2話 村の皆
「ヒャッハー収穫だー!」「
村に戻ると酒を片手に盗賊から奪い取った宝を並べ、盛り上がる村人達の姿があった。
俺は少し離れた場所に座り、酒を
その横では服まで剝ぎ取られ、パンツ一枚になりながらロープで縛られ涙目になっている盗賊の姿。うーん可哀そうに。
なんでこんなに強いのだろうかと昔一度聞いたことがあるが、なんとここに住む人は皆、過去に名の売れた冒険者だったらしい。
生き残りの魔王幹部と戦ったり、ドラゴンを倒したりと自慢話をよく聞かされた。
……本当かどうかわからないが。
その話がもし本当だとしたら何故こんな所にと思ったが、度重なる増税や貴族優遇の国の政策についていけなくなり、自ら国を出たそうだ。
「魔法矢を撃つなんてやるじゃねぇか! 痛かったぞこの野郎!」
完全に酔っぱらっているのか、森の中で熊の様な姿で暴れていた大柄な男が、笑いながら盗賊の脇腹を槍の先端でつつき始める。
たまらず座った状態で器用にぴょんぴょん跳ね回る盗賊達。その姿が面白かったのか、他の酔っぱらった村人達も加わると更にその手を加速させた。
「へへっ、おい、もっと宝持ってんだろ? 飛んでみろよへへっ」
「い、痛た、これで全部です! というかパンツ一丁で本当にもう何も持ってないだだだ。やめっ、やめてぇぇぇぇ!!」
うちの村に盗みに来てしまったばっかりに本当に可哀想に。
そんな中、ひと際大きいお頭と呼ばれた男が涙を流しながら悔しがる。
「クソッ! お前らの顔忘れねぇからな?! 覚えてろよ!」
「あら、まだそんな口が聞けるなんて凄いわね。本当にここから生きて帰れると思ってるのかしら?」
「「……えっ?」」
何故か盗賊達と一緒に動きが固まり、同じ言葉が出てしまう村人達。見ればトンガリ帽子の美女が杖を光らせながら構えていた。
サーッという音が聞こえそうなくらい顔を青ざめさせると、泣きながら命乞いをしたり股間から液体を漏らす盗賊達。それを見て満足そうに笑みを浮かべ体をぞくぞくさせるトンガリ帽子の美女。
「「うわぁー……」」
トンガリ帽子の美女に村の皆がどん引きするいつもの光景。
天国の顔もわからない父さん、母さん、この村は今日もいつも通り平和です。
「しかしお前も随分強くなったな。中々だったぞ? 盗賊を吹っ飛ばしたあの技」
「……親父か、なんだよ急に」
空を仰ぎ、顔も覚えていない天国の両親に報告していると、いつの間にか大柄の男が俺の隣に立っていた。
何を隠そう親のいなかった俺をここまで育ててくれたのが、この森の中で熊の様な姿で暴れていたリードの親父と、その奥さんであるトンガリ帽子をかぶった美女、レイヤさんだ。
この
他の皆とは違う変わった名前に、なんで俺だけと泣いた事もあったけど今では自分だけの特別な宝物として誇りに思っている。
その二人の愛情を受けたおかげで俺は寂しくなる事も、飢える事もなくここまで生きてこれた。親父とレイヤさんには感謝してもしきれないほどだ。
ふと幼い頃の記憶が蘇ってくる。
熱をだした時、ケガをした時、二人はいつも俺のことを熱心に看病してくれて……。いや、レイヤさんの治癒魔法で一発で治ってたなそういえば。
というかケガをしたのも親父に「修行だ!」とか言われて崖から落とされたからであって、熱を出したのも落ちた先の川で「泳ぎの練習だ!」とか言って長時間流され続けたからじゃねーか。
他にも色んな死にかけたエピソードが頭に思い浮かび、だんだん腹が立ってきた。
「あんな鼻ったれが本当によくここまで育ってくれた……」
「親父……」
息子の成長が嬉しいのか鼻をすすりながら涙ぐむ親父。そんな親父とは対照的に、額に血管を浮かび上がらせた俺は、軽く両手を左右に開くと必殺の構えをとる。
その様子に、抱擁のポーズと勘違いしたのか我が子に向ける慈愛の満ちた笑みで腕を広げる親父。
「オラッ!
