episode 5 修行完了と結婚への答え
「アステル様、お疲れ様でした。神導としての修行、そして神威刀の修行、全970,580項目全て終わりました。これで修行は終わりです」
「え……?」
はにゃ? 終わり? 女神様は一体何を言ってるの?
今さっき光の渦の中に入ったところだよ? 到着したらお疲れ様ですって……。
って、え? あれ? ここって教会の前じゃないか。僕は確かに光の渦の中に入って行ったのに。
入ってなかったのか? え? 何がどうなってるの?
「あ、あの……」
「はい? ……あ!? そ、そうでしたね! 人間のご経験しかされていらっしゃらないアステル様は、ご理解難しいですよね! 申し訳御座いません! ご説明致します!」
ミレイネス様の説明によると、僕達は確かに幻界に行ったんだ。
そしてそこで2000年間の修行を終えて今戻って来たところなんだって。
でもさ、全く何の記憶もないよ? 僕が最後に覚えてるのは光の中に入ったら目を開けていられないぐらい凄く眩しい光に晒されて、1回パチっと瞬きしたら教会の前に立ってたんだ。
こっちの世界じゃ、丁度あれから丸1ヶ月が経ったところらしい。2000年が1ヶ月で済んだって言う理解でいいのかな。
「幻界は時の縛りを受けない世界。人間界と作りが違っているので、現状のアステル様の記憶には残っていらっしゃらないのです。しかし、そうですね……あと20秒程すると向こうの記憶が蘇ってくるかと思います。わたくしがお見せしたイメージのような感覚で」
「そ、そそそうなんですね」
「アステル様、これで天聖としての役割は一応これで終えました。あとは、わたくしの」
ミレイネス様の話の途中で、いきなりバーっと幻界での記憶、永遠とも言える膨大な場面が瞬間的にイメージで流れて来る。
僅か1秒にも満たない時間で2000年間の修行の記憶が刻まれたんだ。
本当一瞬だったけど1時間1日1年ちゃんと思い出せるんだから不思議。でも思い出すととてつもなく厳しい修行で過酷で辛かった。
何しろ神気のコントロールに500年は費やしたからね。
幻界は時間がない世界、だから厳密に言うと2000年間1日1日を毎日過ごしていた訳じゃないんだ。
何と言ったらいいんだろうか。僕が何人も同時に存在してて、いくつもの僕が一気に事象を経験していく感じ。ふ〜む……上手く説明が出来ない。
でもそれは知識が制限されているからなんだよな。
神導としての能力も、神威刀の力も、肉体を持っている限り知識同様これも制限される。
「アステル様、神気を一度お使いになってみて下さい」
神に属する者は〝神気〟と呼ばれる力を使えるんだけど、神気の凄さを分かりやすく例えると1000の魔力で動かせる岩があるなら、神気を使うとたった1の力で岩を粉砕する事が出来る。
それぐらい恐ろしい力なんだ。だから無闇矢鱈に使っていいもんじゃない。特に人間界ではね。
僕は魂の奥から溢れる力、神気をこの身に解放する。
シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー。
煌めく青白い光のオーラに体が包まれた。
体が物凄く軽いんだ。そう、まるであの頃の僕に戻ったみたいな。
そう思いながら、僕は自分のプリンのお腹に目を落として確かめてみたんだ。
「!?」
もうね、綺麗な2度見をしてしまったよ……。
神気を纏った瞬間、僕の体が痩せたんだ。
体を取り替えたんじゃないかってぐらいスッキリしたお腹が、ただへっこんだだけじゃないんだよ。筋肉もついて、これこそまさに剣聖と呼べる肉体。
まあ、もう剣聖じゃないんだけどね。
「神気を発動中は、より神気が伝わりやすい体に自然に切り替わります。正しい言い方では〝戻る〟と言った方がいいですね。アステル様が発案されました」
思い出した。そうだった。
修行を重ねて行く内に僕の体は直ぐに痩せて筋肉もついて理想の体になったんだ。痩せてから神威刀の修行に入ったんだけど、僕自身の秘められた膨大な神気でこのままの状態じゃ抑え切れなくて
太った体と痩せた体、2つの姿を共有する形を取る事で神気を分けて封印したんだった。
太った僕は言わば神気を抑えた状態で、それで今神気を解放した状態になった。痩せた本来の体へ戻ったんだ。
