第4話 国際ラリースト勝山の視線

 先週のJAPANラリーはおしくも優勝を逃してしまった。前半に側溝にタイヤを落としてしまって、タイムロスをしたことが大きく響いていた。それ以外は、ステージベストを10回出し、トップ争いにからんだのは収穫だった。昨年に引き続きの優勝とはならなかったが、チームの信頼を得ることはできた。

 さて、今週は初のSUGOラリーへの参加。みちのくの地を走ることは初めてだ。雪が積もっているというコースもあるということで楽しみにしてやってきた。チームの本拠地であるフィンランドでもスノーラリーをしているが、それとはだいぶ様相が違うようだ。

 水曜日に現地入りをし、木曜日に下見(レッキ)を行った。1日目のコースはなかなかスリリングだ。林道コースは砂利道あり、泥道あり、舗装路ありと路面がバラエティだ。アクロポリスとポルトガルとモンテカルロに似た感じだ。砂利は結構大き目でボディを痛める可能性は大だ。それより、舗装路にある泥がやっかいだと思った。この林道は材木運搬用のトラックが使う道なので、山から出てきたトラックが泥を運んでくるのだ。ここで思わぬスリップにあいそうだ。

 スキー場の第3ステージは、今までに経験したことがないステージだ。駐車場の人工雪コースはアイスリンクみたいで、モンテカルロかと思うが、そこから登るスキーコースは初級のコースでありながら、結構斜度がある。登りはクルマの馬力に任せて登ることができるが、ところどころにある雪がくわせもの。とけてどろんこになっている。下りはコントロールが必要だ。WRCでこんなコースは存在しない。

 2日目のモトクロスコース脇の周回路は、ストレートがないカーブだらけのコースだ。落ち葉が多いのが気になった。モトクロスコース内の第6ステージは、ダートトライアルだ。クルマを壊さないようにしなければいけないと思った。

 3日目のSUGOのコースには参った。まずはラリークロスコース。サーキーットのコースやパドックをうまく使ったもんだと感心してしまった。周回路コースはJAPANラリーの公園内を走るコースに似ているが、後半にはびっくりした。周回路からレーシングコースにもどるためのグラベル道はジープ道だ。走る順が後ろの方だったら、わだちがすごいだろうと思った。ジャンプ台は小さ目だが、観客受けはするだろうなと思った。全9ステージしかないが、4日間に増やし、全20ステージになればWRCでも通用するかもしれないと思った。

 丸一日、レッキで走ったので、結構疲れてしまった。主催者との懇親会は早々に切り上げてホテルにもどって休んだ。


 1日目。青麻山ふもとの8kmの林道コース。蔵王町北原尾からスタートし、舗装路・泥道・砂利道と変化する。タイヤはマッド&スノー。基本は下りなのだが、ところどころ登りの箇所もある。砂利道がやっかいでアクロポリスのコースに似ている。他のWRCドライバーも悪戦苦闘しているようだった。今回はレースではなく、エキシビジョン参加なので、順位はつかないが、3位のタイムだった。第2ステージは、同じ林道コースの逆コース。50台が走った後なので、わだちがほれている。できるかぎりわだちに入らないようにしないといけない。サファリラリーよりは楽だが、国際ラリーなみのコースにはびっくりだ。

 午後は、スキー場のコース。ここでサービスを受けることができるので、タイヤ交換をしてスタッドタイヤにはきかえる。駐車場の特設コースからスタート。まるでアイスリンクだ。ハンドルを切りすぎると、すぐにスピンするが、そこはモンテカルロと同じ。平らなだけまだ楽だ。そしてスキー場の初級コースに入る。ふだんはジープタイプの4WDしか走らないコースをヤリスで走る。サファリとモンテカルロがいっしょになっている感じだ。WRCでは経験しないコースでスリリングだった。他のWRCメンバーも「Exciting!」と興奮していた。このステージはH社のNがトップだった。自分は2位だった。皆、無理はしていないみたいだ。

