episode 9 その頃、デリック達は① -デリック視点-


 俺達キングスナイトは、精霊の洞窟の地下4階でブラックゴブリン2体と遭遇。雑魚処理はミンシャ担当だ。



「……ミンシャ」


「開け! 我が魔力の扉! バスターフレア!」



 ボォファッ!

 魔力で圧縮された燃え盛る炎の塊がブラックゴブリンの1体に向かって飛んで行って命中したが、見たとこあんま効いてねぇ。



「…………ギギィ」


「そ、そんなはずは……。開け! 我が魔力の扉! バスターフレア! バスターフレアッ! バスターフレアァ! バスターフレアアァァァ!!」


「……ギィ…………ァ……」



 ちっ、やっと死んだか。さっきから一体何を手こずってやがんだミンシャは。こんな雑魚に連発しなきゃ勝てねぇなんて。



「はぁはぁ……はぁはぁ」


「おいミンシャ! お前さっきから何でこんな雑魚に時間がかかってんだよ」


「分か……りません。突然変異種でしょうか……?」


「はぁ? 何言ってんのよおばさん。ただのゴブリンじゃん」



 両手を眺めたり火の魔力を出してみたり、バスターフレアを壁に放ったり自分の魔力を確かめているようだが、ただのブラックゴブリン2匹だぞ……。


 ……そうか分かったぞ。きっと自分ばっかり雑魚処理をさせられてる事の、俺への僅かながらの抵抗だろう。

 だから敢えて魔力を抑えて手こずってる演技(フリ)をしてやがんだな。

 こいつら最近誰が1番俺に愛されてるかでよく揉めてるのを見てるからな。

 なら担当を変えてやるか。パーティーを抜けるなんて言い出しやがったらそれこそ面倒臭い事になる。



「リース、次から雑魚戦はお前がやれ。ミンシャは疲れてるみたいだからな」


「デリック様……」


「な、なんであたしがミンシャの代わりをやんなきゃなんないのよ……」


「デリック、リースは貴方の提案を断るんだって。雑魚は私が引き受けるね」


「悪いなセラ」


「ちょ、……ちょっと何勝手に決めてんのよセラ! 誰もやらないって一言も」


「そう? じゃあお願いするね」



 ったく、ギスギスしてやがるな。まあ今になって始まった事じゃないが。俺が一言みんなに優しい言葉をかけてやれば事態も直ぐに収まるんだろうが、俺はしなかった。

 この地下4階にやって来るまでに魔物と遭遇した回数は5回。

 5回全部ブラックゴブリンのような雑魚。俺達ぐらいのレベルになれば1人で十分相手に出来る。と言うよりもこんな雑魚なんざ一撃で倒せるんだよ。それがつまんねー演技しやがって。


 少々苛立ちを心の中に持ちつつ、俺達は洞窟の奥へと進んで行く。

 前人未踏の洞窟とは言ってもこの辺りはよくあるダンジョンの構造をしていた。

 Sランク級の魔物がいきなり出てくんのかと思いきや、ゴブリンかブラックゴブリンしか出て来やがらねぇ。

 

 〝精霊の洞窟〟なんて大層な名前で呼ばれてるが、誰がつけやがったんだ? 今んとこその辺にある洞窟となんも変わらねぇじゃねぇかよ。



「おい、何でここが精霊の洞窟って呼ばれてるか知ってる奴はいるか?」


「……さ、さあ……。地下100階ぐらいまで続くと言われている噂で聞くような情報ばかりですね……すみません」



 申し訳なさそうに目線を落とすミンシャ。他の2人も同じ様な表情を浮かべてやがる。



「そ、そう言えば……こう言う初めて訪れるダンジョンなんかはアスデブがよく調べてたっけ。分かんないけど」


「た、……確かにそうだね。調べてたような気がする」



 リースの話に相槌を打ってチラッと俺の方を見るセラ。

 なんだよ。もしかしてお前たち……。



「お前らまさか、あのデブがいた方が良かったなんて言い出すんじゃねぇだろうな?」


「え? そんな事ある訳ないよ。アスデブがいたら、洞窟(ここ)の情報を把握してたかもって思っただけだよ。あたしはデリックがいればいいよ。ほんとだよ?」


「私も同感です。逆に言えばアステルはそれぐらいしか役に立たなかったと言う事だと思います」


「精霊の洞窟って言うぐらいだから、精霊がいるのかも知れないね」



 地下5階、6階、7階と降りて行く。5階に降りてから急に魔物と遭遇しなくなったんだ。

 洞窟も分かりやすく、ほぼほぼ一本道。何のギミックもなくスイスイとここまでやって来たんだが……なんなんだこの洞窟。


 そんな事を思いながら7階の最奥の部屋まで辿り着いた。なんかこの部屋だけ他とは雰囲気が違うな。壁の色、床の色が違う。


 ん? 床に複雑な模様が刻まれてんな。

 なんだこれ。



「魔方陣か?」


「デリック、壁に何か書いてある」



 リースが目の前の壁を指さして俺に伝える。どっかで見たような何語かわかんねえ文字が、壁一面に書かれてあるから呪文なんだろう。適当に俺の考察を口にすると、奴隷どもは気持ち良いぐらい俺を崇めやがる。しかもこいつらは世界でも相当ハイレベルな容姿を持つ良い女。優越感が半端ねぇ。



