みんな一斉に僕から離れお客さんを迎え入れる。



「へぇ。ここが国中で噂されてるミラクルズハプンですか。フフフ」



 それはアルヴァニアでは珍しいトカゲの容姿をした獣人だった。



「何ともまあ、美女ばかりが揃ったギルドですねぇ」


「な、なな、ななにか、お、おお、お困りですか?」


「アナタがアサテル・ランドベルクですか。フムフム、闘技大会で優勝した噂のオトコと言うからワザワザやって来たのに、何の魔力も感じませんがネ」


「アサテルじゃなくてア・ス・テ・ルだよ、トカゲさん」



 リースが少しムッとした表情で返す。

 まあ僕も気にはなってたんだが、話が続いてたから訂正するのもアレかなと思ったんだけど。



「これはこれは失礼しましたヨ。フフフ、申し遅れました。ワタシ、リューインと申します。お察しの通りリザードマン、アナタ方の言葉で獣人と呼ばれる種族です。マア、一括りで呼ばれるのはキライなんですけどネ。ハルバル、デルメシアからやって来たと言うのに……こんな、おデブさんだったとは思いませんでしたヨ」


「あのう、ご用件は何でしょうか? 何かお困り事ですか?」


「ハイ、実は討伐依頼を出したいんですヨ」



 デルメシアって言ったら砂漠の国って言うぐらい、灼熱の太陽と砂漠で有名な国だよな。

 だけど、本当にわざわざこの国にやって来て、それもまだ何の実績もない出来立てほやほやのギルドに依頼を頼むだなんて、この人、いやこのトカゲ変だな。


 話を聞いていくとどうやらS級を超えるSS級に相当する超大型の魔物らしくてデルメシアまで来てくれとの事だった。



「ホントウに、アナタが強い戦士だったら、倒せるはずですヨ。フフフ」



 それで、



「被害は出ているのか?」



 そうそうウルちゃん、僕も聞きたかったのよ。



「今はまだ。しかしそれも時期に出て来るでしょうネ。ワタシの依頼、受けていただけますよネ? モチロン、それなりの報酬は払いますヨ」



 と、リューインは左腕のキャルトバンドに指を滑らせると、僕のキャルトバンドに50万キャルトが振り込まれていた。

 こ、こんなに大金……え? しかも前払い?



「先に払っておきますヨ。色んなギルドにお願いしましたが、みなさん死んでしまわれましたからネ。なので、先にと言う訳ですネ。死んでしまったら折角のお金も使えませんからネ。フフフ」



「どうしましょう。全員でデルメシアへ行くとギルドが空になってしまいますし……わたくしはアステルと一緒に参りたいですが……」


「いいよ、行って来なよミレイネス。SS級なんてあたしじゃ力になれそうもないし……留守番してるよ」


「そうですね。あれからレベルは上がりましたけど、アステル達についていけそうもありませんから」


「他にも依頼人が来るかも知れないしね。私もここに残るよ」



 そんな訳で僕、ミレイネス、ウルがデルメシアに向かう事になったんだ。

 みんなさ、さっきまであれだけ喧嘩して揉めてたのに仕事になるとちゃんと連携が取れるのって凄いよ。



「アステル・ランドベルク、それじゃあよろしくお願いしますヨ」



 リューインは手を差し出した。

 僕が知るリザードマンは好戦的で言葉遣いも荒々しい印象なんだけど、リューインはとても紳士的だった。

 僕も手を差し出し握手をする。



「フフフ」



 ただ、時折見せるその笑い方に違和感を覚えるのであった。

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