episode 16 美狼女が仲間に加わった!


「戻れ……ですか……」


「う、うん」



 デリックは本当に卑怯な人間だと思う。君達を見捨てて自分1人だけここから逃げて……。そんな所に戻りたくない気持ちはすごく分かる。

 だけど君達はキングスナイトに戻るべきなんだ。

 まだ話し合いの余地はある。ここで彼と向き合わずに僕の所に来たら、君達も〝逃げてる〟事になる。


 少し厳し目に僕は彼女達を突き放した。

 幼馴染だから分かる部分もあって、きっと怖かったんだと思うんだ。暴言を吐き捨てて用無しって直ぐに口に出す人間だけど、本当は自分の力の無さに恐怖していたんだろうな。



「アステルが、そう言うなら……もう一度だけあいつにチャンスをやろうかな……」


「うん、そうだね。ここでアステルの所へ行ったら、私達もあいつと同じになってしまう。アステルは私達に敢えて厳しい言葉をかけてくれたんだよね。本当にその通りだよ……はぁ……アステル……」


「確かに……アステルの言う通りです。私達、アステルに支えられていたと言うのに、全くそれに気が付かず自分の力だと思い込んで慢心してました。罰を受けたんですね……私達」



 床に落ちてる聖剣ギグドラーン。勇者しか装備出来ない強力な武器をこんな所に忘れて行く様な奴だけど、僕は幼い頃に遊んだ記憶の中の彼を思い出し、本当はそんな酷い奴じゃないんだって信じたかった。


 近くに落ちてる鞘を取り、ギグドラーンを収める。

 鞘に収まっている間は聖剣の力が表に出なくなるから、僕の力が無くても問題なかったと思うけど、引き抜いた時に自分の魔力(ちから)で支えきれなかったんだな。


 これは勇者が持つべきもの。他の誰でもないデリックが持っていなきゃならないものなんだ。



「デリックに渡すね」



 そう言って近寄るセラにギグドラーンを託した。

 過ちを犯すのも人間。間違った方向に進んでいたら正してあげるのが仲間、友達だと思うんだ。

 大事な事だから真剣に今、彼女達に話してるんだけど、ふとっちょアステルのままだから中々言葉に出来なかった。


 神威フォームを使えば解決するんだけど、自分の中の熱い思いに集中し過ぎて忘れてしまってたよ。


 だけど美女3人衆は貶す事なく、真剣に僕を見つめ納得してくれた様だった。



「私達、じゃあもう行くね。デリックを探さないと」



 こうしてセラ、ミンシャ、リースと別れ僕達もこの洞窟を後にする。



「色々ありましたけど、修行の成果はバッチリでしたね」



 そう言って微笑む女神様。美しい……可愛い……最強だ……。



「あたしもついて行くべきなのか?」



 仁王立ちの様に両手を腰に当てて立っていたウルが、たった今別れた3人の後ろ姿を見ながら話す。

 そうか、勇者と魂の契約をして力を貸さないといけないんだよな。



「そ、そそうだね。き、きき、君の判断にまま任せるよ」


「あたしの判断でいいなら……あたしはあんたと一緒にいるよ」



 え……?



「……神導様に仕えるのが本来の精霊の役割、ですものね」


「そうだな。と言うか、まさか天聖様まで降臨されてるとは思ってなかったけど、どうして人間に……?」


「色々と事情があるのですよ」



 僕を次代の神導として導く為だよね!

 ん? あれ? ならそのまま答えればよかったんじゃない?

 どうしてウルに言わなかったんだろう。

 そう思いながらチラッとミレイネスの横顔を見ると、……なんか怒ってる? 複雑そうな顔をしてた。



「と言う訳でアステル。いや神導様」



 と言って片膝をついたウル。あの、ちょっとそう言うの慣れてないから勘弁して下さい……。

 ほら、早く立ってってば。女神様もなんか様子が変だし……普通でいいから。ね? だから早く立ってくれぇー。

 ウルは精霊として魔導士に数百年もの間封じられていた事を凄く恥じているようで、反省や後悔を語り出したかと思えば、僕に忠誠を誓うとか、幹である僕の下に戻るとか、長い長いお話を今聞かされてるんだが。


 元々精霊は神導の神気から生み出された存在、にしてもそんなに畏まらなくてもいいと思うよ? だって僕だよ?

 神様って言っても、中身はその辺の人間と変わらないただのおデブちゃんなんだから。



「わ、わわ、わ分かったから、も、もうた、立ってよ」



 そんなこんなで地神柱の精霊ウルが仲間に加わった。と、言ってもまだ僕達は冒険者じゃないから、仮なんだけど。

 磁石で言うところのS極とN極みたいな極端なベクトルの美を持つミレイネスとウル。

 活発とクールと兼ね備える健康美女。精霊って言っても耳と尻尾がある以外は普通の人間なんだよな……。敢えて言うが、彼女の体はエロい。狼の耳と尻尾を持ったスタイル抜群の女の子、女豹ならぬ女狼だなこりゃ。


 そう言う意味だと色気と言うジャンルで争ったらウルが優勝すると思う。ぶっちぎりに。

 ……女神様が今人間で良かったって思った。もし天聖だったら僕の心を読まれてたもんな……。


 と言う訳で僕達はそのまま次の目的に向かった。

 そう、あのブラックゴブリンの件だ。


 トリークやその周辺の小さな村の井戸の水を堰き止めて使えなくして困ってるってやつ。

 僕のあの説得で改心してくれてたらいいんだけど、相手は魔物だからな。

 とりあえず1カ所ずつ村を見て回って確認しよう。

 精霊の洞窟の入り口まで戻って来ると、ミレイネスが「飛んで向かいましょう」と言いながらクイックフェザーを詠唱してくれる。


 全ての村のチェックが終わった頃には、もう空は真っ暗、夜だよ……はぁ疲れた。

 驚く事に、井戸の水がどの村でも使えるようになってたんだ。そうか……じゃああのゴブリン達、僕の話を分かってくれたんだな。



「アステルの説得が効いたのですね。まさか魔物の心を改心させる事が出来るなんて……本当に素晴らしいです」


「で、ででも、こここ、これって、か、かか、神様の、ち、力だと、お、おお、思うんだけど……」


「いえいえ、神導にその様な能力はありませんよ。紛れもなくアステル自身の力です」



 と、ニコニコして言いながら、僕の耳元に口を持ってきてそっと「大好きです」と昇天呪文を唱えて来た女神様。

 ウルと言い、もうね……色んな感覚が刺激を受け過ぎて……たまらんです……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る