第2章 追放返し編

episode 23 ギルド名何にする?


 僕達はアルヴァニア城、謁見の間に来ていた。

 大扉が兵士によって開かれると、赤い絨毯が玉座まで伸びている。その絨毯の両端には等間隔に配置された近衛兵達。

 うわぁ……なんか凄く場違いな感じがする。ミレイネスやウルは兎も角、僕なんかがこんな綺麗な絨毯を踏んでもいいのだろうか。



「アステル・ランドベルクよ。闘技大会で見事優勝を果たしたそうじゃな。それもたった一撃で強者どもをねじ伏せたと聞いておる」


「あ、ああ、は、は、は、ははい!!」



 しまった……。神威フォームで来ればよかった……。

 こんな所で今更変わったら、変に思われるだろうな。

 だっていきなりおデブちゃんが、萎んだ風船みたく痩せるんだから奇妙がられるよね……。

 でも、この姿じゃまともに会話が出来ないよ。



「ふぉっふぉっふぉ! 緊張しておるようじゃな。ワシなんかに緊張する必要はないぞ? 其方は闘技王なんじゃからな」



 緊張してるってのもあったけど、そうじゃないんです王様。

 僕って昔から他人と会話しようとすると吃ってしまう性分なもんで……。


 デリックが試合の途中で逃げて、試合放棄した事で僕は勝利を勝ち取り、その後の試合も順調に勝ち進んで行った。

 そして無事に優勝し、当初の目的だった冒険者登録推薦状を貰いにやって来たって言うのもあるけど、ここに来たのは王様からの呼び出しがあったからなんだ。



「アステルよ、褒美を取らそう。望みのものを申してみよ」


「……あ、ああの、ぼ、ぼぼ冒険者登録のす、す、すい推薦状を、お、おね、お願いしましま……す」


「なんと、そんなもので良いのか? ワシは其方がただ闘技大会で優勝したから申しておるのではないぞ。アルヴァニアに住む弱き者達への配慮、その姿勢、其方と言う人間に惚れワシは感銘を受けたのだ。遠慮などせんで良い。何でもいいから申してみよ」



 何でもいいって言われてもなぁ……望むもの……急に出て来ない。

 僕が跪く後ろに同じく跪いてるミレイネスと、腰に両手を当てて仁王立ちスタイルで立つウル。そうか彼女は精霊だった。人間に畏る必要はないか。だけど君が精霊である事は王様は知らないから、普通なら直ぐそこの兵士に「無礼者め!」って即退出させられそうなものなんだが、王様懐がマジで大きいわ。


 それが家臣達にも影響を与えて許容されてるんだろうな。

 あれ……そう思って周りの兵士達を見たんだが、ずっとウルのパーフェクトボディをギンギンに見てる。


 って、色気に見惚れてたんかい!


 まあ兵士達がそうなってしまうのは分からなくもないよ。

 クールビューティーな彼女だから、大人な雰囲気をたっぷり感じるんだよな。だから今ウルに見惚れてる兵士は恐らく歳上のお姉さんが好きなタイプだ。間違いない。


 勿論ミレイネスに見惚れてる兵士達もいる。彼らはミレイネスがよく見せるニコッとする笑顔にだらしない口を装備していらっしゃる。


 これもね、僕も何度も死にかけたから分かるんだ。

 マジで腰砕かれるんだよ。そう考えたらこの2人と一緒にいる僕って、超絶美と超絶美の間に挟まれて生きているのか。


 幸せ、と言うよりある意味〝地獄〟だな。


 それにしてもウル、その立ち方好きね。

 2人にチラッと視線を配っても、望むものなんてなさそう。

 僕も特にないんだよなぁ……ほんと、推薦状を書いてもらえればそれで……。



「なんじゃ、欲のない奴じゃな。じゃが益々其方を気に入った! 冒険者になりたいと申しておったが、ギルドを開いてはどうじゃ? この国でその権利を其方に与えよう」



 ギルドを開く権利? そ、それってギルドを経営出来る権利って事だよね?

