第17話 自分と作物の成長の味
今回収穫できた『エルフのトマト』は、木箱4つ分だった。
実そのものは、普通のトマトの数倍といったところ。
種は大きかったのだが、一つ一つの大きさは、種とそう変わらないくらいだった。
割って中身を見ても、種子は普通の大きさで。大きい種は見る事は出来ない。
……どうやってこれで次代を作るんだろう。特殊な方法があるのかな?
と、悩んでいると、
「アルト、早く食べましょうよ!」
シアが催促してきた。
彼女だけではなく、スライムや、アディプス、そしてエウロスもいた。
それぞれ、テーブルについている。
「作物を食べるためだけに呼ばれるの、初めてね」
「エウロスもですか。私もです」
「変だったかな。皆の協力で出来たものだから、皆で味わった方が良いかなって思ったんだけど」
そう言うと、二人は目を丸くした後、微笑みを浮かべた。
「変ではありますが、私は好ましく思うです」
「アタシもよ。そういう事を言ってくれる主だと、力の貸し甲斐も増すわ」
どうやら、喜んでくれているようだ。
スライムも下の方で、ふんふん、上下に震えているし。期待がこもっているのが分かる。
「それじゃあ、とりあえず食べようか」
俺は種を見るために切ったトマトを、食べやすくカットし、皆の前に回す。
動物によっては食べられない子もいるらしいが、この場にいる全員は大丈夫との事で。遠慮なく振舞う事にして、
「いただきます」
俺も、食べた。
「うわ…………!」
まず、率直に出た感想がそれだった。言葉が詰まる美味しさ、という奴で。
まず爽やかな甘みが来て、その後にみずみずしさと、酸味。
それが噛めば噛むほど、増幅されていくのだ。
……美味しい……!
噛みしめる度に、その思いが浮かんでくる。ただ、これは人間の俺にとっての感想で、皆にとってはどうか、と顔を上げてまわりを見ると、
「んー、これいいわね。捧げられた供物でも味わったことない、極上よ」
エウロスはほっぺに手を当て、美味しそうに食べている。その感情を表すように、風が渦巻いている。
「甘味が良いですね。水分量も豊富で。これ一個食べるだけで、体調も大分回復しそうです」
アディプスは、トマトの吸うように食べている。土や栄養に詳しい彼女も表情が緩んでいる。
スライムは、トマト色になっていて目が凛々しくなっている。美味しいと、こちらに目で訴えかけてきている。
そして、シアも、ガツガツと食べていて、
「まるでお肉みたいよ! 本当に芳醇な魔力をそのまま食べてるみたいで、凄いわ。食べるだけでレベルが上がっちゃいそうだもの!」
大好評だった。
あっという間に、1つの木箱の半分ほどを平らげてしまった。一口食べるごとに、身体が成長していくような、そんな感覚さえあったのだ。
〇
食べても食べても、全然お腹に溜まることなく、水分として循環していくような感じがある。
「ふう、美味しかった。育ててよかったなあ」
「ホント、2週間、頑張った甲斐があったわね!」
「そうだねえ。皆して、刈りまくったもんね……」
その苦労に見合う味と幸福感だと思う。そして、思うのは、
「これ、屋敷の皆にも食べてもらいたいな」
二週間の間、頑張ったのは俺達だけじゃない。屋敷で俺を助けてくれた皆にも分けたい。そう申し出ると、
「良いんじゃない。私たちだけで独占するものじゃないしね」
「主の思うがままにするのがいいです」
「同感。調理したエルフのトマトってのも、面白そうだしね」
みんな、そう言ってくれた。
だから、俺も頷いて、
「ありがとう。それじゃあ、屋敷に行こうか」
そうして、俺は、トマトの入った木箱を荷車に載せ、屋敷に戻ることにした。
〇
家族で味わうには、まず調理してもらう必要がある。なので調理場に行き、そこにいた料理長やフミリスに見せたのだが
「こ、このトマトは……一体どこで……」
「もしや、アルト様が作られたのですか?」
「うん」
「というかこの大きさ、まさか、街で話題となった『エルフのトマト』では……」
二人とも――というか、その場にいたメイドたちも驚いていた。料理長は特にだ。食材について詳しいから、街で流行った食材なども知っているのだろう。そして噂に詳しいフミリスもそれは同じようで、
「え……これがあの……?! 王都の高級レストランですら、仕入れようと躍起になっているという……!? どうやって、育てたのですか?」
10年間、掛かる作物とされているから、手に入らないのだろう、と思いながら俺は答える。
「仲間たちと協力したら上手い事行ってね。味見したけれど、かなり美味しいから。皆で食べたいな、と思って」
「か、かしこまりました。責任をもって、調理させてもらいます」
そうして、調理が始まったら、幾人かの使用人がエルフのトマトの匂いに誘われて見に来たり、今までではありえない事が起きたりしたのだが。とりあえず無事に料理は完成して、その日、家族の食卓に並んだ。
――――――――――――
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