第13話 交易ギルドと、野菜のブランド化


「ここがリリーボレア、広い街だねえ」


 猪よる問題はあったものの、俺達はリリーボレアに無事辿り着いていた。


 街の入り口に俺たちはいる訳だが、昼という時間帯もあってか、活気に溢れて、人が行きかっている。


 それを見て、馬車の中で人の姿になっていたシアは興味深そうにしており、


「領地の農村とは、雰囲気が違うわねえ」


「うん。人の数も大違いだね」


 グローリー家の領地にほど近いとはいえ、この街に来るのは初めてだ。

 

 ひと通りのギルドや、商店がそろっているので、農村に比べると大分規模も大きい。

 

 商店の通りはここから見るだけでも色々あるのが分かる。

 食べ物の匂いがお腹が刺激してくる店、何やら苗っぽいものが売られている店など、種類は様々だ。

 

「アルトと見て回るだけでも楽しそうね! お出かけ用の服を用意してきた甲斐があったわ!」


「フミリスに貰ってた奴だね」


 人の姿になったシアは、普段であれば、変化で作ったドレスや、姉が子供の頃に来ていた服を着たりしているのだが、今回は動きやすそうなスカートだ。


「どう、似合ってる? 可愛い?! お嫁さんみたい!?」

 

「うん、お嫁さんかどうかは見たことないから判断できないけど、似合ってるし可愛いよ!」


「わあい!」


 正直な感想を言ったら、シアはめちゃくちゃ喜んでいる。

 

 シアも楽しそうだし、種だけじゃなくて、じっくり商店街を見るのも面白そうだなあ、と思っていると、


「お二人とも、お待たせしました」


 街の入り口で馬車を預けていたロビンが来た。


「今、交易ギルドまで、ご案内しますね」


「あ、お願いします、ロビンさん。というかすみません、移動だけじゃなくて街の案内まで」

「いえいえ。あの凶暴な猛獣から命だけでなく財産である馬車まで救って貰ったんですから。これくらいさせて下さい。帰りの便まで、時間もありますし」


 とのことで。ロビンは、馬車による移動以外にも面倒を見てくれている。

 

 ……良い出会いに恵まれているなあ。

 

 と思いながら、俺たちはロビンについていく。 

 

 やってきたのは、街の中央にある大きな建物だ。

 看板には『交易ギルド・リリーボレア支所』とある。

 

「でっかい建物ですね」


「アルト様の屋敷の方が大きいでしょうに。ただ、王都から離れている街にしては、大きい方ですね。さ、入りましょう」

 

 と、促されて建物中に入る。

 

 中にはカウンターが幾つか設けられていて、それぞれに、受付の人員が立っている。また、そこらかしこに、木箱やケースが積まれていて、取引を行っている人もところどころにいる。


 ……皆、ミゲルさんみたいな目をしているな。

 

 これが交易ギルドの、商売人たちの活気か、と思っていると、

 

「おや、ロビンさん、戻られたんですね」


 カウンターにいる、20代くらいの一人の女性がロビンに話しかけていた。


 ロビンは軽く、彼女に会釈する。


「セリネさん。お疲れ様です」


「流石、王都からスカウトされたライダー。仕事が早いですね」


「まあ、どうにかこなせてますよ。それよりも、こちらの、僕のお客様が交易ギルドに用があるそうでね。受付を頼むよ」


「かしこまりました。初めまして。交易ギルドの受付嬢をやっているセリネです。お名前をお聞かせいただけますか? そのあとご用件をお願いします」


「あ、はい、初めまして。アルト・グローリーと申します」


 ぺこり、と礼をすると、セリネは微笑み返してきた。


「おお、戦闘技能で有名な、グローリー家のご子息だったのですね」


「ええ。とはいえ、俺は戦闘職ではないんですが。兄や姉は有名ですね」


 その言葉に、セリネは、あっと声を上げ、

 

「すみません。変な事を言ってしまって」


「いえいえ。大丈夫です。戦闘職でなくても、やれる事はありますから」


「やれる事……? というと、何かをされているのですね」


「はい。こっちにいるシアと一緒に、魔王城跡地で野菜を作っているんですよ」


 その言葉を聞いた瞬間、セリネは目を見開いた。


「も、もしかして、『魔王ブランド』の野菜を作った人なのですか……?!」


 声のトーンも一段変わった。明らかに驚いているけれど。

 俺としても彼女の放った単語に驚きで、


「えーと……なんですか、そのブランドは」


 思わず聞いた。


「ここ最近、話題になりつつある、野菜のブランドですよ! 交易ギルドの役員である、ミゲルという方が広めているんです。この街だけじゃなくて、今では王都にも話が行ってるらしいですよ」


