第30話 殲滅するものと、抗うもの


 デュランタは、そのドラゴンの姿に見覚えがあった。

 

 それは騒ぎを聞きつけ、駆けつけたエルフの警護隊の面々にとっても同じらしく、

 

「お前は……! ピュセル様が倒したドラゴン……!?」

 

 そう。以前、ピュセルが砕いたドラゴンと瓜二つだった。

 

 ドラゴンはその言葉に、嘲笑を返す。


「おいおい、分身を倒したくらいでいい気になるなよ。呪いを振り向くために、わざと弱く作ったんだからよ」


「な……」


「しかし、あの女の結界が解けてやっと見つけたと思ったら、エルフが食い物も無駄に貯めてるとか。全く、面倒になるところだったぜ。オレは短気だからよ。

 ――だからまあ、様子見はもう終わりだ」

 

 その言葉と共に、ドラゴンはバサッと翼を広げる。その両翼に生まれるのは、巨大な氷の塊で、

 

「『殲滅者』のオレ、ドーズが滅ぼしに来たって訳でな。まずは、消えちまいな!」


 言葉と共に発射された。

 

「お前こそ、我らの命を繋ぐ食糧庫から消えろ……! 『フレイム・アロー』!」


 咄嗟にエルフ警護隊たちは炎の矢を放つ。


 生み出された巨大な炎の矢は氷を溶かし、そのまま、ドーズに向かうが、


「ふん!」


 炎の矢はドーズの胸に当たった。しかし、ドーズの身体に焦げ一つ付ける事は出来なかった。


「バカな……。我々の魔法は、ワイバーンにも効く炎なんだぞ……!」


「おいおい、俺は対エルフ用に調整された『殲滅者』だぞ! エルフお得意の魔法に耐性があって当然だろうが!」


 その光景を見て、デュランタは、目を疑った。

 

「警護隊の魔法が通じない……?」


 いくら長く続いたスケルトンの襲撃があって疲れていたとしても、エルフの警護隊の魔法は一流だ。その魔法を食らって無傷だなんて。

 生まれてこの方、デュランタは見た事がなかった。そうして呆然としていると、


「デュランタ!」


 近くから声が聞こえた。

 里長だ。


「警護隊が耐えている内にアルト殿とシア殿を連れて逃げろ! ―-あれは、殲滅者だ!」


「里長……。アレの正体を知っているのですか!?」


 里長は頷いた。


「君は50年前は子供だったから知らんだろうが、あの竜が言っていることが事実なら……アレは魔王が作り上げた多種族殲滅用の兵器だ。50年前に滅びた、全ての種族の絶滅を願った狂った魔王のな」


 その言葉に反応したのは、隣にいたシアで、


「そうね。そんなモノを作られちゃ溜まらないから、名のある魔獣も魔王を討つ事になったわけだからな。ピュセルもその一体だし」


「そ、そうだったのですか……」


「だが、魔王が倒れて停止したと聞いていたが。まさか今なお動いているとは……!」


 そう言った瞬間だった。

 

「ぐあっ……!」


 警護隊の面々が、ドーズの翼の一振りで、薙ぎ倒されたのは。

 


 ドーズによって吹き飛ばされた警護隊の隊長は、片膝をつき荒い息を吐いていた。


「はあ……はあ……」


 やがて膝から力も抜けて、うつぶせに倒れる。


 周りの警護隊員も、既に立っている者はいない。


「ははは、食わなきゃ生きていけねえ生物は大変だなあ。こんなよくわからんものの為に必死になってよ」


 と、ドーズは食糧庫を、その中に入っていた物を踏みつける。

 

「これがねえだけで、お前らは弱る。全く、脆弱だな」


「く……!」


 反撃したいが体が言う事を聞かない。

 スケルトンたちの襲来と、食糧を節約するために食事を減らしたことによる体力低下、その上、今受けたダメージが重なったのだろう。

 

 思わず歯噛みをしていると


「そ、そこから、どけよ!」


 背後から、エルフの少年が一人、ドーズに向かって石を投げた。

 

「ああん? なんだガキが」


「母さんは病気で、お前が踏んでる薬草と、ご飯がいるんだよ! だからどけよ!」


 その言葉を聞いて、ドーズは笑みを浮かべた。

 

「ははっ。そうかい。どけたければ自分でやる事だな。五秒だけ待ってやるよ」


 余裕の表情を浮かべるドーズに対し、エルフの少年は崩壊した食糧庫に駆け寄り、ドーズの爪を押そうとした。


「ぐ……」


 が、質量差は歴然。動くことはない。


「ほらほら、どうした」


 エルフの少年は必死に押し上げようとする。が、

 

「――!」


 微動だにしない。そして、


「はーい残念」


 ドーズは動き出した。

 もう一本の足を、少年の真上に置くように、だ。

 

「メシじゃなくて、お前が潰れちまう番だな」


「あ……」


「心配するな。お前の母親とやらも、あとで同じ場所(あの世)に送ってやる」


 少年が踏まれる。

 

 ……くそ! 動け、体……!


 その様子を、警護隊長は見ているしか出来なかった。そして――


 ――ガシン!

 

 と、鈍い音がした。

 

 それは、ドーズがエルフを踏みつぶした音、ではなく。

 

「え……?」


 珍しく里に訪れていた客人の少年――アルトが、ドーズの踏み付けを受け止めた音だった。何も持たずに、片手だけで。


―――――――――――― 

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