3-1 覚悟

 次に第二美術室の扉を開けるときには、きっと明るい気持ちなのだろうと信じていた。


 棗子なつめこさまとの間のわだかまりが消えたばかりだ。新しい厄介事に巻き込むのに、抵抗がないといえば嘘になる。けれど、これはもう決めたことだった。ぐっと拳を握ると、昨日切った指先がジンジンと痛んだ。


 第二美術室はいつも通り、絵の具と油の匂いがしていた。部屋にいた棗子さまは、珍しく衣装を触っていなかった。部屋の中央で椅子に腰掛け、こちらをじっと見つめている。


「調べるのね」


 私が何か言う前に、棗子さまは短くそう言った。私が言うことをすでに分かっているようだった。狭い学園内のできごとだ。棗子さまの耳にも、情報が入ってきているのだろう。


 棗子さまとはやっと少し歩み寄れたばかりだ。このタイミングで、新しい事件を持ち込むのは正直なところ心苦しい。けれど、今の私たちであれば大丈夫だと私は信じていた。

 私たちは共犯者。棗子さまが推理で傷つくことがあっても、私はその傷を共有できる。


「はい」


 棗子さまの目を見て、放った言葉はたった一言。けれど、私たちは言葉以上の覚悟を共有し合えていた。

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