 2日目。SUGOのモトクロスパーキングをサービスステーションとし、その周辺を走るステージだ。狭く、落ち葉が多い。先週のWRC JAPANステージに似ている。ただ、直線は皆無に近い。常にハンドルを切っていなければならない。タイミングが少しでも遅れると、コースサイドの立ち木に激突する。距離は短いが神経を使うステージだ。わくわくはするが、楽しいステージではない。昨日のステージの方がおもしろいと思った。午後のモトクロスコースは、まさにダートトライアルだった。クルマは泥んこだらけになってしまった。クルマを壊したら大変なので、無理はしなかった。自分は3位のタイムだったが、WRCのメンバーの中には国内格式のクルマより遅いメンバーがいた。

 3日目。メインのSUGOサーキットを走るコースだ。ここを走りたくて参加したようなものだ。まずは、ラリークロスコース。メインスタンドには多くの観客がいる。これだけの観客はWRCでもなかなかない。日本でもラリーが認知されてきたというのは、嬉しいことだ。まずは、アウトコースでスタート。インコースはF社のTだ。スピード狂の走り屋だ。二つのジムカーナコースを抜けて、インコースでフィニッシュ。クルマ1台分負けた。でも、Tはジムカーナコースでパイロンに触れたということで、5秒のペナルティを受けていた。その後の走りは精彩を欠いていた。もっとも順位はエキシビジョンなので関係ない。

 最終ステージ。SUGOラリーの名物ステージ。最初の難所のトンネルに右サイドをぶつけそうになったが、何とか切り抜けた。その後の周回路は落ち葉と側溝に注意して走った。先週、愛知で走ったコースに似ている。違うのは周回路を抜けてレーシングコースにもどることだ。それも裏ストレート。最高速は200kmに達する。そこからハードブレーキングでグラベルに突っ込む。ここがわくわくする箇所だ。ミスすると砂利にタイヤをとられる。草地で滑るタイヤをコントロールしながら、ジャンプ台に向かう。ポルトガルやメキシコのジャンプ台と比べればかわいいものだが、観客が喜んでみてくれているので、力が入る。着地は草地でクルマが壊れる心配がないので思いっきりアクセルを踏んだ。予想より長い10mほどのジャンプになり、次のSPコーナーで曲がりきれず、第11ポスト前までいってしまった。危うくセーフティマットにぶつかるところだった。これでタイムロスをしてしまい、タイムは5位になってしまった。でも、観客の拍手はナンバー1だったと言われた。

 3日間走って、WRCメンバーの意見は好印象が多かった。一番はスキー場を使ったステージで、日本のモンテカルロラリーになりうる可能性があるという声が多かった。主催者や地元の方たちの努力を期待したい。


あとがき


 2022年のWRC JAPANを眼前で見て、またレース日でない日にコースを実際に走ってみて、自分では時速40kmでしか走れないところをラリーストはその倍のスピードで走っていく。信じられないことでした。その感激をもとに、自分の地元でラリーをするならどこでするだろう? という発想から生まれたのが。この「SUGOラリー」です。

 ヨーロッパに駐在していた時に、ラリークロスというレースをTVでよく見ていました。実際に見る機会はありませんでしたが、2台が並走したり、立体交差でクロスしたりして競っているのは見ていておもしろかったです。それができる場所を考えたらSUGOのパドックしか思いつきませんでした。それと、地元スキー場の初心者コース。夏に登山で歩いたことがありますが、ジープタイプのクルマでしか走れないようなところで、ここでラリーをやっらすごいことになるなと思って、ステージに入れてみました。冬にスキーで滑ると、ゆるやかなスロープなのですが、泥んこのあぜ道をイメージしていただければと思います。

 文章だけでラリーコースを説明するのは難しかったですが、SUGOに行く機会があったら、このラリーコースをイメージしていただければと思います。

 なお、レース小説はこれが第2弾です。「レーサー」というオートバイのレース小説をアップしておりますので、レース好きの方は読んでみてください。

                            飛鳥 竜二

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 SUGOラリー 飛鳥 竜二 @taryuji

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