 だ、ダメダメ、僕なんかに務まる訳ないよ。それにそんなの物凄くお金もかかるし。またチラッと後ろの2人を見る。


 嘘だろ……2人共なんかやりたそうにこっちを見てるんだが……。

 女神様も美狼女ちゃんもコクコクと頷いてる。



「ふむふむ。後ろの美女達はこれを望んでいるようじゃな。では早速その権利を授けよう」



 こんな感じで僕達は自分達のギルドを開く事になった。

 アルヴァニア城から王都アルヴァニアへ戻る道中で、ウキウキ気分のミレイネスがギルドを開く事について大賛成、絶対に開くべきだと言った。これにウルも賛同する。

 ギルドって依頼を受けるのもランクごとに決まりがあったりするし、すぐに困った人達の依頼を受けられるかと言うと中々出来ないのが現状なんだよな。

 だから、もし僕がギルドを開くのならなるべく早く対応出来るようにしたいな。まあ……簡単じゃないけどね。



「ところで、ギルドの名前何にしますか?」



 ニコニコと僕に笑顔を見せる。これこれ! この笑顔……マジで破壊されるんだって。

 えっとなんだっけ……ギルドの名前ね。

 う〜んどんなのがいいかなぁ。名前もそうだけど、どの街にするかも悩みどころ。


 アルヴァニアには大都市と呼べる街は、王都アルヴァニアを含めて3ヶ所。

 1つは王都から北に位置する商人の街トリーク。そしてもう1つは王都から西に位置する海辺の街ヴェル。この大都市の何処かでギルドを開こうと思ってるんだ。



「あたしはファイアソードみたいなカッコいい名前がいいな」



 それってただの武器ではないか美狼女ちゃん。



「ラルポンニブエと言うのは如何でしょう! 可愛くありませんか?」



 一瞬急に何を言い出したのかと混乱したが、女神様それは神界ラピュラリスの言語でしょうが……。

 確か……虹のかかるお昼時って意味だった気がするけど、人間(みんな)が理解出来るものにしたいんだよな。


 もう随分時間が経ったのに、まだあっちの言葉を覚えていたんだね。それとも、どうでもいい記憶は失われないのか?



