第4話 秘密の魔法教室


 シアの言葉に、俺は目を見開いた。


「え? 君、そんな事も出来るの?」


「まあね。こう見えても、秘密の多いれでぃだから」


「……うん。秘密が多すぎるから、あとあとゆっくり聞ければと思うんだけど、とりあえず、魔法を知りたいかな」


「分かったわ」


 ぴょん、とシアはベッドから飛び降りて、俺の下に来た。

 そして毛深い己の懐をもぞもぞとあさって、1個の指輪を取り出した。

  

「はい、これを付けて」


「これは?」


「魔法を使いやすくするものよ。私は使わないから上げる」


「ああ、ありがとう……」


 言われるがままに、人差し指付けると、俺の膝の上にシアは座った。


「んじゃ、私と同じ言葉を喋ってね」


 そう言って、シアは俺に耳打ちする。その言葉を、俺は改めて言う。


「【来たれ:水の精の軍勢】」


 瞬間、指輪が輝き、俺の周囲に魔法陣が生まれた。そして――


 ――ポン

 

 と軽い音と共に、青いスライムが十数体出現した。

 

「こ、これが魔法?」


「召喚の魔法ね。はじめてにしては結構な量を出せたんじゃない? 凄いじゃない!」


「あ、ああ。本当に凄いな。初めて使ったから、驚いてばかりだけど……」


 こんなことが出来るようになるなんて。正直感動である。


 などと思っていると、

 

「ぷる……」


 スライムたちは、こちらをじっと見たり、ゆっくり近づいてきたり、俺の膝の上で寝ようとしたり、犬や猫っぽい動きでまとわりついてきていた。

 

「ええと……この子たちは何が出来るんだ?」

 

 もちもちしており、ひんやりしていて気持ちがいいのは分かった。ただ、呼び出しただけでは、何が何なのかさっぱりである。だから聞くと、


「水まきとか、草抜きとか? それ位は出来ると思うわよ」


 シアに言われ、スライムたちを見ると、肯定するように頷き――というか縦揺れした。


 こちらの言葉を理解する知性もあるようだ。


「開拓や開墾には人手が必要だから、有難いな」


「でしょ? 因みにレベル20くらいのスライムたちだから。多少の魔物相手なら、守ってくれるわよ」


「レベル20って、昨日の俺より強いんだけど」


 というか、駆け出しの戦闘職の人よりも強い。

 

「レベルだけじゃ判断できないけどね。でも、強い方がいいでしょ?」


「まあ、そうだね。元魔王城だけあって、モンスターも強いのがいっぱいいるから……」


「そうなの?」


「運が悪いと小型の竜や飛竜(ワイバーン)とか出るし。そういうのは警護隊じゃ歯が立たないから兄さんか姉さんがいないと無理な位なんだ」


「ふーん、ドラゴンねえ」


「だから、こういうスライムでも気になる人はいるだろうし。領地で農作業する時、一緒に作業する人がいたら敵じゃないからって言っておかないとなあ」


 などと言っていると、

 

「失礼します、アルト様! 奥様、すっごい喜んで――って、ひゃあああああ!?」


 嬉しそうに入ってきたフミリスが、驚きで腰を抜かす羽目になった。


「なんですか! このスライムたちは!? 私より強そうなんですけど! というか、アルト様、ご無事ですか!?」


「ああ、うん。俺は大丈夫だし、このスライムたちも味方だから……」


「ええ!?」


 とりあえず説明があまりにも難しかったので、元魔王城で、羊飼いの能力で仲間にしたモンスターであると伝えたけれども。

 

「レベルが上がって、やれることも増えたけど。元魔王城の開拓のために、まずは、やれる事の範囲を学ばないとな」


 体を鍛えて、魔法を覚えて、それと同時に、シアの事情も聴いたり、魔王城跡地を開拓したり、やる事は盛りだくさんだ。


――――――――

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