episode 14 オーディション -デリック視点-


「ダメだ、次」



 商人の街トリーク。ここの冒険者ギルドで俺はキングスナイトの新メンバーのオーディションをしていた。



「何? 各属性の最上位魔術を習得済みだって? 確かにステータスだけを見たら優秀な魔術士だがダメだ。てめぇはブサイク過ぎる」



 勇者って言うだけで人は集まるんだ。だが、雑魚ばっかだ。

 アルヴァニアで大きなギルドって言うとここトリークもそうだ。

 〝あいつら〟は俺が今まで組んだメンバーの中で実力もあり、面も良かったからな。

 クソ女達だったが中々あんな逸材はすぐには見つかる訳ねえよな。

 はぁ……やめだやめだ。こんなイライラした中でオーディションやっても理想の奴には巡り会えねぇ気がする。

 いっその事、アルヴァニアから出て世界に規模を拡げるってのもありかもな。

 だが、他の国に行く為の手続きとか面倒臭ぇんだよな。

 とりあえず、雑魚でもいいから手足として置いておくか。



「あのぅ、まだオーディションはやってるのですかぁ?」



 ちっ、まだいやがったのか。



「あーもう今日はしまいだ。また次、機会があったらな」



 俺は今日オーディションした奴の資料を見ながら、背中で返事を返した。

 手足として置いとく奴か……いや、それにしてもやっぱブサイクはダメだ。俺のモチベーションが下がる。



「そうですかぁ。メンバーたんは見つかったのですかねぇ?」



 なんだこの舌足らずでふわふわする、幼女みてぇな抜けた声は……。

 声からして女のようだが。やる気のねぇ声の主がどんな顔をしてやがんのか、オーディションで疲れていた今の俺でも少しだけ興味が沸いて来た。子供でも紛れ込んだか? 俺は振り返ってみたんだ。



 オレンジ色のツインテールにでっけぇ赤いリボンが頭に2個。フリフリのスカートから白い生足が見えるが、背が低いから子供っぽく見えてしまう。

 だが、乳は結構でけぇのがこいつのアンバランスさに拍車がかかっている。

 胸元にも赤いリボンがついてやがるな。こいつはリボンが好きなのか。今まで会った事のないタイプの女だった。

 顔は美女と言うより美少女って面だな。

 とりあえず俺の好みの範囲には入ってるから合格だ。



「お前の名前は?」


「レエナと言うのです!」


「よし、レエナ。お前は合格だ」


「はにゃ? ご、合格? ま、まだ名前しか名乗ってないのですがぁ」



 いいんだよ。俺の好みの女なんだから。

 だが、まぁ勇者としての一面もちゃんと見せておいた方がいいか。あいつらと違ってまだこいつは洗脳前だからな。



「何が出来る? クラスは何だ?」


「レエナは風と雷の属性を得意とするのです! クラスは……うぅんクラスと言うのはないのですぅ」


「なに? クラスがねぇだ? 女神からスキルを授かってねぇのか? クラスがねぇのに何で魔術が使えんだよ。今風と雷が得意だって言ったよな? だったら魔術士じゃねぇのか?」


「レエナは魔術士じゃないのです。レエナは空神柱の精霊なのですぅ」



 こいつ……今なんつった?



「精霊? お前が? 何処からどう見ても普通の……」



 と、俺はレエナを色んな角度から観察する。よくよく見てみるとこいつの背中に半透明の羽が生えてる……。虫の羽みてぇなもんが4つ確かに背中から生えてんだよ。こいつの服、背中が開いててそこから生えてんのが分かった。

 何でさっき気づかなかったんだ。半透明だったからか?



「た、確かに人間じゃねぇみてぇだな」


「レエナは4305代目の空神柱にこの前選ばれたのです。勇者たんが契約をするのに中々神殿に来てくれないって、先代のアルマティスたんが怒って空神柱の座を放棄しようとしていたので急遽レエナが選ばれたのですぅ」



 偉大なる精霊がそんな事で放棄する事なんてあんのか……。

 まあ、今回の勇者はまだ1つも契約してねぇからな。

 精霊の力を借りなくとも、とんでもねぇ力があったんだよ。……これまではな。



「そ、そうか。じゃあ俺と契約しに来たんだな?」


「そうなのです。ただレエナはまだ精霊としては未熟なので、勇者たんが契約出来る段階に達してるのか見極める為にやって来たのですぅ」



 なんか面倒臭い話だな。見極めるも何も俺は世界でたった1人の勇者なんだよ。段階もクソもあるか。

 さっさと契約して力を貸せばいいのに、未熟なのか知らねぇがこいつも馬鹿だな。

 と、内心は思ってる俺だがそんな事は表には出さねぇ。

 精霊であっても女には変わらねぇからな。俺色に染まるまでゆっくり育てて行くか。



「分かった。だが見ての通り、今は新メンバーのオーディションをやってて活動再開の事で頭が一杯なんだ。魂の契約の話はその後でまた進めてぇんだが」


「はいのですぅ!」



 こいつ、さっきから独特な言葉遣いしやがるな。

 変な女だが見た目は悪くねぇし、精霊ならそれなりに強ぇだろう。

 


