episode 15 ハーレム伝説の幕開け


「まさか……神導様だったなんて思わなかったよ」



 精霊は僕の神気を吸って、まともに会話が出来るまでになった。とりあえずこれで魔力の減少を自力で抑えられるだろうから、なんとか命を繋ぎ止められてよかったよ。

 今の僕は、何故か神気を使う事が出来なくなってしまったんだけど、神気がなくなった訳じゃないみたい。

 それが証拠に彼女は僕から神気を吸い取った。


 彼女は地神柱の精霊ウル。古の時代、邪悪な魔導士ゴルマによって呪いをかけられたらしく、僕が倒した白い獣は彼女の半身だった。

 呪いで2つに分かれてしまったんだって。


 元の1つに戻るには勇者と魂の契約を交わして、勇者が持つ破邪の力を持って解呪する。



「だけど、勇者はここから逃げて行ったんだ」



 ウルは少し寂しさを言葉に残して僕に言った。



「アステル、ではここから逃げている途中でわたくし達が発見したのですね」


「そ、そそうみたいだね……」



 勇者でありながら、瀕死だった精霊を助けず、仲間も見捨てて、1人で逃げるなんて……。いくら好き勝手やって来たデリックでも流石に許される事じゃない。


 ましてや、ずっと自分を慕っていた仲間を……ずっと苦楽を共にして来た仲間を、そんなにあっさりと切り離す事が出来るあいつに僕は疑問しか浮かばなかった。

 僕に対する暴言や仕打ちはもうどうでもいい。好きでいてくれた、信頼してくれた人を裏切る行為に僕は憤怒を抑え切れなかった。



「う、うぅ……」


「くっ……頭が……」


「……あ……れ。あた……し」


「アステル! 皆さん目を覚ましました!」


「アス……テル……? ア、アステルだって!?」



 ミレイネスの声にリースが驚いて起き上がる。

 目が合って僕は直ぐに逸らしたけど、じっと僕を驚いた顔で見てるっぽい。

 そりゃ目が覚めて追放された奴が目の前に現れたら、僕だってきっとビックリする。亡霊を見たみたいに腰を抜かせる自信はあるよ。

 セラもミンシャも僕に驚いて暫く言葉を失っていた。

 

 彼女達が少し落ち着いた頃に、ミレイネスはそっと口を開いて、デリックがここから逃げて何処かに行った事や、ボムパンサーの群れや白い獣は僕が倒した事、獣人の女性は地神柱の精霊だと言う事を伝えた。



「何が勇者だよ!! あんな最低の男を今まで好きだった事が本当にムカつく!!」



 そう言いながらリースはドンドンと足で地面を叩く。



「アステル、貴方があの魔物を? 10体以上はいたはずなのに……」


「本当、信じられませんね。だって貴方は継承の儀を受けてスキル無しとなったはずです。スキル無しは魔術は勿論、魔力さえも使えないただの人間。なのにどうして……」



 それに対して僕が答える事は無かった。

 神様になったんだって言っても信じてもらえないと思ったし。



「いや、今はそんな事より私達、これからどうすれば……もうデリック様……いえ、デリックの所へは戻れませんし……」


「アステル、貴方に謝るべきだよね。私達、貴方の事色々と傷つけて来ちゃったから」


「アステル、私も数々の失言申し訳ありませんでした。貴方の傷はそんな簡単に癒えないと思いますが……本当、ずっと盲目でした」


「あ、あたしも! ずっとアスデブとか言ってからかってごめん! こんな言葉なんかで済まないのは分かってる……だから……」


『アステルのパーティーに入れて下さいっ!!』



 みんな一斉に頭を下げる。

 まさかの発言で想定していなかったし、正直僕はどんな言葉を返していいか分からなかった。

 僕はまだ冒険者になってないし、君達をパーティーに入れる事は出来ないんだよね。それに……。



「雑用でも何でも使って!」


「虫が良い話ですよね……ですが、貴方の為に何か出来ないかと心から思いました。そう、罪滅ぼしです」



 沈黙、誰も次の言葉が出て来なかった。そんな彼女達の話を聞いてる途中で、突然僕の体にある異変が起こったんだ。それは嬉しい異変だった。

 感覚的に分かるんだ。僕は神気が使えるようになってる。

 試しに両手に神気を集めてみた。



 ボウッ! ボウッ!



 手のひらで白銀色に輝きを放つ光の玉、これは神気を圧縮させた塊なんだけど、ここまで高密度に神気を集められるなら元に戻ったって言ってもいいと思う。

 そして直ぐに女神様も僕の神気の変化を感じ取った。



「高密度の神気……アステル、神気が使える様になったのですね。それにしても何故あの様な現象が起きたのでしょうか」



 うん、僕なりに考えてみたんだ。

 初めはびっくりしてよく分かってなかったけど、今まで起こらなかった事が今回起きたって事は、きっとシールドが関係してると思ったんだ。


 ミレイネスが言ってた通り、シールドを常に使いながら行動する事って本当にとても難しい。

 前進と後退を同時にするようなものって例え、彼女がしてたけどこれ、本当にその通りだと思った。


 コントロールが難しい上に膨大な神気が必要になるから、多分だけど、神気を使いすぎて肉体レベルでの神気の扱える許容範囲を超えてしまって、それで神威フォームが切れてしまった。


 僕はこう考察してるんだ。



 神気が戻った今、僕が直ちにやらなければならない事があった。

 一先ず、神威フォームへ。



 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー!



