episode 17 両手に花と2度目の求婚

 そして翌日。今日は戦闘祭だ。


 王都アルヴァニアでは戦闘祭って事で街は戦闘祭ナイズされていて、雰囲気はもうお祭り。街を歩く人が話す話題も、専ら今回の闘技大会の話ばかり。

 僕達が冒険者となる為には闘技大会で優勝を果たす事だ。

 準備はもうバッチリ! ……じゃなかった。



 昨日、夜遅くに王都に戻ってきた僕達は直ぐに宿に向かった訳なんだけど、満室で1つも取れなかったんだよ。

 戦闘祭が明日って事もあって、宿屋はどこもお客さんでいっぱい。仕方なく道具屋に行って簡易テントを買って野宿したんだよね。


 眠れなかった。こんな美女が隣にいて眠れる訳がないのだ。

 左を向けば良い匂い、右を向いても良い匂い……それだけじゃないんだよ。彼女達が眠りにつくまでずっと僕の腕を取り合い。

 女の子の手ってさ、なんであんなにしっとりとして柔らかいんだろうね。いや別に手に触れた訳じゃないんだけどさ、腕を触られた時にこの感触、マジで同じ手なのかって思うぐらいにミレイネスもウルも柔らかかった。


 まあ、柔らかかったのは他にもあったんだが……こんな風な状態で眠れる訳がない! だからもうね……一睡も出来ず目にクマが出来ちゃったよ……。


 大事な試合が控えてるんだから、ここは気持ちを切り替えて闘技大会の会場へ向かおうとしたんだ。

 左側にはミレイネス、右側にはウル。それぞれが僕の腕を両手で掴んで密着。

 うん……これはね……また昇天コースかなぁ……。


 どれだけ疲れていようが、眠かろうが、美女が隣にいると吹き飛ぶんだね。

 あぁ……もういつお迎えがやって来てもいいぐらい後悔はない気がする。



「お、おい! あれこの前の美女じゃないか!? しかも今度はまた別の女も連れてるぞ!?」


「2人共凄いスタイルね。憧れちゃうわ」


「ほら見て! あの銀髪のウェーブロングの女の子、この前ここで見た子じゃない? 綺麗だよね……。うん? あれって獣人だよね? あんな美形な獣人初めて見たかも」


「キングスナイトをクビになったアステルかあれ……。とんでもねー美人を2人も連れてやがる……なんだってあんなデブがものに出来たんだ?」


「あの美女。獣人なのにめちゃくちゃやべぇ体してんな」


「くぅぅ〜あんな美人を連れて歩けるなんて……アステルが羨ましいぜぇ」


「俺もあんな風に腕組まれてーーーー!」


「ほんとだ、この前の美女と……あの美狼女は何者だ……む、胸が……エロい」



 戦闘祭だけあって街は多くの人で賑わっていたんだけど、注目の的になってた。



「ウル。そろそろ離していただけませんか。皆さんが貴方を注目していますよ」


「何で? いいだろ腕組んで歩くぐらい。それに注目されてんのはあんた。天聖様」


「わたくしはもう天聖ではありません。ただの人間です」


「だったら精霊であるあたしの方が偉いって訳か。じゃあ離すのはあんたの方だろ」


「離しません! わたくしはアステルと結婚する婚約者なんです!」



 こ、婚約者……。



「ですよね? アステル」


「え、、あ……あ、あの……」


「違うみたいだけど? 元天聖様」


「アステルは上手く言葉が話せないだけなのです! そうですよね? アステル」


「う、うん、そ、そそれは、そう……だけど」


「ほら! わたくしはアステルの事を何でも知っているのですよ! 今さっき仲間になった貴方とは、それはもうもうもうもう理解度が全然違うのです!」



 ミレイネスってこんなに感情的になったりするんだな……。

 だけど、なんか子供みたいに拗ねてて、これはこれでかーいーな❤︎



「あたしはアステルが好きだ。愛してる」



 ドキン!! って、今心臓が跳ねた気がする……いや絶対に跳ねた。


 ま、マジっすか……。



「な!? 何ですって……」


「アステル、あたしを救ってくれた時、あんたの優しさに触れた。歴代の神導様の中でダントツに優しい神様だ。心から惚れてこの身を捧げたいと思ってる。あたしと結婚してくれ」



 な、なんですとぉぉ!? 結婚!? また結婚申し込まれたーー!

 これで2人めーーー!



「い、いけません! アステルはわたくしと結婚するのですから!」


「じゃあ、どっちが嫁に相応しいのか……アステルに決めてもらおうじゃないか」


「アステル!」「アステル!」



 女神様も美狼女ちゃんも腕を引っ張り寄せるもんだから、あっち行ったりこっち行ったりで、体が割れそうなんだが……。

 2人共、みんなが見てるでしょーが!