 とにかく今日はこれでオーディションは終わりだ。

 勇者がいつまでも冒険者ギルドにいると暇だと思われて話しかけられまくりやがるからな。

 俺はそそくさとギルドを後にして、その足で酒場へと向かう。



「勇者たんはお酒を飲みに行くのですかぁ?」



 背後からふわふわの幼女声がしたかと思えばさっきの精霊か。



「なんだ? お前も酒飲みてぇのか?」



 歩きながら会話は続く。



「レエナはお酒に興味はないのです。レエナが興味あるのは勇者たんなのですぅ」


「俺もお前には興味があるぜ」


「わふぃ〜! 嬉しいのですぅ♪」



 わひー? 本当、独特な奴。

 酒場に着いた俺とレエナおまけは適当に空いてる席を見つけて座った。

 腹も減ったな……飯も食ってくか。



「勇者たん、前のメンバーたんは何故やめたのですぅ?」


「何で前のメンバーがいるって分かるんだ? そんな話してねぇのに」


のオーディションをしてるって勇者たん言ってたのです。みんなやめたのですかぁ?」


「あぁ……前のメンバーはな……」



 置き去りにして来たなんて正直に言う訳ねぇが、勇者に道を作るのは奴隷の当たり前の役割だ。そこに引け目はねぇ。

 だが、こいつを俺のもんにする為には同情が必要だろう……。



「実はな、邪悪な魔導士との戦いで……俺を庇ってみんなくたばりやがったんだ」



 ボソッと呟き、目を潤わせて悲しみを演出する。精霊の洞窟にいたウルとか言う精霊が、確か魔導士に呪いをかけられたって言ってやがったのを思い出してそれを利用したんだ。

 置かれた酒を飲んで何処を見る訳でもなくただボーッと思いに耽る。

 俺の迫真の演技はレエナの心に見事なまでに突き刺さった。

 チラッと幼女の目を見ると、こっちは嘘泣きなのに対し本当にポロポロと涙を零しやがった。



「そんな悲しい事が……うぇ〜んなのですぅ。うぇ〜んなのですぅぅ」



 悲しみも独特かよ。



「ゴルマめぇ! 絶対に許さないのです! むんむんカチカチなのですぅ!!」


「……ゴルマ?」


「邪悪な魔導士って1人しかいないのですぅ! ゴルマ・アムレット! 地神柱の精霊に呪いをかけて何処かに閉じ込めたのですぅ! 許さないのです! むんむんカチカチ!」


「な、なに!?」



 ま、まさかピッタリ当てられるとは……まぐれにしても今のはビックリしたぜ……。

 しまった……悲しみを演じてたのに急に素に戻っちまった……。

 だが、バレてはなさそうだな。



「おー! 勇者デリック様じゃないですかー! またまた可愛い女の子連れちゃって〜!」



 近くの席で飲んでた頭が禿げた客が、急に絡んで来やがった。ちっ、めんどくせ……。



「あれ? 今日は他のメンバーは? 超絶美女戦士様達が見れなかったのは残念だったなー」


「何なんだ!? 俺に何か用でもあんのかよ!」


「あ、いえいえ! 大会、頑張って下さいね! 今年も優勝間違いなしだな! わっはっはっは」



 ってぇな禿げ野郎が。バシバシと俺の背中を叩きやがって。

 大会頑張って下さいって何の事だ? 俺はそのまま疑問を禿げ野郎に返す。



「なーに言ってんですかー! 明日でしょ? 戦闘祭!」


「……あぁそうか。もうそんな時期か」


「今年はアステルも出場するんですってねー! 同じメンバーの方でしたよね? 確か凄腕の剣聖! デリック様と熱い試合になりそうで、もぉぉ〜酒が進む進む!」


「な、なんだとぉぉ!? あいつがぁぁぁ!!?」


「ゆ、勇者たん……急に大声出して……う、うるさいのですぅぅ」



 あいつは今スキル無しのただのデブのはずだろ……。

 そんな奴が大会に出るだと……?



「ふ……ふふふ……くっくっく!」



 丁度最近色々あったから、ストレスを発散したいところだったんだ。

 このハゲ親父が望む通りにしてやろうじゃねぇか。

 ただし、熱い試合にはならねぇがな。

 あのクソデブが、ただただ恥をかくってだけの試合だ。


 くっくっく……待ってろよアステル……。

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