「な、なな……な……!!?!?」


「あ、アステルの……体が……!?」


「な、何かの魔術でしょうか……!? いや、今のアステルはスキル無しのはず……どうして急に」



 そうだよね。おデブちゃんから、筋肉質に変身したらやっぱり驚くよね。

 別に君達に本当の姿を見せてカッコつけたかったから、神威フォームを披露した訳じゃないんだけど、こんなに驚いてもらえるのはちょっと気持ちいいかも……♪



「今からウルの呪いを解いてみるよ」

 

『!?!?!?!?!?!?!?』



 またまた驚く美女3人。



「い、今あんた……喋った!?」


「……この姿になると普通に話せるんだ」


「ほ、本当だね……」


「凄いです……一体どんな魔術なんですか?」


「てかさ、よく聞いてみると、あんたの声って……イケボじゃん」


「そうですね、優しさが滲み出てますね。しかしこんな魔術聞いた事がありません。どうやって身につけたのですか?」




 ミンシャだけさっきから興味津々だけど魔術じゃないんだよな。3人の相手は程々にして、僕はウルの所へ。



「あたしの呪いを? そうか、あんたは神導様だった。あたしの事を救ってくれるのか?」


「やれるだけの事はするつもりだよ」


「優しい神様だな……」



 勇者の力が神族に属するなら、僕がデリックの代わりに呪いを解く事も出来るはず。

 呪いはどんな種類の呪いでも、それを発揮する為の根幹は魔力だ。

 継続的な呪いなら必ず何処かからその魔力が流れて来ているはず……。


 ウルの話だと邪悪な魔導士ゴルマは何百年も前に存在した人間と言う事だけど、呪いが今も継続している事を考えると今も生きている事になる。

 呪いは相手が死ねば必ず解けるからだ。

 本当に人間なのか……? どんなに魔術に長けた魔導士であっても、寿命を何百年も延ばすなんて事が出来るのだろうか。


 ん、魔力の流れ……見つけた。

 ウルの魂に絡みついてる薄黒いモヤが見える。このモヤを吹き飛ばせば呪いが解けるはずだ。


 僕は神気をこの身に解放し、抜刀の構えを取る


「よし……行くよ!」



 ゴルマと同じく呪い自体も何百年も続いてるかなり強力なもの。そうそう簡単に破れはしないだろうから、完全に吹き飛ばす為にも神気を高めてみるか。


 この肉体でどこまでの神気を高められるか……。



「神威無双流……」



 魔力の流れ……集中力を切らすとすぐに見失ってしまうから、見失わないようにしないと。



「…………見えた! 霊破流影刃!!」



 シュパァァァァァァァァァァァァァン!!



 大きく刀を振り抜いた。

 霊破流影刃は見えないもの、霊的な存在を斬る抜刀技。

 呪いも例外なく斬れるんだ。正確には呪いの元になる魔力の流れだね。

 

 ウルの魂に張り付いてた黒いモヤは完全に消滅、つまり解呪成功だな。



「ほ、本当に、あれが……あのアステル……? やばい…………あたし惚れちゃいそう……❤︎」


「同感ですよリース。私も華麗な剣捌き、そしてあの真剣な眼差しに胸が高鳴りました。こんなに苦しくなったのは生まれて……初めての経験です❤︎」


「あの頃の、まだキングスナイトが結成された当初の頃のアステル……あの時は貴方の良さに気づいて無かったのかな? あぁ……アステル……素敵……❤︎」



 あらぁ……美女3人衆、べた褒めじゃない。



「あたしの……地神柱の力が……」



 ウルの呪いが解かれた事で隣に倒れてる白い獣、半身が光となって彼女の体の中に入って行った。



 ギュウイィィィィィィーーーーーン!



 シワシワだらけの肌に張りと艶が戻り、みるみるうちに若返って行ってる。まるで彼女だけ時間が遡っているみたいだった。

 おデブちゃんから痩せた体に変化した僕に驚いた美女3人衆も、そして僕やミレイネスでさえも、ポカーンと見惚れていたんだ。枯れた花が瑞々しさを取り戻すかの様に美しい姿に戻って行くウル。


 頭には狼の耳にモフモフの尻尾、漆黒に染まる髪の毛はショートカットのセラよりは少し長めでいて、無造作ゆるふわヘア。

 黒髪がよりクールな顔を引立たせ、クールビューティー感を際立たせている。

 


「美しい……」



 と、見惚れる女神様。いやいや貴方も相当お美しいんですがね!!

 ウルは女神様とは対局にいる美しさで、比べられないんだよ。

 

 みんなが注目する中、急にウルが抱きついて来たんだ。

 突然過ぎる事と、ウルの豊満なオパーイの感触が今まで経験した事のない何とも言えない柔らかさに、力が抜けてしまって神威フォームが解けてしまった。


 女子達、みんな口を塞いで驚きを隠そうとしてるんだけど、みんな隠せてないよ。



「凄い、本当にあたしを助けてくれたんだな」


「あ、え、ああ、ああ……こここ、これ」


「うん? ハグされるの嫌いか?」



 う〜ん、おデブちゃんじゃまともに話せん……。

 いや、全然嫌いじゃないです、寧ろ胸が当たって…………気持ちい……あ!? 今顔に出てしまったのではないか!?

 と、僕が心の中でもがいている時だった。

 本当に何の前触れもなく、全く予想外の展開に脳が追いついて来なかった。予想外過ぎて……


 周りからは「きゃっ」って悲鳴が上がるぐらい。


 僕はね、もう失神寸前だったんだ。

 感覚とかそんな事より、こんなに近くに顔があって……。



「わた……くしよりも先に…………」



 今、女神様がボソっと呟いたのが聞こえたな。でも振り返れなかったんだよ。

 だって僕の唇は今、ウルのとろけそうな唇で塞がっていたのだから。



『キ、キスしてるぅぅぅぅぅーーー!!????』


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