第18話 作物の評価と、そこからの発展
その日の夕食の場には、祖父と兄がいた。
姉や母は最近、忙しいらしく、一緒に食事をとれなくなってはいた。
二人にはあとで感想を聞くことにして、今回はここにいる面々の反応が気になっていたのだが、
「おお、これは、確かに美味いな……!」
「このトマトのソース、疲れた体に染み渡っていくようだ……! こんな素晴らしいものを育てたとは、我が弟よ、感動したぞ……!」
家族にとっても大好評であった。
特に、体を動かす仕事をしている兄にはウケがよく、食事の手がガンガン進んでいた。
「今日もジン兄さんは仕事だったんだね」
「ああ。街の近くに、レベル50程のモンスターが出現してな。自警団や、街の騎士団ではどうにもならんということで、討伐に行っていたのだ」
その言葉に、祖父も頷く。
「レベル50ともなれば、王都の騎士団でも上澄みレベル、あるいは戦闘職の高レベルでないと相手にもならんからな。よくやったぞ、ジン」
「ありがとう御座います、爺様。そして――ありがとう、アルト」
「え、なんで、俺にお礼を……」
「仕事の後にこうして美味いものにありつけるのは、美味いものを作ってくれる人のお陰だからな! 料理長もそうだし、運んでくれる人もそうだし、そして、素材を作ってくれた君にも礼を言うのは当然だともさ。しかも、今までに味わった事のない程の極上の美味だ! 身体も喜んでいるし、幾らでも礼を言うさ」
兄は真っすぐそう伝えてきた。
「こっちこそ、嬉しい感想をありがとう、兄さん」
作ったものに対して礼を言われるのは、単純に嬉しいな、とそう思った。
そうして食事を進めていたのだが、
「う……う……」
何やらそんな声が聞こえてきた。声の方向を見ると、今回の食卓にいた、家族以外の人物がいて、
「うおお……アルト君……君は、何処まで想像を超えてくるんだ……」
祖父と商談の話があったらしい、ミゲルもいたのだ。
食事の最初からいたのだが、エルフのトマトを見て、そして、トマトで作られたスープを飲んで、ずっと涙を流していたのだ。
ようやく、ここに来て喋れるようになったみたいだ。
「何やら、ここ数日、アルト君が忙しそうにしていると聞いて駆け付けたのだが、まさか、エルフのトマトの育成をして、そればかりか成功しているだなんて……。感動で涙が止まらなかったよ」
「あー……ミゲルさんも、このトマトのこと、知ってるんですね」
「当然だよ! 種を手に入れたはいいものの、誰も発芽させることすら出来ない。なのに果実は非常に美味い、という。いくら金をつんでも食いたいという、そんな作物なんだよ、これは!」
めちゃくちゃ力説された。
というか商談で来たと言っていたのは建前で、俺が育てているものが気になってだったのか。
「ち、因みにだが、どうやって育てたんだか、聞きたいが――」
「あ――、説明が長くなるので、まとめると、色々と、上手い事行きまして」
というか、説明するには、俺も知識が足りなさすぎる。
なんだか育成の早い土があって、なんだか上手くいった、としか言えないのが現状なのだ。
「なるほど。まあ、企業秘密という奴か。それをするのは当然だとも、うん! むしろ、言わない方がいいね! そちらの方が価値が上がる!」
なんだかいい様に解釈されたらしい。
こちらとしても、まだまだ分からない事が多い作物故、迂闊な事は言えないというのも間違いないし。
これはこれでいいだろう。というか、
「まだまだ、このトマトのことは調べたいんですよね。種がどうしても、植えた時のものにならないので」
そちらの方が気になった。
エルフは、どうやって、この種を作ったのだろう、と。
そういうと、ふむ、とミゲルは頷き、
「アルト君。トマトはまだ、余っているのだろう?」
「え、ええ。木箱一つくらいは」
「それは、売る気はあるのかな?」
言われて、思う。
……売る気はあるけれど……。
10年たたないと収穫できないトマトが、急にとれました、と言って売れるのだろうか。若干怪しい気もする。なので、
「売る気はあります。ただ、なぜ高速で育ったのか説明が上手く出来ないので、販路が難しいとも思っていますね」
思うままに言うと、ミゲルは、大きく頷いた。
「よし分かった。――近く、交易ギルドの役員議会があるんだが。一緒に来ないか? そこでならこのトマトも、高値且つ内密にさばけるだろう。矢面に立つのが怖いなら、君の正体は秘密にしていい。私が代理人として窓口となろう」
「窓口に……良いんですか? あまりミゲルさんに得がない気がしますが」
「君の信用を勝ち取れるだけでも得だとも! それに、君はまだ気になる事があるのだろう? ならば、そこで情報を拾えるかもしれないし、情報収集に集中して貰った方がいいだろうと、そう思うのさ!」
「は、はあ……。でしたら、そうですね。是非、行かせてもらえればと」
「決まりだ! いやはや、こういう逸材を見ると、商人として、気合いが入るねえ!」
と、ミゲルは目を輝かせながら言うのであった。
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