「デリック様の言う通りだと思います! きっと魔方陣を起動させる呪文でしょう!」


「さっすがデリック♪ マジでイケメンだよぉ❤︎」



 さっきまでのイライラがどっかに吹っ飛んじまったんじゃねぇかっつうぐらい、すっかり上機嫌になった俺は壁の呪文や床の魔方陣を見てまた適当な考察を奴隷どもにしてやる。



「俺が思うに、この魔方陣は精霊がいる部屋に繋がってる。精霊は魔族に封印されていて俺達に解いてもらおうと待ってる。絶対にそうだ」


「そう、きっとそうだよ! だって他に下へ降りられる階段なんて無かったしね! きっとこの魔方陣の仕掛けを解けば何処かにワープ出来るんだと思う! デリックの言う通り精霊の部屋に繋がってるんだね!」



 って、セラが言うが、いつも冷静に物事を見ているこいつがこんな興奮するのは珍しいな。まあこいつのクラス的にも神秘的なものに興味があるんだろう。



「セラ、魔方陣に魔力を送ってみろ」


「分かったわ!」



 セラは嬉しそうに魔方陣の中心まで走って行った。

 そんで体から地面の魔方陣に向けて魔力を送る。

 こう言った仕掛けは実は初めてじゃねぇ。何かしらギミックがあるダンジョンは魔力をキッカケにして作動する事が多かった。だから今回もそれだと思ったんだ。



「何も反応しませんね」



 含み笑いでにやけたミンシャが俺のそばまできて、みんなに聞こえるようにハッキリと言った。まるでゴブリンの時の仕返しだと言わんばかりに。それにリースも便乗する。



「セラ、魔力もまともに扱えないんじゃ、このパーティーにいる意味ないじゃん。キャハハ!」


「い、いやちゃんと魔力を送ったよ。今思ったんだけど、もしかしたらデリックなら反応するかもしれないよ。精霊と昔から縁(ゆかり)がある勇者なら作動できるのかも! アルヴァニア大図書館で読んだ事あるの!」



 セラが言うのも一理ある。確かに古の勇者は精霊と関わりを持っていた時代があったんだ。それは有名な話でお伽話なんかにもなってやがるからな。

 そうか、精霊がマジでここに封印されてんのなら、それを解けるのは勇者である俺だけなんだ。



「仕方ねぇな。俺がやってやる」


「お願いしますねデリック!」


「やっぱり最後の最後に頼りになるのはデリックだよね♪ イケメンだぁ♪」


「デリック! 貴方の力で精霊を助けてあげて」



 黄色い声援をこの身に受けた俺は、カッコつけながら魔方陣の中心に立ち、大袈裟に精神を集中する動作をこいつらに見せる。

 3人とも目を輝かせながら胸元で手を組んで俺に祈ってる。

 そうだ、俺は世界でたった1人の勇者なんだ。

 俺には特別な力が宿ってる。精霊の封印を解けるのも世界で俺だけ。


 そう自分に酔ってる最中に思い出した事があったんだ。

 セラと同じく俺も、勇者と精霊の関係について歴代の勇者が遺した書物をアルヴァニア大図書館で読んで勉強してた時期があったんだ。

 戦術や勇者の力の引き出し方を学べるのかと思ってたが、歴史を語るものばっかで必要ないと思ったし、途中で読むのを辞めた。

 そん時に精霊語についての書物もあった気がすんだよ。ここの壁の呪文がどっかで見た事あったなって思ったら、そうだよ、精霊語だったんだ。


 だが、ここに書かれてる精霊語の意味を理解出来ねぇから、別にこいつらには言わなかった。カッコ悪いしな。


 ただそんな俺でも、この壁の文字の何個かは読めるものがあった。


 勇者、精霊、封印、結界、これだけだったが十分だった。

 つまりここに精霊が封印されてて、結界で魔方陣が守られてやがるから勇者によって結界を解けば魔方陣が使えるようになんだろう。



「み、見てください! 魔方陣が……!」



 魔方陣が鈍く赤色に光った。俺の魔力に反応してやがるんだ。



「へっ! 俺の思った通りだぜ!」


「素晴らしいですよ……あぁ、デリック……」



 やがて赤い光の上から青色の光が滑って上書きされて行く。

 これはきっと結界が破れたんだろう。俺達が青く光る魔方陣を眺めていると次の瞬間、ほんと一瞬だったがピカッとこの部屋が光ったんだ。フラッシュのように。


 瞬きする暇もなく、いつの間にか大きなフロアにいた。

 〝大きな〟って言ったが、街1つがすっぽり収まっちまう規模の大きさだ。周りには一切何も見当たらない。

 ん? このフロアの中心の空中に水晶のようなもんが浮いてやがんな。

 隣にいたセラもそれに気づく。



「デリック! あそこ!」


「あぁ、多分あん中に精霊が封印されてんだろう。セラ、クイックフェザーを詠唱(かけ)ろ」



 丁度俺がそう指示を出した時、空中に浮いてた水晶が真っ白に輝きを放ったかと思えば、ガラスのようにパリンと音を立てて割れてしまった。

 そんで何かが出て来たんだが、その得体の知れねぇ奴を中心に突風の波に吹き飛ばされ全員地面を転がった。



「ってぇ……」


「デ……リック、い……今治癒……術……を」



 ドオォォォォォォォォン!!



 光に包まれた何かが砂埃を撒き散らしながら、地面に着地しやがった。

 それは大きな光と小さな光に分かれ徐々に光が消えていくと、大きい光は白く輝く虎、そして小さな光は獣人のような姿をしていた。獣人は酷く年老いた雰囲気があり、完全に姿を確認出来た時には地面に倒れ込んでいた。

 

 こいつらが精霊なのか?

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