 なるほど。何となく分かった。


 ……ミゲルさんが広報をやっていてくれたんだな。


 最初期よりも作物の売値が高くなっているし、はける速度も上がっていると思っていたけれど。

 

 ……この前話をした時、『良いものでも、売れるためには、宣伝や広報は大事なんだよ!』って言ってたけど。率先してやってくれてるんだなあ。

 

 有難いことだ。

 ただ、この話をすると目的が脱線しそうなので、まずは、今日ここに来た理由を話そうと、 

「今日来た用件は種の買い出しなんです。新種の野菜の種が出たって聞いたので……」


 簡潔に告げた。すると、


「あー……」


 と、セリネは微妙な顔をした。

 悲しみと、申し訳なさが入り混じったような表情だ。


「えっと、その反応って事は、もう売り切れたとかですか?」


「い、いえ。そうではなくて……ただ、こちらにはないんですよね」


「売り切れてないのに、ないって、どういうことかしら?」


 シアが聞くと、これまたセリネは難しい顔をした。


「売り切れというか……売れなくて、倉庫に入れるスペース的にも邪魔だから、処分したというか……」


「なんだか、複雑な事情があるんですね……」


「ええ。ギルドという立場から、守秘義務的に言えない事もありまして」


 ギルドという組織にも色々とあるようだ。とはいえ、


「ただ、複数の商店が仕入れましたから、もしかしたら、残ってる店もあるかもしれませんし。回ってみると残っているかもしれませんよ。ギルド前の通りの店などは、信頼も置ける店主さんしかいないので、安心して買い物もできますし」

 

 セリネさん的にも、何らかは教えたいと思ったのか、そんな感じに伝えてきた。


「分かりました! 他の作物も見て見たかったし、ひと通り回ってみます」


「すみません、これ位しか出来ずに」


「いえいえ。それじゃあ、俺達、買ってきますね、ロビンさん」


「はい。帰りの馬車のスペースは結構空いているので。積み込みが必要になったら、呼んでください、アルト様」


「はい! ロビンさんも、受付さんもありがとうございます! 行こう、シア」


「ええ! 初めての街だし、楽しみましょう!」

 



 ロビンは、アルトとシアがわちゃわちゃしながら、ギルド支所の建物から出ていくのを見ていた。

 それは、隣に立っているセリネも同じようで、


「元気のいい男の子ですねえ。可愛らしいですし、心が洗われるようです」


「ちょっと言い方気を付けないと危ないと思うよ、セリネさん。あの方、グローリー家のご子息なんだから」


「え、ええ。勿論分かってますとも! でも、可愛いのは間違いないじゃないですか。隣にいたシアさんも含めて、可愛かったですよ」


「そうだねえ。でもあの子たちは可愛らしいだけじゃないんだよ? 特に、アルト様は、俺より、強いんだから」


「え……?! 王都からスカウトされてきたロビンさんよりもですか!? ロビンさん、怖がりですけど、元冒険者ですし、レベル25くらいのモンスターなら倒せるくらい強いじゃないですか!」


 セリネはそんなことを言ってきた。


「《ライダー》って戦闘職はレベル20以上にするのって、平均7~8年かかるのを、ロビンさんは数年で終えたものだから、王都でもブイブイ言わせてたと聞きましたし。だから魔王城跡地への便も、ギルドマスター直々に任されているのに……」


「あのギルマスは何を部下に言っているんだか……」


 とはいえ、とロビンは、スカウトされる形で来た経緯を思い出す。


 王都でそれなりに活躍してきたから、ここの知り合い――ギルドマスターが人手不足だというからヘルプできたのを。

 それで任された仕事が曰く付きの魔王城跡地に行く仕事だということも。

  

「まあ、僕はビビリなので、力を出し切れることもあんまりないんだけどさ」


 そしてロビンは思い出す。あの猛獣の猪と真っ向からぶつかり合い、倒した少年の姿を。


「生まれつきレベル30以上あるパイアに真っ向勝負を挑める少年を見たら、やっぱり僕より強いと、そう思うからね……!」

―――――――――――― 

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