episode 13 成果



 バッキィィィ!!



「ィギ!? ィギャアアアアアアァァァァァァァー!!?」



 神威刀の刃がブラックゴブリンの横腹に深く減り込んだ。

 普通ならこの一撃で魂も残らないぐらいの衝撃を受けて消滅しているはずだが、神気の乗った一撃が命中してもゴブリンは死ななかった。

 これはシールドが上手く機能してる証拠だ。


 まぁ…………のたうち回ってるけど……。

 それを何とも言えない表情で見守るブラックゴブリン達。

 うん、痛いと思うよ。でもこれでも相当、力を抑えたんだけどなぁ。



「ギ……ギギィ」


「アギィ……ア……」


「トリークの井戸の水、堰き止めてるの君達だよね? 他にも小さな村の井戸水を流れなくしてるの、分かってるんだよ。全部元に戻す事を約束してくれるなら見逃してあげるよ。君達もこんな風にはなりたくないだろう?」


「グ、……グゲゲェ……?」


「グガ、グガガ!」


「ギィーエ! ギィーガ! ギギィ!」


「うんうん、ちゃんとボスに相談して決めるんだよ」


「あ、アステル……魔物の言葉が理解出来るのですか!?」



 離れた所からミレイネスが僕に声を飛ばして来た。

 ん? 魔物の言葉?



「え? 知らないけど?」


「だって先程……会話していた様な……」


「ああ、ゴブリン達の顔を見てたら、なんとなくそうなんじゃないかって。……ほら」



 3体のブラックゴブリンは、この場にいるのが気まずそうに未だに転げ回る1体の体を、全員で揺さぶっていたところを指さしてミレイネスに見せる。



「た、確かに……言われてみれば気まずそうにしていますね……」



 その後、ブラックゴブリン達は何処かに走って逃げて行った。井戸水の件はまた後で、と。それよりも今気になってたのは、物凄く離れた所に微かに魔力の反応を感じたんだ。

 多分、この洞窟のもっと奥、もっと地下深く。

 凄く弱々しいんだよ。これが遠くで感じているからなのか、本当に消えかけているのかは正直ここからじゃ分からない。


 だけど、消えかけてると言う事は死にかけてると言う事だ。

 僕は急いで洞窟の奥へ奥へと進んで行く。あの魔力は、セラでも、ミンシャでも、リースでもなかった。全く感じた事のない魔力。何者かは分からないが消えかけてるんだ。

 もしかしたらとんでもない悪者かも知れない。もしそうだったとしてもこの目で確かめてみたいんだ。そして出来るなら救ってあげたい。

 

 地下4階を過ぎ5階、6階まで降りて来た。途中でまた別のゴブリン達に何回か出会したんだけど、多分最初のヤツのグループなんだろうな。僕を見るなり、みんな逃げて行っちゃったよ。


 そして7階。


 ここの階の奥の部屋までやって来たんだけど、行き止まりだった。階段がない。ただ、この部屋だけ壁の色なんかが他とは違ってるんだ。


 そして床には魔方陣が。

 絶対に何かあるに違いない、そう思っていたら……。



「これは……ラアダ語……の様ですね」


「ラアダ語?」



 ミレイネスのいた神界ラピュラリスには〝ラアダルーア〟と言う地域があるんだけど、どうやらそこの言葉がここの壁に書かれてあるらしい。



「でもどうして神界の言語がこんな壁に書かれてあるんだろう……一体、誰が……」


「きっとこれは精霊自身が刻んだのでしょう。神気を扱えない人間がラアダ語を理解出来ませんし、勇者は読めはしますが、やはり神気を扱えないので。わたくしも今は人間となりましたので完全に読む事は出来ませんが……頑張ってみますね!」



 両手に握り拳を作りガッツポーズを見せたミレイネスは、壁に手を当ててラアダ語を読解していく。

 神気を扱える僕もその気になれば読めるかも知れないんだけど、あんな可愛いガッツポーズを見せられて、何となく仕事を奪っちゃダメだって思ってしまったんだ。



「呪われし…………精霊の柱……今のわたくしで読める範囲だけでまとめると、この魔方陣の中に何かに封じられたと書かれてあります。このは申し訳ありませんが、言語を理解出来ませんでした。しかし封印されているのは恐らく、精霊の事だと思います」


