第36話 食卓と、戦いの後始末
屋敷に戻った俺は、祖父や兄、姉や母と夕食のテーブルについていた。
シアもお腹が空いていたのか、物凄い速度で食べている。
喉を詰まらせてはいけないよ、と、シアを撫でつつ、食事をしていると、、
「聞いたぞ、エルフの里に行ってきたのだってな」
祖父がそんなことを言ってきた。
「エルフたちを助けた、と聞いたが」
「はい。その縁があって、今度農園の手伝いにも来てくれるとのことです」
「おお、新しく力を貸してくれる方が来るのか!? さすがは俺の弟! 人望が厚くてうれしいぞ!」
兄は嬉しそうに褒めてくれる。
「ありがとうございます。それで、エルフの方々にも魔王城跡地で作物を育ててもらおうとも思っています」
「人手が増えるのは大歓迎だ。アルト、君が決めたことならば、ワシは何も文句はないともさ。あそこは君の戦いの場所なのだから」
「はい!」
祖父も嬉しそうだし、近くにいる姉も母もニコニコしている。
何気ない、いつもの夕食のテーブルではある。
今日初めて作物を売りに行って、エルフの里でドーズを倒して、本当に色々あった。
今までにないくらい忙しい一日だった。
だからか、より強く思うのは、
……やっぱり、家族のいる中で、温かいご飯を食べれるのは、いいなあ。
皆で食卓を囲むのは素晴らしい。
更に、食卓に並ぶ食材も、自分たちがとってきたもので、それでみんなが笑顔になってくれている。
シアも隣で幸せそうにご飯を食べている。
それを見ただけで、また頑張ろうという気力も湧いてくる。
……もっと美味しい野菜や果物を育てて、皆、お腹いっぱいの笑顔に出来るように……!
そんなことを思いながら、俺は夕食の時間を過ごしていく。
〇
夕食のあと、寝室に戻った俺は、シアと会議をしていた。
議題は、目の前にある、小さな黒い石についてで、
「そういえば、ドーズを倒した時に出た魔石、貰ったけど。これ、どうしようか」
なんだか、黒いもやもやが出ている。普通の石とは言い難いものだ。
「もともと魔王が作ったものだからね。魔王の魔力の残滓が残ってるんでしょ」
「アディプスもそんなことを言ってたね。土にまいて良い影響が出るかどうかわからない、とも」
エルフの里の皆にとっても、必要ないものであり、見たくもないものであるということで、なんとなくもらってきてしまったのだけれど。
農地に使おうにも、いい影響が出るか悪い影響が出るかすらわからないのが現状だ。
「使い道、ないよなあ。ギャンブルで土をダメにしたくないし」
「そう? いらないなら、私が食べるけど」
「食べるって、栄養あるの?」
「あんまりないわね。魔力もほとんど残ってないし。ただ、私は昔から、お腹を壊したことないことが自慢でね。こういう厄介な魔力の結晶とかよく食べてたのよ」
「そうなんだ。……美味しいの?」
「舐めてみたらいいんじゃない? 毒はないから」
なめてみた。
苦い。
祖父やメイドたちが嗜んでいた珈琲を思い出す。その豆を直接噛んだ時くらいには苦い。
「……あんまり美味しくないね。エグみがすごいや」
「……言った私が言うのもなんだけど、ノータイムで舐めるの、危ないと思うわ」
「だって毒じゃないんでしょ?」
持ち込むときにしっかり洗ったし。
「ホント純真だわ……。ともあれ、要らないなら、はい。食べさせて」
シアはあーんと口を開けている。
その口内に静かに置くとバリバリとかみ砕いて、あっという間に飲み込んだ。
「はい、これで処理完了」
「ありがとうね、シア」
「良いの良いの。もしかしたらいいことがあるかもしれないし」
「良いこと?」
「体に合ってたなら、の話なんだけど――ああ、あってたみたい」
と、シアが視線を送った先は、ベッドの横の棚。そこに置かれたスキル表が光っていたのだ。なんだろうと思ってみると、
『魔王の結晶取り込みにより、契約者が所有する軍団が、一律で3レベル、アップしました。合算します。
《羊飼い》アルト・グローリー レベル460』
「レベルが数十個上がったんだけど……」
「あら、小当たりね。相性が良ければもっと上がるんだけど」
人生何十年分ものレベルが上がったのに、これが小当たりとは。
「お、大当たりもあるの?」
「稀にね。ともあれ、良かったじゃない。力になって。明日からまた忙しくなるんだしさ」
あっさりと言ってくれるが、実際その通りだ。
「そ、そうだね。開墾作業にはいくらあっても良いんだし。この力を活かして頑張ろうか」
明日からエルフから受け取った種を植えたり、経過観察をしたり、そもそも畑を拡大したりとやることは山ほどあるのだ。
……うん。やれる事が増えるというのは、嬉しいことだよなあ。
明日を楽しみにしながら、俺は眠りにつくのだった。
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