スマホの中のキミ

鮎川伸元

画面の中にいるキミ

 暗い暗い自分の部屋で、自分の机の引き出しにあるスマホが勝手にブーッブーッと動いて、私の意識が見えないスマホへ向く。ムクっとベットから起き上がった私は、憂鬱な気持ちでスマホを取り出した。



 暗い部屋の中で、スマホの画面だけが眩しい。そこには一つの通知があった。



《クラスグループ》に一件の通知

『○○さんが配信のリンクを共有しました』



 私が持った反応は冷ややかなモノだった。どうせ何かの手違いなのだから、無視してもいいだろう。



 そう思っていたが、次に来た通知で私は、禍々しい嫌悪のようなモノを感じた。



《クラスグループ》に一件の通知

『キミに伝えたいことがある』


 着信音がさらに何回も鳴って、更なる通知が来る。


『え?誰かに告白でもすんの?』


『ウケるんですけどwww』



 クラスメイトの反応も、決していいモノではなかったが、野次馬根性かどんどん人が集まってくる。でも私は見たくなかった。



 スマホを握っている指を動かして、スマホの電源を消そうとした。それなのに...............。



「なんで...............?」



 電源ボタンを何度押しても、画面の光が消えない。



「待って.............ほんと.............意味が分からない.............え?」



 勝手に画面が切り替わって、スマホから声が聞こえだす。配信に参加してしまったのだ。



「ガサッザザザザ」


 

 カメラをオフにしているからなのか、画面には何も映っていない真っ黒だった。



「みなさーん集まってくれてありがとう。でもお前らに用はないから」



 その彼の一声によって、コメント欄は加速したように罵詈雑言が溢れて流れていく。



「ガサ......ザクッ、ザクッ」



 どこか舗装されていない所を歩いているのだろうか、砂や石を踏みしめる音がする。

 


「君にボクの全てを.............あげたのに.......君は.............」



どこか息切れというか嗚咽が混じったその声は、気味が悪い。



「君の中に僕は残らなかった.............」



「だから、これから残すね.............」



 そう言い終わった時、真っ黒な画面にライトの光が現れる。チラチラと何か彼の持っているものに光が反射し始めて、一つの事実が判明する。



 カメラがオフなんかじゃない、周りが暗いだけなんだ。



ガンッという音がしてカメラが固定される、暗視モードに切り替わって、そこの全貌がやっと分かった。



カメラが悪いのか、このスマホの電波が悪いのか、解像度が悪かったが、岬に誰かが立っていることは余裕で理解することができた。画面に映る人は何かを持っているのだろうか、片方の腕がもう片方の腕よりも長く見える。



「キミは魅力があるから、沢山の男を侍らしているんだろうけど」



「キミには僕がいれば十分でしょ?」



「知ってる?死んだときの怨念は、自分の思い残した場所だけじゃなくて、人やモノにも憑くことができるんだよ」



 私はその言葉の意味を理解できなかった。彼の音の連なりが、私の耳を通過していく。



「でも、キミにはそれだけじゃ足りない。僕が終わる全てをキミには見せるね」



 こういう時、目を逸らすべきなのだろうけど、私はそうしないそうできない.............



 体が言うことを聞かなくなっていた。怖い話だったら金縛りっていうけど、今画面に映っているのはクラスメイト。人のはずだ.............。




「じゃあ、君にすべて刻み込むね」



 そう言って、彼は自分の持っていた刃物を自分の首筋に当てると、それを鋸を挽くかのように動かしていく。あたりが鮮やかな赤に染まりだしてカメラにも色が付いていく。



 やっと画面の全てが染まった時、私の金縛りは解けた。




 すぐに私はスマホの電源を落として、ベットの中に潜り込む。頭まで毛布を被ると、目をギュッと瞑った。



 真っ暗な部屋で、スマホの画面がまた点滅を繰り返す。



 スマホからまた声が漏れ出てくる。



 クスクス、自分の中から自然と笑みが漏れ出る。



「キミが死んじゃうのは予想外だったけど、これでずっとキミは私のそばにいてくれるんだね。私のことを思ってくれてるんだね」



毛布越しに見た君の姿は、真っ暗で片方の腕が長いままだった。なんだ.............キミはこれを望んでいたんだ。



私はこれ以上することが出来なくなった事に少しがっかりした後、そっと目を閉じた。



「キミのお望み通り一緒に行こっか」









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スマホの中のキミ 鮎川伸元 @ayukawanobutika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