「精霊の……柱」



 精霊はそれぞれ空を司る空神柱(くうしんちゅう)、海を司る海神柱(かいしんちゅう)、大地を司る地神柱(ちしんちゅう)と言う3神柱によって世界は支えられているんだけど、実は神界と人間界はこの精霊の力で霊的に繋がっているんだ。


 この精霊のおかげで人間は女神様から様々な恩恵を受けて生きてる。才能(スキル)もその内の1つだよね。



「精霊の洞窟ってそのまま、精霊が封印された洞窟って事だったんだな」


「ならば、この下から感じる魔力は、精霊のものなのでしょうか……とても弱々しいですね。呪われし……気になります」


「うん、行ってみよう」



 魔方陣に魔力を送ろうとした時、ふと忘れてしまっていた事を思い出したんだ。

 今の僕はスキル無し、そして神になった。肉体は持っているけど属性は人間じゃなく神族で、本来なら霊的存在。

 魔力は肉体を媒体として体内のエネルギーから発する力だから今の僕は魔力を扱えなかったんだ。

 だけど、天聖から人間になったミレイネスなら……そう思って振り返って声をかけようとした時、



「精霊への道を開くには勇者の力が必要ですが、神導である貴方は関係なく反応します。元々勇者の力は神に属する力なのですから」



 と言ってミレイネスは微笑む。



「それと言うのは、魔力も使えない、勇者でもない僕でも道を開けると?」


「勿論です! さあアステル、魔法陣へ!」



 ミレイネスに言われるまま、僕は神気を魔方陣へと送った。

 青白く光が描かれた魔方陣の形へ滑っていく。

 パッと強い光を浴びたかと思ったら、景色が一変。


 本当だ。勇者じゃない僕の神気に反応したんだ。

 そう頭が認識を始めようとする前に、僕は別の情報も同時に受け取っていた。


 それは魔方陣で移動して来たこの巨大な空洞周辺の情報。

 セラ、ミンシャ、リースが地面に倒れ気を失っている事、ボムパンサーが10体ぐらいいて彼女達を取り囲んでいた事、そして、大きい体躯の白い獣、その近くにうつ伏せで倒れている人間の様な存在、きっとこれが精霊だな。



 事態を一瞬で飲み込んだ僕はまず、ボムパンサーを一掃する為、素早く走りながら神威刀を引き抜き跳躍する。

 僕が空中へ跳んだのは、丁度ボムパンサーが集まっていたから広範囲に神威刀を振えば全員倒せると思ったんだ。

 だけどその中心には彼女達が倒れていて、このままだと巻き添えを食らってしまう。


 そう、こんな時こそシールドの出番だね。

 さっきのゴブリンと戦った時に確信したんだ。

 シールドの技術は完全にものにしている。だから、次のフェーズに移っても問題ないんだって思った。


 僕は彼女達を中心にして広範囲にシールドを張る。そして刀を大きく振り上げ刃に神気を溜めていく。



「神威無双流……竜尾十烈斬!」



 ブゥン! ブゥン!!



 刀に集めた神気は太い光となり、それは刀身を超えて伸びていく。刀を素早く十文字に振るとまるでムチのようにしなり少し遅れたタイミングでその光は、十文字に斬った斬線を追いかけ、辺りのボムパンサーを薙ぎ払った。


 巨大な十文字に地面が抉れる。


 僕がここへやって来てから技を振るうまで僅か4秒ぐらい。彼らは何の抵抗も出来ずに地面を這いつくばった。

 漏れなく全員気絶。あのブラックゴブリン同様、しっかりみんな生きてる。そして十文字に抉れた地面にはシールドで守られた彼女達3人の姿もある。


 うんバッチリ。これで大会も問題なく参加出来そうだ。



《だ……だれ……、あた……し……呪……ぃ》



 ん? このテレパシーは…………あの精霊から?



