9話 岡山?


 

 ここルェンゾリ王国は数ある国の中でも鉄壁を誇る要塞国である。


 それというのもこの場所は、他の国から遠く離れた辺境の地に位置しており、ここにおとずれる為には険しい渓流けいりゅうを渡り、いくつもの山を越えなければいけないからだ。


 加えてこの国全体を囲う様に覆っている通称「魔の森」と呼ばれる森の中には、かつて魔王軍が拠点にしていた跡地があり、魔力の影響を受けた野生動物が狂暴な魔物へと姿を変え来訪者を待ち構えている。


 その為、敵対していた他の国が何度か強襲きょうしゅうをかけようと試みたらしいが、そのほとんどが険しい道のりに挫折ざせつしたり、やっとのことで山川さんせんを超えたと思ったら魔物のエサになってしまったりと、辿り着く事さえ出来なかった。


 そんな周りが魔物だらけの場所でここに住む人たちは大丈夫なのか? と思うかもしれないがその点は心配ご無用である。

 魔力の影響はこの土地に住んでいる人間にも作用しており、この国は魔法がとても発達しているのだ。


 そのおかげか他の国では不可能な大規模な結界を、国ごと覆う様に張る事が可能で、魔物はおろか敵対国がいかなる攻撃をしてきても通じないのだ。


 それに万が一結界を破ったとしてもこの「吾輩わがはい」が門を守っている限り侵入者を許すことはないのだがな。


 そう自信満々に意気込むのは、この国の南門を守る門番ベッキーである。

 ここで生まれて五十年、一度たりとも彼の許可なくここを通った者はいない。

 先代も先々代もこの国を守る為、雨の日も風の日もその命尽きるまでその役目を貫いたと聞く。


 そんな誇り高き門番の仕事、この先誰がこようとも吾輩がここにいる限り族の侵入を許す事はないのだ!……ないのだが。


「吾輩とても暇なのである……」


 キリッとした顔で決意を誓っていたベッキーだったが今日はいつになく暇だった。

 なんでも要塞強化の一環である学園入試試験を行うらしく、国の皆は見学しに行ってしまったのか、普段なら遊びに来るはずの子供や散歩しにくる老夫婦等、誰一人として出会っていない。


 空を眺めればゆったりと動く雲に、気持ちのいいポカポカ天気。なんて良いお昼寝日和なんだろうか。

 いかんいかんと思いながらも、睡魔がどんどん悪魔の姿へと形を変えて吾輩を誘惑してくる。


「クク……面白い今日の相手は睡魔か。相手にとって不足なし! だがたとえ睡魔と言えどもこの絶対防御を誇る吾輩を倒すことは出来んのだ!! クク……ぐぅ。」


 こうして自称絶対防御を名乗る門番ことベッキーは深い眠りの中へ落ちていった。



____________




「ハァ、ハァ、やっと見えてきた……」


 あれから何日経っただろう。

 杖を片手にフラフラと、鳳成おおとりなるは目的地である要塞都市にようやくたどり着いていた。

 

 森の中での出来事の後、再びあの女剣士に出会ったらたまらないと遠回りしていたら、随分と時間がかかってしまった。


 手持ちの食料はとうに尽き、途中狩りををしなければとも思ったが、魔物との闘いで近くの動物はみんな逃げてしまったらしく、ネズミ一匹出くわさなかった。


 しょうがなく食べられそうな木の実や昆虫を熱して食べてみるも、それだけでは全然腹の足しにはならず、こうなったら気は乗らないが旅人を襲ってでも食料を調達しなければと考えていたところ、ようやくそれらしい要塞が見えてきたのだ。


 ……冷静になって考えてみれば、こんな国の近くで盗賊紛いの事したらすぐお尋ね者になって入学試験どころじゃないけどな。

 まぁなんにしてもようやくここまで辿り着く事が出来た。学園入学試験はさておき、今はとりあえず飯を……ってどこから入ればいいんだろう。


 近くまで来てそれらしい入口を探すも、目の前には高くそびえ立つ壁が左右に続くばかりで全く見当たらない。

 鳴りやまない腹の虫も限界に近く、途方に暮れていると何やらのような音が聞こえきた。


 誰かが近くで昼寝でもしているんだろうか。

 丁度良い、邪魔をするのは申し訳ないが入口までの道を教えてもらおう。ついでに何か食べ物を恵んでもらったら最高だな。

 

 腹が減りすぎて冷静にならない頭が都合の良い事を思い浮かべる中、音の聞こえる方へと俺は進んでいく。


「なんだこれ……?」


 少し歩いてみると、それはそれは立派な城門が建ってた。

 見ただけで強固と分かるその分厚く黒く光る扉は、侵入者を拒みこの国に住む者を絶対に守るという固い意思を感じる。

 

 問題はその門の中央、天辺てっぺん部分だった。

 来訪者を見下ろす様に角の生えた鬼の顔の置物? が設置してあるのだが、なんとそいつがイビキをかいているのだ。

 外の世界ではこれが普通なのだろうか? よく分からないが俺はその鬼の置物に向かってとりあえず声を掛けてみる事にしてみた。


「おーい! ちょっと聞きたい事があるんだけどー!!」

 

 目の前まで近づき大きな声でしゃべりりかけてみる。だが完全に熟睡してしまっているのか全く起きる気配が無い鬼の置物。それどころか気持ちよさそうに鼻提灯はなちょうちんまでふくらまし続けている。


(うーん、勝手に入っちゃってもいいのか? いやでも、それで不法侵入と言われて捕まるのも嫌だし……というか近くでみたら思ったよりリアル生首で怖いな……)


 門と一体化しているのか、いびきをかく度に開きかける扉。入る事は簡単そうだが外の世界の勝手がわからず、又、空腹よりも好奇心が勝り、寝てる門を落ちてた枝でツンツンしていると、なにやら背中に視線を感じ振り返る。


「わっ! ビックリした!」


 見ればこの要塞の住民だろうか。小綺麗な服を着ている少女が俺の背中に向かって両手を付きだす格好で固まっていた。


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