「ぐほぉあ!?」
次の瞬間、俺は隙ありとばかりに全力で親父の腹に拳を叩きこんだ。
目にも止まらないスピードで一秒間に十数回拳を繰り出すこの技は、いかに強固な魔物だろうとその骨をへし折り致命傷を与える事が可能だ。
もしこれを人が受けたら死ぬかもしれないから絶対に使っちゃダメだよ? と教えられた対魔物用の技。キレイに全弾命中すると空に向かって吹っ飛んでいく親父。
だが、その巨体を空中でクルクルと回転させると、何事も無かったかのように態勢を立て直し着地する。あの大きな熊に変身する能力といい、本当に人なんだろうかこいつは。
「な、なにしやがる! このバカ息子!」
「うるせぇ! お前のせいで何回死にかけたと思ってんだこの馬鹿親父!」
「あー! 言ったなこの野郎!!」
ボコスカと親子喧嘩を始める俺達。
その様子を見て周りが「まーたやってるよ。仲良いなあの親子は」「いいぞーやれやれー!」とまくしたて、酒の肴にする。まったく本当に俺の住む村の皆はたくましい……。
「
喧嘩が終わるとレイヤさんが酒を
その横で、回復魔法も必要ないのかみるみる内に傷が塞がっていき、自然回復していく親父。やっぱ人じゃねぇなこいつ。
というか俺は本当に強くなっているのだろうか?
日々技を磨いてるつもりだが、親父と喧嘩するたび実感がわかなくて落ち込む。
「大丈夫だ、お前は強くなってるよ。ほら飲め飲め。あとレイヤさんここを頼む」
俺の浮かない顔を見て察したのか、そんな言葉をかけつつ酒を渡すと、中々治らない背中の傷の一部を俺に見せ、回復魔法をかけてもらう親父。それを見て俺はパァッと表情を
「ほんとだ、殺す気で殴ったかいがあったよ」
「おい」
俺のボケに的確に突っ込んでくれる親父。このやりとりがとても好きだ、家族団らんという感じがする。……殺す気だったのは本当だけどな。じゃないと傷一つつかないもんこいつ。
「もうそろそろ、良い頃合いかもしれんな……
ふいに、そんな考えても見なかったことを言われ俺の目は点になる。
「なんだよ急に……それに外の世界って親父達が捨てた国の事か? そんな所出てなんの意味があるんだ?」
「それはそうだが……世界は広い。色んな体験が出来るしお嫁さんだって出来るかもしれないぞ? それにお前はまだ若いんだ。こんなおじさんやおばさんしかいない所で一生を過ごすのはもったいないだろう」
「誰がおばさんだこの野郎」
ゴゥッ! とレイヤさんから火の玉が飛んできて親父共々アフロの髪型にされる。
なんで俺まで……。それに、外の世界ね……。
親父達が見捨てた国。大勢の人達が行きかい、魔法と剣が飛び交うファンタジーの世界。そして、同じ人間同士で争い合う醜い世界。いや魔法と剣ならここで十分飛び交ってるなそう言えば。
「……やめとくよ。俺はここで皆と一緒に暮らしたい、それが俺の幸せだ」
捨て子だった俺をここまで育ててくれた親父やレイヤさん。そして気のいい人達がいるこの村。ここで仲良く暮らすこと以上の幸せが、外の世界に出てあるのだろうか? それに……。
「親父達がじいさんばあさんになったら誰が世話するんだ? そんな役をこなせるのは俺だけだろ?」
「成坊……」
飲んだ直後に動いたせいで酔いが回ってしまったのか、普段なら言わない臭いセリフを吐き出してしまい途端に照れくさくなる。
「な、なんか眠くなってきちまったな、もう寝るぞ俺は……」
明日も、その又明後日もこうやって皆とバカなことをしながら楽しく過ごす。そんな幸せな日常が少しでも長く続くことを祈り、俺は夢の中へと落ちていった。
だがそんな俺の希望は叶うことがなく次の日、目が覚めると俺の村の皆はいなくなっていた。
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