第35話 得たものは作物だけでなく
リリーボレアのギルドに戻った俺は、商談を終えてホクホク状態のミゲルと合流した。
「おお、お帰りシア君。アルト君……ずいぶん服が汚れているようだが、エルフの里で何かあったかね?」
「あ、ちょっと畑仕事を手伝っただけです」
別にドーズを打倒したことを言う意味もないし、実際、畑仕事の手伝いであることは変わりないのでそういうと、ふむう、とミゲルは頷き、
「ま、君がそういうのであれば、そういうことにしておこうか。もう時間も遅いし、送り返さねばならんしな」
「すみません。お手数かけます」
「何を言うかね! 私は今日、君のお陰ですっかり儲けさせてもらったのだから。儲けの前では細かいことは気にしないのが、商人の心というやつだ。そして、これが君たちの分だ」
言って、渡してきたのは、皮で作られた巾着袋だ。
ガチャリ、と音を立てて、俺とシアの手の上に置かれたその中には、金貨が詰まっている。
金貨一枚で1万ゴールドなのだが、明らかに何十枚も入っている。それが二袋だ。
「おお、結構な大金ね」
「えと、このお金は……?」
「すべて私に任せると言われたからね。しかと儲けたとも。私と君達とで分けて充分だと思えるくらいにね」
「こんなに、良いんですか? 俺、何もやってないんですけど」
入っている額は、ざっと見ても数十万ゴールドはある。
実家で、お金を扱っている所を見る機会はあったし、これ以上の大金を、祖父らが扱っているのを見たこともある。
けれど、自分の手にそれがあるとなると、また話と印象が変わるのだ。
だから、本当にあっているのかと聞いたのだが、
「何もやってない? 違うよ、アルト君。君は品物を作った。これだけですでに一仕事なのに、君は私を信頼して任せたね?」
ミゲルは冷静に言った。
「商人を信頼して任せる。これも一仕事だ。君は、仕事をいくつもこなしている。そして、商人は信用されると嬉しくなるものでね。報いたいと思って頑張るものさ。――だから君には受け取る権利があるんだ。分かったかい?」
「は、はい……。では、有難く頂戴します」
「そうしてくれたまえ。――まあ、私としても打算がないわけではない」
そう言いながら、ミゲルは、俺の背後を見る。
そこには、デュランタから貰ったばかりの袋が詰まれていて、
「もし、新たな作物が育って、さばき方に困ったときは、いつでも言ってくれたまえ。今後ともよろしく、というやつだ」
「あはは……。その時は、また相談させてください」
「うむうむ。さて、それでは、馬車に積み込んで帰ろうか。あまり長く拘束しては、君のご家族に怒られてしまうしね」
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