第7話 新しい召喚魔法
俺とシアは、その日、魔王城跡地に作った畑にいた。
畑を作り上げて一か月。地道に開拓を続けた結果、範囲は1ヘクタールを超えていた。
そして、畑に植えたのは、領地の農家から渡された普通の芋や人参だったのだが、
「見て見て、もう作物が大きくなってるわよ!」
「成長、凄く早いなあ!」
もう、収穫が出来るくらいの育ち方をしていた。
そもそも植えた次の日に芽が出て、数日後には青々とした茎が出た。そのあとすぐに開花したくらいだ。
農家の話では、普通の農地で3か月はかかるし、魔力が豊富な地でも2か月は必要だ、との話だったが。
「これも魔王城跡だからかなあ」
「竜の血が混ぜ込まれた分もあるかもね」
「なんにせよ、嬉しい事だよ。初めての収穫だし、ワクワクするなあ!」
芋ほり用のフォークは持ってきている。手作業でどこまで出来るだろうかは分からないが、出来る範囲で取ろう。
実家で使うのは勿論、伝手で領地の商人に渡すことも出来るし、収穫しすぎて困ることはない。というか、ここ全てを収穫しても余る事はない。
……今年は獣害が酷くて、作物の収穫量も微妙らしいし……
そこを手助けできるならば、尚更良い。
「それに、応援も来てくれるらしいしね」
朝、畑の作物が収穫できそうなことを報告すると、
「なに!? もう実ったのか!?」
「我が弟は、羊飼いでありながら農作業の才能が猛烈にあったか! 素晴らしい! 手伝うぞ! あの畑の広さなら、一人だと何週間も掛かるだろうしな!」
とのことらしく、数時間後には祖父たちも来てくれるとのことだ。
有難い話だ、と思っていると、
「ぷ」
スライムが足元をつっついてきた。
「草むしりが終わったから何をすればいいかだってさ」
「あー……スライムたちは……どうしようか。収穫の手伝いは難しいだろう?」
聞くと、俺の足元にいる数十匹のスライムたちからは、
「ぷ……(消化していいならやる)」
とのお返事が来た。今まで通り草抜きをお願いするだけの方が良さそうだ。
まあ、予測はしていたけれど、と思っていると、
「というか、スライムの数も増えたわね」
シアがそんなことを言ってきた。
「あ、確かに。最初は十体くらいだったね。あんまり意識していなかったけど」
スライムも最初の数よりも多く召喚できている。
魔力が上がっているからだ。
というかレベルも上がっている。この前のドラゴンを倒したお陰か、310になっていた。
……普通の羊飼い310年分のレベル、と考えると凄まじいものがあるよなあ。
ステータスはそこまで変わってないけれど、シア曰く、あれはただの補正や成長のしやすさを示すだけのもので。
実際、筋肉はついて体力も増えたし、魔力も増えているのだろう。
「召喚するのも、この場に維持し続けるのも、魔力の消費はアルトが担当してるからね。大分増えたわよ」
「あまり自覚はなかったけど、うん。確かに一日中スライムを呼んでもつかれなくなったね」
スライムが暇している間が勿体ないので、ここの近隣の農家に、草むしり用スライムを貸したりすることも出来ていたりした。
「アルト様のスライムが手伝ってくれたおかげで、こちらも大分楽が出来てまさあ」
「そうね。腰を痛めて草刈が出来ない時は本当に助かったわ。私たちがやるよりもきれいに仕上げてくれたし」
と、農家たちとスライムの仲も良好になったし。いい事尽くめだ。と、考えていたら、
「そのくらいの魔力があれば、同時に召喚魔法、もう一つ使えるんじゃない?」
「え? 行けるの、それって?」
「魔力の容量次第では行けるわよ。同時召喚。というかこの前、竜を倒した時もやってたじゃない」
「あー……スライムと一緒にエウロスを出してたっけ」
「そうそう。だから、同時召喚は出来るってことでね。というか、エウロスも呼んだら。きっと暇よアイツ」
「凄いカジュアルに召喚しようとしてるけど。かなり強いんじゃなかったっけ、彼女」
竜を吹っ飛ばすくらいの存在を芋の収穫に使っていいものか。
「気軽に使うくらいがちょうどいいのよ。慣れておかないといざって時に使えないしね」
「それも、そうだね」
呼び慣れておくのは大事なのは確かだ、と俺は召喚する。
「【来たれ、雨と東風の軍団長:エウロス】」
指輪が光を放ち、そして嵐をまとった女性が俺の目の前に召喚された。
「はあーい。呼ばれたから来たけど、……敵がいるって訳じゃ無さそうね」
