第12話 岡山✖ 【ルェンゾリ王国】〇

 

「ここまで苦労したのに……俺は一体何の為に……」


 目的地と違う国にたどり着いてしまったという事実にショックを受けた俺は、四つん這いで地をい絶望を隠せずにいた。


 「ま、まぁそんなに気を落とさないでよ。それに、もしかしたらだけど成君ナルくんの言った事、間違ってないかもしれないんだし」


「……どういうことだ?」


「うーん……これは、私の勝手な憶測なんだけどね? ほら、見える」


 うながされるまま、わけもわからずレインが指で示した方向——この国の中心部を俺は見上げながら目で辿っていく。

 目の前に広がる、数百はあるだろう密集した建物を超えたはるか先、そこには周りの家がアリに見えるぐらいの、それはそれは立派な城が建っていた。


「うぉぉすげぇ! なんだあのでかいの! もしかしてあれが城って奴か! 初めて見た……あれ、でもさっき言った『間違ってない』っていうのとあの城が何の関係が……?」


 初めて見る城という建物に、思わず興奮しながらも疑問を口にする。そんな俺とは対照的に、遠い目で城を見つめながら、その問いに答えてくれるレイン。


「オカヤマ……『丘山』。まるで丘の上に建つ山の様な城、もしかしたら成君にこの国の事を『岡山』とは、今見えるこの光景をそのまま伝えちゃったんじゃないかな?」


「……ありえる」


 確かにあのバカ親父なら国名を覚えられず、そのまま抽象的に見た光景を俺に伝えようとするかもしれない。……そう言えば昔、色んな場所を冒険したとか言ってたが、具体的な国の名前は出て来なかったな……。


 くそ! 行き先ぐらいちゃんと手紙に書いてくれよ!


 俺を置いて村の皆とどこかに行ってしまった親父。地面を叩きながら思わず恨み節をぶつけていると、レインが真剣な眼差しでじっと俺の顔を見つめている事に気付いた。


「……そういえばさっき聞きそびれちゃったんだけど、成君はなんの目的で『岡山』に来る予定だったの? 良かったら教えてくれないかな。もうちょっと話を聞けば、色々分かるかもしれないし、力になるよ?」


 俺はその問いに、「なんて優しい子なんだろう」とここまで来ることになった経緯いきさつ話すことにした。


—————


「それは大変だったね……」 


 俺の話を聞きながら、うんうんと頷き優しい眼差しを向けるレイン。

 村の皆との別れや、森の中で死にそうになった出来事等、話している内にだんだんと気分が沈んでいった俺の頭を、気が付いたらよしよしと撫でてくれている。


 普段の俺なら、レイヤさんにされるのも恥ずかしがって拒否するんだけど、何故だか悪い気がせず、されるがままだった。


 「これは……確かにこの『ルェンゾリ王国』が出している試験案内状だ。じゃあここが成君の言っていた『岡山』であってるって事だね。……それにしてもなんで成君がこれを……いや、愚問だったね。精霊さん達も見えてたみたいだし、君ってやっぱりすごい魔法使いなのかな?」


 どうやらここが目的地の岡山……いや、ルェンゾリ王国であってるらしい。

本当に良かったと、俺は胸を撫でおろす。が、レインが手に持っている紙切れを見て俺は凍り付いた。


 それは、恐らく盗賊から奪ったであろう試験案内状。しかもその一部分は返り血が付いていた為、俺が拭いて所々文字が滲んでいる。

 これはまずいと思った俺は、サッとレインから奪い返すと、目を泳がしながら話題を逸らす事にした。


「魔法使いか……そういえばさっき俺の服を綺麗にしてくれた魔法あったろ? 普通の魔法とは違うーとか見えちゃいけないのにー……とか。あれは一体何なんだ?」


 「精霊魔法の事? うーんとあれはねー……どうしようかな」

 

 言いずらいことなんだろうか? 俺の質問に何故か考え込む仕草を見せる。まぁとりえあえず話題を逸らす事には成功だ。と、俺は心の中でガッツポーズする。

 

 「まぁここで恩を売るのもアリか、精霊さん達も見えてるみたいだし隠してもしょうがない。『貸し1』だからね?」


 少しだけ悩んだあと、俺にウィンクしながら人差し指を立ててくるレイン。さっき裸を見せたことは貸しではないんだな。とツッコミそうになる口を俺は抑えた。 


 「この世界で魔法を使うには、自らの体内に存在する魔力を消費する必要がある。ここまでは分かるよね?」


 「ごめん、俺魔法使った事ないから良くわかんない」


 「うんうん、そうだね…………えっ?! 君魔法使えないの?!」


 冗談でしょ!? と俺の顔を凝視してくるレイン。悪かったな、魔法が使えなくて。

 小さい頃レイヤさんと修行した事はあったが、才能がなかったのか一度も発動しなかった過去を思い出して、俺はガックリと凹んだ。


「魔法は使えないけど精霊さんはみえるんだ……」


 困惑しながら、「えぇ……どういうこと? じゃあなんで試験案内状持ってるの……」と呟くレイン。うん、その反応は中々傷つくから出来ればやめて欲しい。俺の暗い表情を察したのか、無理やり笑顔を作ると説明を続けてくれる。


「ま、まぁそれはそておき! さっきも言ったとおり、魔法っていうのは自分の体内に存在する魔力を消費して使う。だけど、精霊魔法っていうのは自分の魔力を使わない、その土地に存在している精霊さん達の力だけで発動する魔法の事なんだ。使える魔法の数は魔力量によって限界があるけど、精霊さんの力を借りるならほぼ無限。とっても便利だね?」……まぁ条件はある程度あるんだけど。と付け加えるレイン。


「なるほどな、それが普通の魔法と精霊魔法の違いなのか……あれ、だけどなんでそれが見えちゃいけないんだ?」


「えーと、それにも様々な事情があってだね……あ! ほら、見えてきた!」


 歩きながら、俺の問いに又もや考え込むレイン。すると、何か見つけたのか前方を指さしその方向を俺に促してくる。見れば、さっきまで全然居見当たらなかった筈の人がチラホラ見えだし、なんだか良い匂いまでしてきた。

 近づくにつれどんどん密度を増していくは、次第に俺の顔を驚愕に染めていく。


「なんだこの人だかりは……まさかこれが親父達の言っていた……」


 辿り着いた先の市場は想像したとおり、いや、それ以上の活気があふれていて俺は唯々ただただ言葉を失った。


「凄いでしょ? なんたってここがこの国の最も栄えてる市場だからね。通称『ルェンロード』ともいうんだ。今日は出会った記念に私が奢るよ、何でも好きな物を頼んでいいからね?」


「……レイン様」


「ふふ、よせやい」


 したり顔をしながら顔を赤らめ、『貸し2』だからね? とこっちに向かってピースするレイン。


 俺はさっきまでの疑問も忘れ、この先レインに困ったことがあったら何でもしてあげようと思った。

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俺は絶対に合体しない よしし @yosisi-ex

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