第33話 農場で一緒に働く仲間を得る


 ドーズが塵となって消えていくと同時、氷によって作られた分身も砕けて、わずかな煌めきを見せた後、水すら残さず消えた。


 あとには、割れた魔石のみが転がっている。


「終わったみたいね、アルト」


 隣に立ったシアはそう言った。


 すっかりテンションが収まったハバキリを、召喚元に返しながら、俺は彼女に聞く。

 

「普通のドラゴンだったら躯が残るけど、違うんだね」


「ええ。殲滅兵器として作られたものが死ぬと、核となっていた魔石が残るだけだから。倒せた証とも言えるわ」


「そっか。許容できない相手だったし、いまだに許せないけど、倒したのだから弔うくらいはしたかったのだけど。……体も残らないって、何だか物悲しいね」


 エルフを、一つの種族を滅ぼそうとして、やったことは絶対に許容はできない。けれど、目の前に残った魔石だけを見ると、もの悲しさが少しある。

 

「優しすぎるわよ、アルト。他種族の絶滅をプログラムして作られたものだから、倒されるまでずっと被害を出してくる輩相手なのに。……まあ、そんなやつ相手でも、思いやれるそこが良いところなんだけどさ」


 などとシアが言っていると、

 

「アルト様! シア様!」


 デュランタを先頭に、数人のエルフが駆け寄ってきた。


 そして彼女らは俺たちに頭を下げて、


「あ、ありがとうございます! 食糧危機だけでなく、里の危機を救って頂いて……! 本当に、貴方はこの里のエルフにとっての救世主です!」


 物凄い熱意のこもった言葉をかけてくる。


「い、いえ。成り行きですから」


 あまりの熱意に、少しだけ後ずさりつつ、話をそらすように言う。


「そういえば、呪いをかけた張本人を倒したわけですけど、畑の呪いは解けたのでしょうか?」


「あ……どうなんでしょうか」


「アディプスに聞いてみれば? ほら、避難誘導してたところから戻ってきたし」


「あ、本当だ。おーい、アディプス」


 俺は里のはずれから歩いてきたアディプスに手を振って、聞いてみる。


「なんですか。クモ使いが荒いですね」


「疲れてるところゴメンね。呪いについて聞きたくて」


「ああ、まあ、それくらいなら……」


 アディプスは、地面に手を触れて目をつむり、そして、すぐにこちらに振り返り、


「んーと……呪いの反応は消えましたね。魔力が吸い取られている様子もありません」


 その言葉に、デュランタは目を見開いた。

 

「本当ですか!?」


 デュランタだけではない。ほかのエルフの農民たちも嬉しそうに笑みを浮かべた。


「我々を苦しめた呪いが、消えたのか……!」


 ただ、そんな彼女たちを制するように、アディプスは続けて言う。


「消えたのは、呪いそのものだけ、です。失われた魔力が蘇ったりはしません。今、枯れていることには変わりありませんよ。そこは忘れないでください」


 その言葉に、俺は思わず眉をひそめた。


「元に戻ってはないってこと?」


「ええ。何十年かはかかるでしょうね」

 

 何十年。長い時間だ。

 そう俺は思っていたのだが、

 

「よかった。数十年か持ちこたえればいいんですね」


 デュランタは、そういって笑顔で吐息した。

 話を聞いていた農民であろうエルフたちも、同じように笑みを浮かべている。


 予想外の反応に、俺は思わず驚いてしまう。横のシアは、なんとなく想像がついていたらしく、


「エルフ特有の時間間隔よ、これが」


 そんな風に、若干笑いながら言っている。


 なるほど。


 ……これがトマト関連で騒動になった要因の一つかー


 と、改めて人間との感覚の差を実感し、思わず俺は苦笑する。 

 

「あはは……。でも、前向きになってくれてよかったかな」


「はい! 我々の寿命は長いですから。時間で解決できる、というだけでも充分な朗報なんです。アルト様に、被害の拡大を抑えて頂けましたし。それが最も難題でしたから、本当に助かりました……!」


 そう言った後、デュランタは、俺のほうを見た。


「とはいえ、直近のたくわえが必要なのも確かですので。ここの畑を復旧するまでの間、アルト様の所をお借りしてもよろしいでしょうか?」


「あ、勿論です。是非使ってください」


「ありがとうございます!」


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