episode 8 冒険者になる為に


「59,600キャルトになります」


「…………」



 溶けた。

 高級なブリラントシュールの霜降りステーキ、まさかこんなに高かったなんて……。

 ミレイネスには絶対に値段を気づかれちゃダメだ。

 せっかく笑顔で幸せそうにしているのに、気にして落ち込んじゃいそうだし。



「お、お、おい美味しかったね」


「はい! それにとてもオシャレで可愛いお店でしたね! また行きたいな⭐︎」


「ま、ま、ままた……!? は、はは……」



 また行くかは置いといて、どっちにしてもお金を稼ぐ為に仕事しないとだよな。

 クビになった僕は今旅人。旅人なんて無職って言ってるようなものだ。

 仕事か……色々考えたけど、やっぱりギルドで冒険者で稼ぐ道しか無さそう。

 剣聖はなくなったが〝力〟はあるからね。


 と言う事で、僕達はギルドへとやって来た。

 ギルドで冒険者として活動するには登録をしないといけないんだが、その前に適性試験を受けなきゃダメなんだよな。


 その試験を受けて、自分が請け負える仕事のランクが決まるんだ。

 剣聖の頃はランクBだった。今の僕ならいきなりランクSも夢じゃない。

 受付に向かうとスキンヘッドのサングラスをかけた男が僕を見つけるなり驚いた顔で声をかけて来た。



「お、おい……アステルじゃねーか!? キングスナイトをクビになっちまって急にいなくなりやがるし、まあこうして無事に戻ってくれて安心したが、何でクビになったんだ? 剣聖を捧げたっつう噂が広まってるが、あれ本当なのか? ところで隣の美女は誰なんだ?」



 相変わらず一方的に喋るおっさんはここでギルドマスターをやってるギンジさん。

 見た目はイカツイけど、結構人情深くて良い人なんだ。



「初めまして。わたくし、ミレイネスと申します」


「ミレイネスちゃんね、ん? ミレイネス? なんかどっかで聞いた気がするが……こんな美人忘れる訳ねーもんな……気のせいだな! ここに来たっつう事は、冒険者登録すんだな?」


「は、はい」


「2人だな?」


「はい!」


「だ、だだダメだよ! ぼ、ぼうぼう冒険者は、き、きき危険」


「天聖の力は失われても、わたくしも、それなりに魔術を学びましたし、戦えます! アステルの役に立ちたいのです! それに……サリアさんの様な方を1人でも多く救いたいのです……!」


「う、う、うん」



 まあ、僕が守ってあげればいっか。

 それに一緒に行動してる以上冒険者でいた方が仲間だって言えるし、一緒に歩いていても少しは目立たなくなる。



「よっしゃ! それじゃ適性試験を受けてもらうんだが、その前に名前とクラスをここに書いてくれ」



 クラス……そうか、クラスの提示が必要なんだった。

 だけど僕もミレイネスもクラスはない。つまり〝スキル無し〟だ。どうする……ギンジさんに神と女神なんですって言っても信じてもらえないだろうし。

 とりあえず、スキル無しと言う事は伝えてみた。



「マジか……ミレイネスちゃんもか。参ったな……スキル無しは適性テスト受けれねー決まりなんだ。……アステル、お前やっぱ剣聖を捧げたんだな勇者様に」


「は、はい……」



 腕を組んだまま、う〜んと唸り続けるギンジさん。

 暫くして凄く言いにくそうに口を開いた。



「1つだけ、スキル無しでも冒険者登録が出来る方法があるにはあるんだが……」


「その方法とは?」


「3日後に戦闘祭が開催されるだろ? 闘技大会で優勝すれば国王からの推薦状を書いてもらえる。それがあればスキル無しだろうがギルドに推薦登録出来るんだ」


「つまり、その闘技大会と言うものに出て優勝すれば良いのですね?」


「そうだ。国王のお墨付きって事で色んな依頼が舞い込んで来るだろうぜ! 高額な報酬も期待していいだろう! ウチとしても戦闘祭の優勝者が所属する冒険者ギルドって宣伝も出来るしな!」



 ちゃっかりしてるなギンジのおっさん。

 ん? でもどうしてあんなに躊躇ってたんだろう。

 戦闘祭ってそれぞれ戦士達の技術を高め合う為に毎年行われてる闘技大会で、アルヴァニアに住む人間なら恒例のお祭りだ。

 闘技大会を見る為にわざわざ他国からもやって来る人もいるって言うぐらい有名だからな。



「だが、参加する戦士達はみんな強者ばっかだ。スキル無しとなったお前には過酷な戦いになるだろう」



 ギンジさん、スキル無しの事を気にかけてくれてたんだ。

 相変わらず見かけによらず優しいおっさんだよ。



「だ、だい大丈夫です。ま、ま、まださ、さ、参加出来ますか?」


「あぁ、そりゃあまだ参加は出来るが……お前、本当に出るのか?」



 勿論。今後の僕達の活動にはお金は必要だし、間違いなくこれはチャンスなんだ。



「お話を聞く限りだと、その闘技大会は1対1で行われるのですか? もしそうなら、わたくしはアステルと戦わなければならないのでしょうか……」


「あ、いやいや、ミレイネスちゃんは出場しなくていいんだ。あんたはアステルのパーティーって事で登録出来るからな。リーダーになる奴が登録出来ちまえばいいって事よ」


「……けれど、それはそれで余り喜べませんね。アステルだけが辛い思いを……わたくしはただ見守るだけだなんて……」



 大丈夫だよミレイネス。忘れた? 僕は神様だよ? 

 絶対に負けはしないよ。

 そうだ、大会までの3日間は修行に当てよう。実はオーガの一件で、ある技術を身につけなきゃいけなくなった。

 

 修行と言えば幻界だけど、幻界へのゲートは繋げられないらしいんだ。

 人間界と幻界には物凄い分厚い次元の壁があって、まだ天聖の力が完全に失われていなかったあの時の1回きりだったらしい。

 使えない以上、人間界(ここ)で修行して身につけるしかないよな。

 これが身につけば、神気をもっと気軽に使えるようになるはず。


 よし、そうと決まったら今から修行だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る