 もう早く会場行こうよ……。

 と、言いたかったが、そんな事を言うと折角気持ちを伝えてくれたウルに申し訳ないと思った僕は、ミレイネスの時にも話した内容をそのまま彼女にも伝えた。


 まだ結婚とか恋人とかそんな事は考えられないんだよ。

 僕自身もまだまだ未熟だから……それに2人と結婚するなんて出来ないし、ちゃんと考えたいんだ。

 

 僕は丁寧にウルにも話す。

 その最中に遠くの方で黄色い悲鳴が上がったんだ。



「勇者様だ! 勇者デリックが街についたみたいだぞ!」


「お! こっちに向かって来るぞ!」


「や〜ん、超絶イケメェン❤︎ 一度でいいから抱かれてみたいわぁ……」


「きゃあデリックさま〜⭐︎ こっち向いて下さぁ〜い❤︎」



 水色の長髪、切長の目、白い鎧に赤いマント、勇者デリックだ。

 そして背中には聖剣ギグドラーン。ちゃんと渡してくれたんだな。

 ん? でもあの3人の姿はないな。一緒には来てないのか?

 それにあの羽の獣人? 新しいメンバーかな。

 あの子もまた凄い胸だな……童顔で子供っぽい不思議なルックスを持つ小さな美少女。


 彼女と2人で僕達の目の前に現れた。



「よう、クソデブ。久しぶりだなおい」


「…………」



 相変わらず言葉遣い悪いなデリック。心の中で返事を返す。



「まさか、そのとんでもねぇ美人、てめぇの仲間か?」



 僕が答える前にミレイネスが一歩前に出る。



「そうですよ。何か問題でもありますか?」


「あんたすげぇ良い面してんな。マジで俺の好みのタイプだ。あんたみてぇな美人は世界中探したって見つからねぇ。そんな能無しデブなんてほっといて、俺んとこ来いよ」


「わたくしが貴方のキングスナイトに?」


「そうだ。今丁度メンバーが不足してて空いてんだよ。こんな絶世の美人なら大歓迎だ」


「いいえ、お断りします」



 暫く沈黙が流れる。



「な、なんだと!? 勇者パーティーだぞ? 俺のパーティーに入れるなんてめちゃくちゃ光栄な事なんだぞ!?」


「アステルと一緒にいる事の方がその何千倍も光栄なのですよ」


「やあ勇者様。この前は見捨ててくれてありがとう。あたしはあんたに感謝しなきゃいけないんだ。あんたのお陰でアステルに助けてもらえたんだから」


「ほう。あんた獣人か? それにしては信じられん美形だな。スタイルも俺好みだ。あんたも来いよ」


「まだ気づかないのか? この前あんたに見捨てられた地神柱の精霊だよ」


「な……なんだと!?!? あのババアなのか!?!?!? あんなシワシワの萎れババアが……こんな……マジか……」


「勿論、あたしも断る。勇者としての器もないし、今のあたしの居場所はここなんだ」



 うんうん、デリック君の気持ち分かるよ。ほんとびっくりだよね。

 普通ならだ。君のようにイケメンの男の隣には美女がいるもんだ。

 僕みたいなデブが2人の美しさのレベルを下げてしまってる事は分かってる。


 美女とデブだもん。釣り合う訳がない。

 だからデリックが今驚いてる事に関しては激しく同感する。



「ま、まあ……今考えなくてもいいぜ。ただアステルが試合で活躍する事はねぇんだよな。優勝はこの俺だってもう決まってるからよ」


「さあ……それはどうでしょうね」


「くっくっく。分かってねぇようだな美人のお姉さん。まさか本気でアステルが優勝出来ると思ってんの? スキル無しになったただのデブだぜ? 勇者である俺に勝てると?」


「はい、勝てます」



 ニコッと僕を見て微笑む女神様。



「ぐわっはっはっはー! おいデブ、てめぇ相当頑張らねぇと恥かくぞー! くっくっく! お! そうだ! じゃあこうしようぜ、俺がこいつに勝ったら、あんたら2人俺のパーティーに加わる。そこまで自信あんなら、これ飲めんだろ? んん? まあ俺に当たる前にやられるだろうがな」


「ええ、分かりました。貴方が勝った時は好きにして下さい」


「ならあたしも。あんたがアステルに勝ったら、そっち入ってやるよ」


「ちょ、ちちょっと、ふ、ふたふた2人とも!?」


「大丈夫ですよ。優勝は揺るぎませんもの」


「だな」


「ほ、ほう。そんなにこいつを信頼してやがんのか……! ま、まあいい。よし、約束だぞお姉さん達」



 太々しい態度を散々に撒き散らせると、デリックと羽の生えた少女は会場に向かって行った。



「あれは……あの羽の女は、空神柱の精霊か?」


「その様ですね。向こうも気づいている様でしたけれど」


「当代の空神柱はアルマティスのはず……あたしが封印されてる間に色々事情が変わってるみたいだな」



 あ、あの羽の女の子、精霊だったんだ。

 魔力を消してたのか全然気が付かなかったよ。そう言えば羽の女の子も美しい顔立ちだったよな。そんな事ばっかりに気を取られてたから、気が付かなかったんだろうな。


 ゴーンゴーンと言う鐘の音が街に大きく鳴り響く。これって確かもうすぐ闘技大会が始まる鐘だったと思う。

 まだ受付も済ませてないのに、このままじゃ優勝どころか出場出来なくなってしまう……。



「し、し試合がは、はは、始まる!!」


「急ぎましょう!」



 重たい神威刀を持って僕は試合会場へと走って向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る