第24話 エルフの里の現状
エルフの里へは、デュランタが運転する幌馬車で行くことになった。
急いでいるようで、速度は大分早めだ。
今や街から大分離れてきた辺りで、デュランタはこちらに顔を向けてきた。
「乗り心地はいかがですか? 運転は本職ではないので、荒いかもしれませんが」
「問題ないですよ」
「それは良かった。こうして他の方を連れて行く機会は、何十年ぶりなので。そこまで離れてはいないのですが、何かあったら仰ってください」
デュランタはそう言いながら、馬車を操る。
「何十年ぶり……エルフの皆さんは、あまり人と交流を持たないと聞きますが、本当なんですね」
「ええ。と言っても我が里の面々は人間が嫌いという訳ではなく、寿命感覚がずれているので、問題が起こさないようにする、というのが大体ですが。私みたいに、時折街に行く者もいますし、王都近くの里では積極的に交流したりと、里によって様々ですけれど」
少なくともリリーボレアの街に、近隣にあるというエルフの里に行くための道を知っている人は、ほとんどいなかった。
……知られていないからこそ、エルフのトマト、というのが出回ったときに衝撃が走ったのだろうなあ。
などと思っていると、
「着く前に、これをお渡ししておきます」
そう言ってデュランタが渡してきたのは、一枚の紙。
映っているのは、
「農村……?」
綺麗な畑と花畑、そして家々が並んでいる。
そして数人のエルフが農作業をしたり、弓の訓練をしたりしている姿が映っていて、皆笑顔である。
「数か月前のエルフの里を、魔法映写機で撮ったものです」
魔法映写機は、かなり昔に《発明家》職の者によって開発された、映像をそのまま紙に写して保存する機械のことだ。
中々珍しい機材だったはずだが、エルフの里にもあったらしい。
そして、気になるのは、
「この映像だけで見れば、作物は普通に育っているようにみえますが……」
数か月前の畑には、青々とした作物の茎が見えている。
先ほど受けた説明とは少し異なる様に思えるのだが。そう伝えると、
「そうですね。お渡ししたのは、元々はこうであったとお伝えするためのモノです。……決して最初から、今の里の状態ではなかったのだと」
「なるほど……?」
「……エルフの里の門が見えてきました。そろそろつきます」
デュランタがそう言った先を見ると、林道の中央にぽつんと浮かぶように、樹木で作られた門扉があった。
周囲には柵等はないが、
「この先が、里があるんですか?」
「はい。門をくぐらないと、見えない結界が張られているので。見えてないだけです」
門扉には様々な文様が刻み込まれているが、それを見たシアが、ぽつりとつぶやく。
「あの紋章、結構な魔力を感じるわね。見たところ、鍵か何かの役割でも持たせてるのかしら」
「あの紋章が、見えない結界の核になっていますね。エルフの里に長く住む、客人が刻んでくれたものです」
「へえ、客人が、ねえ」
シアは何やらそう言って、頷いている。
「我々住人や、力の強いものには効かないらしいですが。ともあれ、入ります」
デュランタがそう言って門扉に触れると、
――ギ
という音と共に、ひとりでに門は空いた。
そして、その先にはあったものは、
「これは……?」
まず目に入ったのは、荒れ放題の畑。
そして枯れた花々と、
「その調子だ! 押し返せ!」
武器を持ったスケルトンと戦う、エルフたちの姿だった。
――――――――――――
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