 ギルドの名前か……。

 僕達が出会った事、そしてこれから出会うであろう人達も、

偶然の奇跡なんだよな。

 だからそう言う意味を込めて名前をつけたい。そんな事を2人に話してみた。


 僕が神様になれたのは紛れもない奇跡なんだ。だけどミレイネス目線で見るとそれは奇跡じゃなく僕をただ天聖の力で神導に選んだってだけ。


 そんなミレイネスが奇跡だと感じるのは僕を見つけた事であって……と、こんな風に奇跡って言うのは不思議な力でも何でもなく、誰かが誰かに与えるものなんだって思うんだ。


 これから数々の依頼がギルドに舞い込んで来る。

 その人達との出会いで僕達が彼ら、彼女らを助ける。

 僕達は備わった力を持って問題に対処する。


 だけど、もしかしたらそれをみんなは奇跡だと思うかも知れないよね。

 もし奇跡だと呼ぶなら、僕達はその奇跡を与えられる存在って事なんだ。奇跡は起きるんじゃなく、ものなんだよ。



「素晴らしいですアステル……その思いをギルド名にしましょう!」


「さすが神導様だよ。さっきの……あたしが出した案は忘れてくれ……」


「わ、わたくしも!」



 顔を赤らめるウル、そしてミレイネスも。

 なんだよ君達、なんでどんな顔も漏れなく可愛いんだよ。



「…………ミラクルズハプン、と言うのは如何ですか?」


「き、きき奇跡をお、おお起こす……。う、うん、と、とと、とてもいい名前だと、お、おお思う」


「決まりだな。あたし達のギルドはミラクルズハプンだ」



 名前が決まるとその後はスラスラと決まって行った。

 例えばギルドを開く場所は、大都市でって考えてたけど小さな村にはギルドがない事が多いんだ。

 それって依頼する為にわざわざ大都市まで行かなきゃならないんだ。マジで大変。だから僕は大都市を候補から外した。


 そうだ、王都アルヴァニア、トリーク、ヴェル、これを三角形で結んだ中心に、僕達のお店を構えよう。そう2人に話した。



「小さな集落、村の人々からすると大変有難い事だと思います! それぞれの大都市を訪れる事なく、また道中も魔物に遭遇しない道である事も素晴らしい案だと思います! アステルは本当に思いやりがあって……優しいですね」


「ああ! 優しいで思い出したけど、そうだ、まだ返事を聞いてなかったな! アステル、どっちを選ぶのか決めろ!」


「え、あ、えぁ!?」



 どっちを選ぶか決めろ?



「そうでした! アステル、そろそろ結婚について考えていただけませんか?」



 あ、結婚相手の話か……いや、まだ2人共知り合って間もないじゃないか。



「ちなみにミレイネスは嫁としての決定的な欠点がある! あんたの料理は不味い。めちゃくちゃだ」



 あらら!? それ言っちゃうのウルちゃん。



「戦闘祭前日、外で野宿した時に、ミレイネスの作ったアリュラムのクリームソースドリアを食べただろ? 何でクリームソースなのに激辛なんだよ」


「それは……ほ、ほら! 明日は大事な試合が控えてましたから、アステルに頑張ってもらおうと体が温まるように……って。そ、それにアステルは完食なさいましたよ! ですよね? アステル!」


「優しいんだよアステルは。不味くても顔に一切出さずに全部食べ切ったんだからな。普通あんなもの辛すぎて食えないぞ……」


「そうなのですか? アステル……。一生懸命心を込めて作ったのですが……」



 あかん……女神様の瞳から涙が今にも零れ落ちそうになってる。



「あ、ああの! か、辛かったけど、し、しし、暫くな、なにも食べなくてもへ、へへ、平気だったし、し、しし試合中もお、おお、お腹へ、減らなかったし!」


「アステル……」


「それってただ腹を壊してただけだろ……」



 うぅ……ウルちゃん図星です!


 そうだね、どうにかして女神様の料理が改善されればいいんだが……いくら僕でも食べ続けたらいつまで体が持つか。



「ではこの際なので、言わせていただきますが!」



 と、今度はミレイネスが反撃する。



「ウル、貴方は言葉遣いや立ち振る舞いに女性らしさを感じないのです! その様な胸元が開いてる服なども下品です!」


「げ、下品って言うならあんたも、薄い衣を着てるだろ!? 露出って意味だとあんたの方が出てるじゃないか!」


「わた、わたくしのは貴方の様に胸を強調させるような衣服ではありません!」


「それはあたしがだからだろ。そんな饅頭じゃアステルを満足させられないぞ」


「ま、まま、まんじゅう!? そ、そんな事ありませんよ!! ほら、触って確認してみて下さい!! 凄く形が綺麗で美しいですねって大天使のミカエルも褒めてくれましたから!!」


「なあアステル、あたしの方が触ってみたいよな? 女として魅力があるのはどう見てもあたしだろ!」


「いえいえ、貴方はただ下品な体をしてるだけです! アステル、わたくしの方が触ってみたいですよね? ま、まさかアステルもお饅頭だって思われているのですか!?!?」


「あ、あ、あのぉ……」


「ほら、アステル触って確かめて下さい! これがお饅頭ですか!? ねぇアステル!! あ、ちょ、ちょっと逃げないで下さい!!」


「何処行くんだよアステル!! 絶対にどっちか決めてもらうからなー!」



 天国と地獄って実は同じ場所にあるのかも知れない。

 何故なら僕は今まさに天国と地獄を同時に味わっているのだから。

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