「ああ。来てくれてありがとう。今回は何かを倒すんじゃなくて、作物の収穫を手伝ってもらいたくて呼んだんだ」
そう言うと、エウロスは、一瞬あっけに取られ、
「あははっ、収穫祭で作物を捧げられたことはあるけど、自分が収穫するのは初めてだわ。というか私をそういう風な使い方をする主も初めてだけど!」
と、おかしそうに笑った。
「ああ、申し訳なかったかな。こういう用件で呼ぶのは」
「いや、愉快で良いわ。いつも血なまぐさい場所に呼びつけられるのもなんだし。農作業だって嫌いじゃないしね。必要であれば雨だって降らして上げるわよ」
「それは、ありがたいから今度頼むとして、それじゃあ、とりあえず、地中の芋を掘り起こすから、その助力をお願いするよ」
「分かったわ。貴方の身体に憑依するから、適度に風を使って補助してあげる」
そう言って、エウロスは俺の背中に風に変化して絡みついた。
それだけで、大分身体は軽くなった。1ヘクタールも一日かければ一人で掘り返せそうな気すらしてくるのだが、
「さ、もう一体行けそうだから、いっちゃいましょ」
「え? 三体同時に? 大丈夫?」
「今のエウロスの使い方を見てたら行けるわよ。行けなくて倒れたら私が担いで持って帰るわ」
「まあ、今までも何度か運んでもらったから。家族は驚かないか」
体力を使い果たして、運んでもらった経験はこれまでもあったし。今回も収穫で頑張り過ぎたという事にすれば問題ないだろう。
そう思って、俺は魔法を行使する。
「【来たれ:土の精の軍団長 アラクネ・アディプス】
いつものように指輪が光り、そして出てきたのは、
「ふわあ、久しぶりに呼ばれましたね」
俺の身長よりも少し小さな、眠たげな眼をした女の子だ。ただし、その下半身は、蜘蛛のものだったが。
「相変わらず眠そうね、アディプス」
「昼は得意じゃないんです。それで、ええと……今は主はシアじゃなくて、こちらですね。アルト、で宜しいですか」
「うん。よろしく、アディプスさん」
「アディプスでいいです。で、ご用件は?」
「芋の収穫を手伝ってほしいんだけど……」
俺は背後を指し示しながら言った。
「ああ。なるほど。この土地で、地蜘蛛としての活動の方をお望みでしたか。であれば、もっと蜘蛛寄りになりましょう」
そう言って、アディプスは、自分で指をぱちりと鳴らした。すると、少女のようだった上半身が変化し、それこそ蜘蛛そのもの姿になった。
『こっちの方が地中で顔に土が入らなくていいのです。お化粧が崩れるのです』
人間の言葉は話せてないが、動植物会話スキルのお陰で問題なく会話は出来る。
『化粧してきてるんだ……』
『当然なのです。というか貴方は、普通にこの状態でも意思疎通できるのですね。最初から蜘蛛の姿の方がよかったかもですね』
「いや、でも、可愛い姿を見れたら、俺としてはやる気が出るのでうれしいよ? 蜘蛛の姿も格好いいとは思うけど」
言うと、僅かに間があって、プイッと顔を向けた。
怒らせたか、と思ったが、
『……褒められると悪い気はしませんね』
『照れているだけっぽいわよー」
シアがそんなことを言っている間に、アディプスは畑の方に向き直った。
『ともあれ、仕事はしっかり果たすのです」
『ありがとう。俺とシアは、手前の方で出来る限り作物を収穫していくから」
『では、向こう側から私はやるのです』
アディプスは、そのままズボっと地中に潜り、向こう側まで突き進んでいった。
地蜘蛛だと言っていたが、地中を行くのは得意なようだ。
見れば、その移動の最中に蜘蛛の糸で網を作り、作物を絡めとっている。
「器用だなあ、彼女」
「でしょ。結構のんびり屋でもあるけど、仕事人でもあるのよ」
「それは有難いな。ただ、任せっぱなしっていうのなんだし。俺達も出来る範囲で収穫しようか」
そして、数時間後。祖父や兄たちが到着したころ、
「こ、これはいったい、どういうことだ!」
「アルト、今日は収穫の日だと聞いていたが、まさか、もうすべてやり切ったのか!?」
「ど、どうにかね……」
山のように積まれた作物の横で俺は頷く。
体力はギリギリになって、スライムやエウロス、アディプスは帰ってしまったが、今回実った分を、収穫しきる事に成功したのだ。
――――――――
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