第25話 感謝と旧知
「あのスケルトンは一体……?」
「数週間前より近くの地中から現れ、我らの里を襲いに来ているのです」
馬車を止めながらデュランタはそう言った。
視線の先では、馬車のついた反対側の柵が破られているのが見え、そこから入ってきたスケルトンたちを、十数人のエルフたちが打ち倒していた。だが、
「はあ……はあ……ま、まだ、来るぞ!」
息切れするエルフたちをよそに、十数のスケルトンが、柵向こうから来ていた。。
「今度も群れかよ。くそ……こっちはもう、体力が……」
既にエルフたちは疲れている。それが分かっているからか、
「……いけない。私も援護に向かいます」
と、デュランタが走り出そうとした。ただ、彼女よりも早く前に出た姿があった。
「このままじゃ、アルトたちがお話しできそうにないし、私が手伝ってくるわね」
シアだ。
彼女は、少女の身で走り出し、獣の姿へと変わる。
それを見て、デュランタは動きを止めた。
「え……シア殿……? その姿は一体」
「あ、説明を忘れていましたが、彼女は俺の仲間でして。牧羊犬としていつも働いてくれているんです」
慌ててフォローの台詞を言うと、デュランタは目を丸くした。
「人の姿に変身できる魔獣、ですか……?! それは、とても高位のものしか出来ない筈ですが……」
などという間に、シアはあっという間に、疲れたエルフたちを飛び越えて、前に立った。
「ま、魔獣……!?」
驚くエルフたちであるが、シアはそれに気にすることなく、スケルトンの群れに顔を向けて、
「農地以外で技を使うから、3割くらいで行くわよ」
大きく息を吸い込み、
「――ガオン!!」
と大きく吠えた。
声は振動の衝撃となり、一直線にスケルトンの群れに向かい――
――ドガン!
スケルトンたちに直撃し、爆発した。
それだけで、スケルトンたちはバラバラと、骨のかけらとなる。
立ち上がるモノはいない。スケルトンはいなくなった。
それを見て、シアは人の姿になる。
「ま、これくらいかしらね。『バーストハウリング』を外で使うとしたら。大丈夫、貴方達?」
少女の姿になったシアを見て、先程まで戦っていたエルフの面々は驚いている。
その中のリーダー格なのか、戦闘の指揮を取っていたエルフの男性が、シアに声をかける
「あ、ああ。た、助かったが、君は一体……!?」
「ただの牧羊犬よ。そこにいる優しいご主人様のね」
と、シアが目線を送ってきた。
丁度、デュランタと共に駆けつけた俺に、だ。
デュランタに、エルフたちの視線が集まる。
「里姫、戻られたのですね? しかし、この方々は?」
「こちらのアルト殿は、『エリクシルフルーツ』の果実を育てて、現物を持ってきてくれたのです。……まさかこうして、武力でも助けて頂けるとは思いませんでしたが」
その言葉を受けて、エルフたちは再び、わっと驚きの声を上げた。そして俺に聞いてくる。
「い、頂けるのですか!?」
「あ、はい。どうぞ」
背負ってきた木箱の中身を見せながら、俺はエルフの男性に木箱ごとトマトを渡そうとした。すると、彼は、俺の手をぎゅっとにぎり、膝をつき、
「……ありがとうございます……! このご恩は必ずやお返しを」
涙を流しながら、感謝の言葉を述べた。
「そ、そんな。大層なことでは……」
「大層なことですとも。これで、我らの食客――いえ、恩人を助けられるのですから」
エルフの男性は、そう言って、トマトを大事そうに抱きしめる。
……そういえば、同胞を助けたい、とデュランタさんは言っていたけれど。
彼が恩人と言っている、その人だろうか。と思っていると、
「おやまあ……懐かしい雰囲気がすると思ったら、君かい、マルコシアス」
背後から声が掛けられた。
振り向くと、そこにいたのは、一人の若い女性だった。
ただし、背中に千切られたような黒色の翼を生やしていた。
……天使族……? いや、堕天使族の人? 初めて見たけれど……なんでエルフの里に……。
突然のことに疑問に思っていると、エルフの男性が目をぎょっとさせて、翼を生やした女性を見ていて、
「ピュセル様!? お歩きになられて、大丈夫なのですか」
「まあ、このくらいはね。血と魔力のめぐりが悪いままだから、ちょっとでも動かないと死んでしまうし。――それに、久しぶりに旧知のものに会えたしね」
ピュセル、と呼ばれた彼女は、シアの方を見た。するとシアの方も、ピュセルを見て頷いていて、
「やっぱり。あの紋章に見覚えがあると思ったら、貴女だったのねピュセル」
「知り合いなのかい、シア」
やりとりを聞くに、昔からの付き合いとの事だが。
「ええ。だって、この子、私と同じ魔獣だもの。伝説の魔獣と謳われた中の一体ね。転生前の知り合いってことよ」
そんな風に、気軽に言うのだった。
――――――――――――
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