10話 初めて出会った外の人間
これまでのあらすじ
この物語の主人公である
村の皆や親代わりの両親と幸せに暮らしていたが、ある日突然いなくなってしまう。
しょうがなく旅に出る事になったが途中で食料は尽き、兎の魔物に襲われ、果てはいきなり現れた裸の少女に手を焼いていた所、暴漢と間違えられ首を撥ねられる一歩寸前に。
そんな中、やっとのことで目的地である岡山にたどり着いた主人公。当初の目的通り学園に無事入学する事は出来るのだろうか。そして主人公の背後に現れた謎の少女。
前途多難な主人公の冒険はまだ始まったばかりであった。
「……なにしてんだ?」
急に俺が振り返った事で驚いたのか、そこには片足立ちのまま両手を突き出すという、何とも奇妙な格好で固まっている少女の姿があった。
中肉中背の、身長は俺より少し低いぐらいか。顔はレイヤさんの様な美女と比べるとまだ一つ垢ぬけない感じだが、可愛いともキレイともいえる端正な顔立ちをしている。
首の下辺りで一つに結んだ背中まで伸びる茶色い髪が、そよ風によって白いワンピースと共に踊り、とても絵になっていた。……変な格好だけども。
「あ……いや、えーと、その……そ、そう背中!」
「背中?」
「そう! 君の背中や肩、凄い汚れてたから払ってあげようと思って!」
こちらを見ながらぎこちない笑顔でニコニコする少女。不審に思いながらもチラッと自分の肩を見ると確かに汚れている。というか良くみれば服全体が
……まぁそりゃそうだよな。あの森の中魔物と戦い、突然現れた裸の少女に手を焼かされ、果ては女剣士に殺されかけたりと茂みの中を走り回ったんだ。当然こうなるだろう。
だからといって、初めて会った人の背中を払うなんてそんな奴いるのか?
眉を潜めつつ、まぁ嘘は言っていないかと、とりあえずお礼を伝える事にする。
「あーほんとだ。お気遣いありがとう」
「あ、ちょっと! だめだめそんな事したら手が汚れちゃうよ。ここは私に任せて?」
「……?」
少女に言われた通り土埃で黒くなった服を払っていると、慌てて制止させられる。一体なんだと再び少女を見るとその手が淡い光を放っていた。
「森の精霊たちよ、この者の服を浄化させたまへ……
「うぉお?!」
少女が何やら魔法を唱えると、手に灯っていた淡い光が俺に移動し体全体を包んでいく。そしてみるみるうちにキレイになっていく俺の服。その光景に俺はポカンと口を開け唖然とした。
「す、すげぇ! こんな魔法があるのか!」
「正確には魔法じゃないけどね? 精霊さん達の力を借りてるだけさ」
フフン、と腰に手を当て得意そうな顔でドヤる少女。
てっきり俺の背中でも押して驚かそうとしてたのでは? と思っていたのを謝りたい。要塞都市の人間はこんな見ず知らずの人間にも優しいんだな。
「うわっ、コイツ女じゃねーのかよ」「きったねーなー、ペッペッ!」
「……え?」
「……ん?」
少女の優しさに感動していると、急に乱暴な言葉遣が聞こえてきて耳を疑う。
聞き間違いか? と少女の顔を見返すも、そこには首をかしげながらキョトンした顔で?マークを浮かべる少女の顔。
「どこ見てんだよ! こっちだよこっち!」
さっきよりもはっきりと聞こえた声の主。それは俺の服の方から聞こえた声だった。
淡い光のせいでボヤけているが、よく見れば
「うわっ! なんだこいつ、キモッ!」
「カッチーン! 可愛い女の子の頼みだからしょうがないと、せっかく掃除してやってんのになんだその言い草は! それにこの匂い……さてはお前男だな?! あーあ、キレイに掃除して損したぜ……このオカマ野郎!」
「……あぁ?!」
服をキレイにしてくれた事に対し悪態をついたのは確かに悪かったが、オカマ野郎とは随分な口を利くじゃねぇかこの精霊さんたちは。
とっ捕まえて振り回してやろうかと手を伸ばすが、案外すばしっこくてなかなか掴む事が出来ず手が空中をさまよう。
「……君、もしかして精霊さんが見えるの?」
その様子を見ていた少女が、まるで信じられない物を見たかの様に大きく目を見開いて声を掛けてくる。
「見えるも何もこんなハッキリ俺の服にまとわりついてるじゃねぇか! このっ! ……いだっ?! おい! どいつだ! 人の股間に蹴りを入れた奴は?!」
「いや、そんなはず……精霊さんはね、見えないんだ。ううん、見えちゃいけないはずなんだ。それが見えるって事はまさか君……」
「隙ありだぜ! オカマ野郎! オラァアアア!!」
「「えっ」」
何やら気になる独り言をブツブツと呟く少女。その言葉に気を取られ精霊を捕まえようとする手を止めた瞬間、俺のズボンはパンツごと精霊によってずり降ろされた。
「キ、キャァアアアア!!」
「バ、バカヤロー! やって良い事と悪い事があるだろう?! このクソ精霊!」
少女の前に露わになってしまう俺の息子。急いでズボンを履きなおし、空中を睨みつけるも、あっかんべーと舌をだしながらヒラヒラと舞う精霊達。
やがて、魔法の効果時間でも切れたのか、徐々に薄くなっていくとそのまま空中に消えていった。
残ったのは、顔を赤くしながら手で覆い隠す少女と気まずい沈黙だけだった。
……くそ、一体何でこんなことに……いや、今は目の前で少女に謝らなくては。
もはや第一印象は最悪だろうが、少しでも誠意を持ってこの現状を謝るべきだろう。ここで騒がれてこの間の女剣士に殺されかける状況になるのはごめんだ……。
「……あー、何か汚い物見せちまったみたいで……本当ゴメンな?」
「う、ううん、気にしないで。こちらこそ精霊さん達がイタズラしちゃったみたいでごめんね? まさか君が男の子だってなんて……それと、ごちそう様でした?」
頭を下げ少女に謝ってみると、以外にも大丈夫そうな顔で掌を左右に振る少女。
思ったよりも悪い状況には陥ってないらしく、俺はホッと胸を撫でおろした。
……何かおかしな言葉が聞こえた気もするけども。
それにしても、まさか『男の子だったなんて』と言われるとはな。
確かにしばらく髪を切ってないから少し伸びてるかもしれないけど……俺ってそんな女々しい顔してるのか?
精霊とやらに『オカマ野郎』と呼ばれたのもあって、肩を落としながら目元まで隠れつつある前髪をいじっていると肩を落としていると、目の前にニュッと可愛らしい手が差し出された。
「君、面白いね。このタイミングでなんだけど、私レイン。レイン=ユリナードっていうの。よろしくね?」
「……
「……プッ、アハハ」
「……フッ」
条件反射で手を差し出し、握手を交わすと互いに笑い始めてしまう。
どうやら向こうも同じ気持ちだったようだ。まさか初対面で下半身を晒し、そのあとに交わす握手があるなんてな。
兎にも角にもこうしてこの日、俺は外の世界の人間と初めての交流を交わすことが出来たのであった。
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