第14話 エルフの作った作物の真実


 俺とシアはリリーボレアの中心にある商店通りにいた。


 あちらこちらに、雑貨や食料品を扱う店、農作物の苗を並べる店など、多種多様な商店が並んでいる。


「わ、この果物、美味しいわ」


「こっちの串焼きもあまり食べた事がないスパイスが掛かってていいね!」


 俺もシアも、食料品――もとい、食べ歩き用のスナックは購入済みだ。

 行儀はあまりよろしくないし、屋敷であれば止められるが、

 

 ……ココだったら誰も見てないしね!

 

 思う存分楽しんでいる。とはいえ、本来の目的も忘れている訳ではなく、 


「農村では見られなかった苗がいっぱいあるね」


「幾つかまとめて買っていくのよね?」


「うん。何が魔王城跡地で育つか分からないからね」


 育てる作物は、土の状態によって向き不向きがある。

 アディプス曰く、酸性だの中性だの、空気が多いだの少ないだので、色々とあるらしい。

 

 まだ俺は勉強中でそこまで詳しくはないのだが、それでも、作物が育ちやすいかどうかは、実体験として分かる。

 

 魔王城跡地は、広い上に、色々な混ざり物があるので、場所によって土の状態が大きく変わっているのだが、それぞれに合わせた作物を用意するのが良い。


 作物を出荷した結果、俺の懐は、少しばかり温かくなっているので、仕入れをする分のお金もある。


 ……出来れば、ここに来た目的の『特別な魔法の種』というのも見てみたいけども。

 

 まずは、買えるものから買おう、と俺達は、二人で、幾つかの苗や種を買い込んでいった。

 そして、十種類程買い、他に何かないか見回る様に歩いていると、

 

『……捨てられるのは、嫌だなあ……』


 俺は、そんな声を聴いた。

  

「……シア、なんか言った?」


「? 私には何も言ってないわよ」


 ということは、動植物会話のスキルの効果だ。


 俺は声をした方を見る。

 

 そこには、一つの商店があった。

 

 具体的には、いかつい筋骨隆々のおじさんがいる横にある、『在庫処分の大安売り。オブジェにもどうぞ』との札が掛けられたケース。

 その中に入っている、水晶玉のような大きさの種からだ。

 

 俺は、その声に誘われるようにして、店の前に行く。


「すみません」


 店主のおじさんはにこやかに声を返してくる。


「お、どうした、坊主。嬢ちゃん連れて、デートの買い物か?」


「そうよ。デートしながら作物の種探しよ!」


「あはは……。まあ、彼女の言う通り、作物の種が欲しいなって思ってるんですけお――この安売りされている種はなんですか?」


 種というより、もはや玉のような大きさをしているが。


 それを聞いた瞬間、店主は渋い顔をした。


「……ああ。それは使い物にならんから、やめた方がいいぜ。いずれ捨てるものだ。


「というと?」


「最近話題になったかもしれねえが、エルフの村の奴らが開発した種なんだけどよ」


「こ、これがですか?」


「お、おう! なんだ、坊主、探してたのか」


「はい! めちゃくちゃ美味しいトマトが採れるって!」


 元気よく返すと、店主は僅かに微笑ましそうな顔をして、しかし首を横に振った。

 先ほど、セリネがしたような、微妙な顔と同じものだ。


「坊主、そいつは、事実だ。事実なんだけどな、売ってきたエルフの奴が黙ってた、隠された情報ってやつがあったんだよ」


「え……というと?」


 店主は、頭をかきながら言う。


「端的に言うと、育つまで10年掛かっちまうんだと」


「え? トマト、ですよね?」


 一年もあれば育つ、と本では読んだし。農村の人からも聞いていたが。


「ああ。だけど、エルフが開発したってのが、混乱を招いた下でな。エルフにとっての10年は大したことない期間だけど、俺たちにとっては大したことがあり過ぎたって訳だ」


「ああ、長命種との常識のすれ違いってやつね」


 シアが理解を示しているが、結構よくあることなのだろうか。


「それを、エルフの奴は取引した後に告げてきてな。実物のトマトのうまさで、目がくらんだってのもあるけど、そんなに高くはない価格だったのと合わさって、俺たちは買っちまって、返品はできず……そして不良在庫になったわけだ」


 店主は頭をかく。

 

「これは気付かなかった俺たちのミスだからな。エルフの奴を悪いっていう訳にはいかねえ。ただ、新たな種を適当に捨てたら何が起こるか分からんから、管理できない場所に適当に放るわけにもいかん。なので、きちんと廃棄処分をするか、俺みたいに、二束三文で、記念品や、オブジェとして売るか、そんな風になってる訳さ」


「なるほど……」


「オブジェとして扱う場合は、管理できないなら植えないように。捨てる際には燃やすかなんなりしてくれってお願いしてるけどな。ま、お客さん相手の笑い話を一個かったと思えば、悪くない投資だったって事かもな」


 店主は困ったように、笑いながら言う。

 俺は、その話を聞いて、少しだけ思っていた。


 もしかしたら、ウチの畑でなら、ある程度短縮して、育てられるかもしれない、と。

 

「これって、あるだけ買っても、良いですか? 育てたいんで」


「……坊主、話聞いてたか? いや、俺としては不良在庫がはけて嬉しいけどさ」


「はい。聞いたうえで、ウチの農園に欲しいなと」


 それに、声を聴いてしまったのだ。

 折角種があるのに、育てられることも、食べられる事もなく、捨てられるのは可哀想だと。

 ……そう思ったら、買わないという選択肢はないじゃないか。

 

 そう思いながら、店主の反応を待っていると、

   

「まあ、分かった。覚悟があるなら、持っていきな。坊主が大人になる頃には、育つだろう。箱代はサービスしておくぜ」


「ありがとう、店主さん!」


 そうして、俺は魔法のトマトの種を仕入れる事に成功した。 


 ……魔王城の畑で、育つのか。それに、何日掛かるか分からないけど……。


 時間は掛かるだろう。何日も何日も待つ事になるかもしれないけど、

 

 ……日々のトレーニングと一緒だ。

 

 根気強く、何かに取り込むのは、そこまで嫌いじゃない。


「よし。頑張ってみるか……!」


―――――――――――― 

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