「アステル!」



 僕がその精霊に気を取られていた隙をついて、白い獣の巨躯が眼前に迫っていたんだ。だけど女神様のおかげで獣の攻撃を左手の鞘を使って防いだ。

 ふう……流石に油断してたよ。ありがとーー女神様⭐︎



「あ、あの様な巨大な足を……アステルは鞘の先だけで受け止めた……」



 ひぇぇ。こんな太い足なんかで踏み潰されたらいくら僕でも致命傷は避けられないんじゃないか? いや滅びるな……。

 と言うかその先についてる爪が軽く触れただけでも体真っ二つだよ……。



「グルルルルルル……」



 こうやって僕に唸って向かって来るけどこの白い獣、悪い気を感じないんだよな。

 何か引っかかるんだけど、とりあえず今はあの死にかけてる精霊を助ける事が先決だな。



「ミレイネス! そこの精霊を頼むよ!」


「はい! 分かりました!」



 僕は鞘でトンと軽く足を押し退けると、竜尾十烈斬を繰り出す。

 白い獣はボムパンサーと戦った時の、僕の技を観察していた。分かってるんだ、こいつは普通の魔物とは違うんだって。

 恐らく回避するだろうけど、神威刀の技はどんな事態に陥っても乗り越えられるように考えて作られているんだ。


 神威無双流は攻めの流儀。実はさっきボムパンサーに放った竜尾十烈斬は本来の使い方じゃなかった。

 僕は〝縮地〟を使って白い獣の背後に一瞬の内に移動して、またさらに竜尾十烈斬を放つ。


 これで白い獣視点から見れば前後から技が飛んで来る状態になった。

 この竜尾十烈斬って技は、神威無双流では〝置き技〟と言うカテゴリの技なんだ。

 文字通り〝技を置く〟んだ。

 こんな風に敵が仕掛けてくる方向、例えば前方や後方に置いて、自分は縮地で別の角度から技を仕掛けて行く。


 これこそが置き技の正しい使い方なんだ。

 だから置き技は発動までの時間が長い。これがデメリットでもあるんだな。



「グルルア!!」



 そう、前後から来る技を避けるには横に避けるか、後は跳び上がるしかない。

 僕は白い獣の行動を読めていた。必ず跳び上がると。



「甘い甘い!」



 ズガァァン!!



 縮地で跳び上がった白い獣のさらに頭上へ移動して、地面へと叩き落とした。



「ギャフゥゥ!?」



 ドオォォォォォォォォン!!



 獣の体が激しく地面に叩きつけられ、獣は衝撃で起き上がれない状態。そんなところにさっき置いていた2つの竜尾十烈斬が、倒れている白い獣に向かって十文字に光を払った。


 なす術もなく獣は全て食らってしまう。



「よし! 白い獣、戦闘不能っと」



 スタッと地面に着地して、白い獣が気絶しているのを確認。

 ちゃんと呼吸はしてるから死んでないな。完璧過ぎるぞアステル。

 うっふっふ〜女神様〜♪ 僕結構神気を使い熟せてるでしょ〜♪

 ねぇ〜女神様ってばぁ〜⭐︎



「え!?」



 あ、……あれ? 神威フォームが解けちゃった……。

 え、何で? まさかあんなデレ方をしたから?

 神様なのに、うっふっふ〜とかやっちゃったのマズカッタ?


 ってそんな冗談言ってる場合じゃない。勝手に解除されたんだが……あり得ないぞ。いきなり過ぎて胸やお腹を手で触って何度も確かめた。

 

 間違いなくおデブちゃんに戻ってるな。



「アステル! 魔力が尽きようとしています! このままでは……」



 そうだ、今はそれより助ける事が先だ。僕はミレイネスの下まで走って行く。神威フォームが快適すぎて、ただ走るだけでも疲れるよ……。神威刀も相変わらず重いし。

 ダメだ、もう一度神威フォームに……。



「し、ししん神気が……」



 神気が使えない……。何で? どう言う事?

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