第29話 里の生存と襲来
俺の言葉に、デュランタと里長は目を見開いた。
「アルト殿の農園、ですか?」
「そうです。魔王城跡地ってご存じです?」
「魔王城跡地……というと、ヒトの貴族が治めている、城の瓦礫と荒れ地しかないというあそこですか?」
魔王城は荒れ地。対外的には、やはりそういう認識なのか、と思いながら俺は言う。
「はい。そこを開拓して、畑を作っているんですよ」
「そんな事をなさっていたのですか!?」
「ええ。でも、広くて一人じゃ使い切れていないので。作物が育つ速度も中々速いので、管理も大変でして」
実際、召喚した子たちの力で大分カバーは出来ているものの、一人で広げるには限界があった。耕すだけ耕しても、そこから作物を植えたり、水をやったり、土地の面倒をみる人出は圧倒的に足りていないのだ。なので、
「土地ばかり余らせていても勿体ないなってところだったので。この里で畑作業されている方はどれくらいいますか?」
「農作業を本職としているのは、十三名ですね」
「でしたら、全員入って貰っても大丈夫ですので。結構遠い所にありますが、宜しければ使って貰えればと思うんですが……」
もしかしたら里から離れる事を嫌がるかもしれない。そう思っておずおずと問うたのだが、
――ガシッ
と、俺の手をデュランタは力強く握った。
「是非、是非、お願いしたく思います……!」
そう言って、こちらに頭を下げてくる。どうやら、好意的に受け止めてくれたようだ。
「エルフを受け入れてくれる方は、中々おらんが、有り難い事だ。里長としてもその申し出、受けさせてほしい。よろしくお願いする」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。これで、作物を育てる土地問題は解決ですかね」
「ええ。次の作物が育つまで、3か月かかるとしても、備蓄で何とかなるでしょう……」
デュランタは備蓄倉庫を眺めている。その目には涙が溜まっている。
……エルフは自給自足を主とするっていうもんなあ。
彼女らにとっては、作物が育たなくなるのは死活問題だったのだろう。
そんなデュランタに、里長は礼をする。
「デュランタ、ありがとう。備蓄を集めるばかりか、里を救ってくださる御方まで連れて来てくれて。どうにか里も生き永らえそうだ」
「私のやったことは些細な事ですよ里長。アルト殿の心遣いあってのことですから……! ――本当にありがとうございますアルト殿。これで一つ、安心できます」
デュランタは、改めてこちらに礼をしてくる。
土地を貸すと言っただけで、ここまで喜ばれるとは。
「良かったです。それで、どうします? いつから農場の方にお越しになられますか?」
聞くと、デュランタは頷いた後、畑の近くにいるエルフたちを見た。
「そうですね。準備なども必要ですが、私だけ先に下見をさせて貰えればと思いますので。この後、街へお送りしますので、その後に案内して貰えればと」
「分かりました。それじゃあ、今日の所は一旦帰還ですかね」
「はい。……里に来てもらって、大したもてなしも出来ないままなのは、心苦しいですが。……この恩は必ずお返しさせて頂きます。まずは、お借りした農場での労働力として、何でもお手伝いしますよ」
デュランタは、冗談半分ながら、しかし本気の目で言ってくる。
後ろにいる里長も頷いているし。
「そ、そうですね。その時はよろしくお願いします」
言うと、デュランタは笑顔になった。
「はい。では、里の門前に行きましょうか。馬車の準備は出来ているでしょう」
と、デュランタと共に畑を離れ、俺たちがエルフの里の入り口に向かった。
その瞬間だった。
ズドン!
背後。
空から、巨大なモノが降ってきたのは。
「!?」
咄嗟にデュランタが振り向き、俺達も続いた。
先程まで俺たちがいた場所に近く、備蓄倉庫を押しつぶすような形で立つのは、巨大なドラゴンだった。そして、
「困るぜえ。折角、食い物を失くしてエルフを滅ぼしているのに、こんな食い物を集められちゃあよ。『殲滅者』としてのオレの目的を邪魔しないで貰おうか」
周囲のエルフたちを見て、明確な敵意を持った言葉で、そう言うのだった。
――――――――――――
【お読み頂いた御礼とお願い】
本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。
「この先が気になる!」
「アルトやシアの続きがもっと見たい!」
ちょっとでもそう思って頂けましたら、↓にある「☆で称える」の「+ボタン」を3回押して、☆を入れて、応援して貰えますと嬉しいです!
大勢の方に見て貰う事が出来ますので、作者の執筆継続のモチベーションになります!
また、フォローして頂けると、とても助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます