第12話 羊飼い、猪を追い払う

 

「アルト様!?」


「ブフウ……!」


 そして猪は、近づく俺を見るなり、一直線に突っ込んできた。

 

 だから俺は、その場でふんばり、息を止め、


「せえの……!」


 真っ向から肩をぶつけた。

 

 ――ガシン!

 

 という鈍い音が響いた。

 そして、僅かに間があった後、


 ――ドターン

 

 と、パイアはその場に倒れた。


「え……?」


「ふう、相変わらず硬くて痛いなあ」


『お疲れー』


 肩をさすっていると、シアが労うように、俺の肩をぽんぽんと撫でてくる。軽い打撲みたいになってしまっているようだが、動きには問題ない。


 そうしていると、ロビンが駆け寄ってきて、


「だ、大丈夫ですか!?」


「うん。平気だよ。あと、パイアもしばらく起きないから、このまま進んでも大丈夫だよ。不調は直ったらだけど」


「あ、いえ。車輪の異常だったので、もう直しましたが。そうじゃなくて、い、今のは一体……。どうしてパイアが倒れてるんです?」


「ああ。よくウチの畑を荒らしに来るんですよ。対応に四苦八苦してたんだけど。頭の鈍器に衝撃を与えると、脳を良い感じに揺さぶれるらしく。こうして転ばせば、対処できるんです」

 そう言うと、ロビンは目をぱちくりさせた。


「あ、アルト様、羊飼いですよね?」


「うん」


「すげえ……。戦闘職じゃない人が、パイアと激突して、しかも勝っている姿、初めて見ましたよ」


「いやいや、上手くいって良かったよ。それより、早く街に行こう。新しい作物の種、見たいからさ」


「は、はい。勿論ですとも! この度は、本当に助かりました! 全速力で、向かわせて頂きます!」


 そうして、再び馬車は出発した。

 

 そこまで、時間的には遅くなることもなく、到着出来そうだ。

 

 思いながら、俺は先程ぶちかましに使った肩を見る。

 青あざが少しできていたのだが、もうだいぶ消えている。

 

「ステータスの補正って、回復能力にも掛かるんだね」


「そうよ。と言っても補正だから、限度はあるけどね」


「だよね。怪我をしたら普通に治療してもらうよ」

 

 しかし、魔王城の農作業ばかりで、自分の身体がどうなっているのか、自覚する間もなく来てしまったが、


「俺、少しは強くはなってたんだね」


「当然よ! 魔王城みたいな広くて硬い場所を耕しまくったんだから、筋力つかないわけないじゃない」


 そんなことを客観的に確認しながら、俺はリリーボレアの街に向かうのだった。


―――――――――――― 

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