開幕
この世には、絶体絶命という言葉がある。
「どうにも逃れようのない差し迫った状態や立場にあること」
辞書等で調べてみると、このように出てくる。
今の俺の状況を表すにはぴったりの言葉だった。
学園の校舎内、その廊下の中央部分に
前方には武装した集団が十数人程か、鋭利な先端をこちらに向けジリジリと間合いを詰めてくる。
退路はないものかとチラリと背後に目をやるが、こちらにも呪文を唱えながら手に持った杖や剣に魔法をまとい、その矛先を何故か俺に向けてくる仲間の姿。
「どうしてこうなった……」
思わず心の声が漏れてしまう。
いつ攻撃を仕掛けられるのかと冷や汗が止まらず、心臓の音が激しく鳴り響く。
「フフ……緊張してるんですか……?」
隣にいる、この原因を作った張本人である美少女が、腕に巻きつく様にすり寄ってきて俺は頭を抱えた。
「言っとくけどお前にじゃないからね?! この状況に対してだからね?!」
本音を告げるも美少女の心には届かず、「照れ屋さんなんだから」とばかりに怪しく笑いこちらを見つめてくる。
こんな状況でもお構いなしなのか、まるでこの世界に二人だけのような雰囲気を
ふいに、そのお人形の様に整った顔を赤らめながら俺の耳元に口を近づけると、その姿には似合わない
「
美少女の放った言葉に空気が凍り付き、その場にいる全員が時が止まったかの様にピタリと固まった。
周囲を見渡すと皆目が点になっており、中には口から魂まで抜けていそうな者も。
「とても……静かですね……このまま時が止まってしまえばいいのに……」
「奇遇だな! 俺も同じ事思ったよちくしょう!」
予想通りだが冷たい視線というか殺気が、俺を取り囲む全方向から飛んでくるのを感じ、逃げられない事を悟る。
あぁ神様、いやこの際悪魔でもなんでもいい。誰か俺をこの窮地から救ってくれ。
そんな願いもむなしく、もう我慢の限界だったのか一人が魔法を放ってきた。
背後から飛んできた、人一人飲み込めるぐらいの巨大な炎の塊をなんとか紙一重でかわし……ん……? 背後?
「……っておい! お前仲間だろうが!! なんで最初に撃ってくるんだよ?!」
「うるさい! 裏切者には制裁です!
その小さな体には似合わない強力な魔法を唱えてきた少女が、涙声で精一杯叫ぶとその様子を見てか、周りを取り囲んでいた奴らまで罵倒を飛ばしてくる。
「あんな小さい女の子にまで手をだしたのか……」「最低だな」「クズが……」
容赦ない言葉が嵐のように俺の心に突き刺さり、思わずこっちまで泣きたくなってしまう。
「ち、違うんだ! 皆聞いてくれ! これは誤解だって……んぐ?!」
弁明しようとした矢先、急に柔らかい何かで口を覆われ言葉を遮られてしまった。
至近距離には先ほどまで隣にいた美少女の顔。サラサラの髪が頬をくすぐり、甘い匂いが鼻腔を付く。
「これで誤解ではなくなりましたね……あぁ、この時をどれだけ待ったことか」
気付けば俺はキスをされていた。
わけもわからず狼狽える俺とは裏腹に、上着をはだけさせながら冷静に事を進めようとしてくる美少女。ほんとこいつ何してるの!?
「千年ぶり……とでも言うのでしょうか。さぁ、私と合体しましょう」
「
美少女が言い終わるのと同時に、前と後ろから斬撃や魔法が一斉に飛んでくる。
もはやこれまで。避けるのは不可能と判断した俺は、最後の力を振り絞ると防御態勢をとり、大きく息を吸い込んだ。
「俺は絶対にッッ!」
そして周囲を見渡すと、全力で叫んだ。
「合体しない!!」
断末魔ともとれなくもないその叫びが、攻撃の爆風により儚くかき消されいく中、
吹き飛んでいく自分の体をスーパースローで違う場所から眺めている感覚が襲う。
ほんとどうしてこうなったんだろうか。
薄れゆく意識に身を預けると、次々と頭に浮かんでくる走馬灯の中へ
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