痩せた状態は神威刀を100%の状態で扱える事から〝神威フォーム〟って名付けたの忘れてたよ。
神威フォームを切る、つまり神気をゼロまで抑えると……。
あぁ……お帰り、ふとっちょアステル。
「わたくしはどちらのアステル様も素敵ですよ。大好きです。うふふ」
「え、あ、は、ははぁ……」
ミレイネス様は本当にとても素直でストレートに気持ちを伝えてくれる。そんな直球で大好きなんて……どうしたらいいか分からず、黙ってしまう。
「アステル様が修行に励んでいる間、わたくしも色々人間として、花嫁として修行して参りました」
そうだ。ミレイネス様も僕と同様2000年間一緒に修行していたんだった。
人間としての生き方とか、女性としての……そう言えば料理を作ってる場面を思い出したんだけど、ミレイネス様……料理が下手くそで……。
こんな事直接言えないけど、味見を頼まれて何を混ぜたらこんな刺激的な味になっちゃうのかって思った記憶がある。
神界じゃ天聖って言う物凄く偉い神様だった訳だし、料理なんてしなくても誰かがやってくれたりしてたんだろうな。
500年は僕の修行に付き合って一緒にやってたけど、残り1500年はみっちりと花嫁修行をしてたんだよな。
僕と結婚したいって言う気持ちは本気なんだって分かったんだ。
そりゃあさ、こんなに美しくて素敵で女神様みたいな……って女神様か。
そんな雲の上の存在の女性が神様になったとは言ってもまだまだ未熟な僕なんかと釣り合う訳ないんだって。
そうミレイネス様に言ったんだけどね……。
「改めてもう一度、お伝えしますね」
深く深呼吸して、胸に手を当てる女神様。もう全てが絵になるくらいどんな仕草も素敵過ぎる。
何を言われるかは分かってるのに、何でこんなにドキドキするんだろうか。
「アステル様、この世にお生まれになった時からわたくしは、ずっと貴方様の事を見ておりました。まだまだ妻としては未熟ですが、心から愛してます。結婚して下さい!」
こんなの普通なら幸せ過ぎる事だ。僕の人生で一度として女性から結婚を申し込まれた事があっただろうか。いや、好きと言われた事もなかった。それどころか女性と2人っきりになった事もなかった。
それが今、2人っきりでこんなに近くに世界一と言ってもいいぐらいの美しい容姿をお持ちの、女神様から結婚を申し込まれてるんだぞ。
何を躊躇う必要がある? しかもミレイネス様は僕の容姿ではなく、僕の本質を愛して下さっている。
どう考えてもイエスだろ。
でもその一方で僕は女性との付き合い方が全くと言っていい程分からない。
そんな僕が出した答え、それは……。
「あぁ……アステル様……。そこまで真剣に考えていただけていたのですね。アステル様のお気持ち、とても伝わりました。はい! 勿論です! よろしくお願いします!」
僕は恋愛なんてした事ないし、結婚と言ってもピンと来ていなかった。ミレイネス様が本気で僕を愛して下さってるなら、僕も本気で考えないと。
考えに考えて僕が出した答えは、結婚より、恋愛より、まず相手を知るところから始めるべきだと、そう彼女に伝えた。
ツーッと涙を流す女神様。だけどその涙が嬉しくて流した涙だって言うのは顔を見れば分かる。そんなじっとは見れないけどね。
「アステル様、1つだけお願いがあります。わたくしに敬語は使わないでいただきたいのです。普通の人として、接していただきたいのです。ミレイネスとお呼び下さいませんか?」
「う、うん……わわかわかり、……わ、わわか分かったよ。じじじゃ、じゃあぼぼぼぼ僕もあ、あ、アステルってよ、よわ呼んでほほ、ほほし…………ぃ」
「はい、アステル」
ニコッと微笑んで僕の名前を呼んだ。
うん。今のは腰砕けそうになったぞ……女神の笑顔、マジで破壊される。
「まだわたくしの名前、言っていただけてませんけれど?」
「え、あ……。み、み、み、みれ」
な、なんだ。名前を呼び捨てで言うだけだろう。
そんな簡単な事が何で言えないんだ。
「ふ、うふふ。無理しなくても良いですよ。だけどアステルの口からいつか聞いてみたいな……うふふ」
「キャアァァァァァァ!!!」
悲鳴? 直ぐ近くだ。
僕とミレイネスは顔を見合わせて、直ぐに悲鳴がした所へと走って向かうのだった。
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