第2話
ある日突然、休止していた天才高校生「KENTARO」のネットでの活動が再開された。従来のオンラインで利用できるデータとプログラムをコンテンツとしたサービスサイトの活動がさらに活発化していた。サイトは洗練されたデザインとユーザーフレンドリーなインターフェースで構築されており、健太郎は知識をそこで提供するのだが、映像や音声を交えて分かりやすく伝えることに以前より力を注ぎ始めた。
彼のサイトは健康、教育、科学の分野に特化しており、信頼性のある情報を提供することに重点が置かれていた。疑似科学やデマに流されることなく、正確な情報を発信する姿勢は、多くの人々に感銘を与え、絶大な信頼を獲得していった。
「KENTAROさんのサイト、すごいですね。ここに載っている情報って本当に役に立つんだよな。」
「彼の知識って本当に信頼できるんだよね。何か困ったことがあれば、ここの情報を見ると解決策が見つかるんだ。」ユーザーの評判はうなぎ登りで、学生からビジネスマンまで彼のサイトへの依存はどんどん高まっていった。
KENTAROのサイトの評判は、口コミやSNSを通じて大きく広がり、徐々にその影響力を甚大なものにしていった。彼はカリスマ的な存在として、オンラインの世界で多大な注目を集めていた。KENTAROのサイトはますます成長し、彼の提供する健康情報や教育コンテンツが多くの人々のライフスタイルにまで影響を与え始めていた。
特に、病気や健康に悩む人々からの支持が高まっていた。なぜか彼が不治の病を克服し、健康を取り戻したという体験談がネットで広く共有され、それが共感を呼び起こし、多くの人々に勇気と希望を与えていた。
「KENTAROさんのサイトを見て、自分の病気に対して新しい視点を得ることが出来ました。」
「彼の経験が励みになっています。頑張って治療に取り組んでいます。」
と言った声がフォロワーから多数寄せられていた。
また、教育コンテンツも高い評価を受けていた。健太郎の明快な説明と深い知識により、難解な科学や学問が理解しやすくなったと評判になっていた。若い世代からは特に大きな支持を受けており、彼のサイトは学校や教育機関で教材として活用されるようにさえなって来たのだった。
「先生が教えてくれるよりも、ここの解説のほうが分かりやすいです。」
「KENTAROさんのサイトがあれば、勉強が楽しくなりますよ。」
その影響力はオンラインの世界にとどまらず、実世界にも広がっていった。テレビ番組や雑誌に登場し、講演会やセミナーで講師を務めることも増えていった。但、KENTAROは常にリモート参加で、スタジオや会場を訪れることはなかった。そこがかれの神秘的な魅力を増幅させてもいた。
その一方で、KENTAROのサイトには賛否両論があり、一部では科学的根拠に欠けるという批判もあった。しかし、多くの人々に希望や知識を提供し、ポジティブな影響を与えていることは間違いなかった。批判も多くなったが、それ以上に、健太郎はカリスマ的な存在として、ますますオンラインの世界で注目を浴びていくようになったのだ。
KENTAROはカリスマ的な存在として、さらなる高みを目指し、SNSでの対立組織への攻撃や他のインフルエンサーとの論争バトルにも挑戦し、そこで勝利を重ねていった。
彼は巧妙な戦略と洞察力を駆使して、対戦相手の心理を読み取り、自らのメッセージを効果的に発信して、最後に相手のSNSサイトに炎上を引き起こして潰していった。
また、以前からあった「KENTAROの主張には科学的根拠がない」という意見に対しても、彼はデータや研究結果を用いて裏付けを示し、自らの経験を交えて説得力を持たせて、反対勢力の批判を鎮圧した。
そして、他のインフルエンサーとのバトルでは、彼らのファン層に対しても自らの理念を分かりやすく伝えることで、かれらの支持を取り付けて自分のフォロワーにしていった。
「KENTAROさんのサイトを見て、考えを改めることができました。彼の情熱に共感しました。」
「彼のスタンスに共感する人が増えているのは、彼の説得力と情熱があるからだと思います。」
KENTAROの名声はますます高まり、彼のサイトは巨大な影響力を持った。
しかし、その一方で、彼の行動に対して懐疑的な声も根強く残っていた。彼の提供する健康情報や教育コンテンツの信憑性についての専門家からの指摘の数は、依然として多いままだった。
それでも、KENTAROは、やがてネットの世界を牛耳る存在となった。莫大な電子マネーを手に入れ、富と名声を手中に収めることで、彼はますます影響力を拡大させていった。そして、かれは「デジタル・カリスマ」と呼ばれるようになった。
彼のサイトや他のSNSへの攻撃によって、多くの人々が健太郎の思想に共感し、彼の指南に従うようになった。一方で、かれのフォロワーは信徒化してどんどん過激さを増し、ちょっとした問題でもネット上で暴徒化する傾向が顕著になって来ていた。
「KENTAROの情報は本当に役立つけど、過激なファンが問題を引き起こしているみたいだよね。ちょっとたちが悪いんだよね。反社ではないけど、ちょっと危険な匂いがするよね。」
「KENTAROの影響力はすごく増しているのだけど、批判の声も同じくらい強くなっているようだしね。」
渦中のKENTAROも、突っ走って来たものの、ここに来て自らのカリスマ性をどう使っていくべきかを考え直していた。彼は、自分のネットでの成功は、得た力の分だけ責任を伴っているのだと考えていた。
「僕の意見が世界にどれだけ影響を及ぼすか… 軽率に行動するわけにはいかないな。」
彼は自らの発信をより慎重にし、情報の正確性を確かめるようになっていった。また、自らの影響力を使って社会にポジティブな変化をもたらす方法を模索し始めてもいた。
そんな時、ある女性がKENTAROにコンタクトを取って来た。
女性の名は、加藤美和。30歳前後の環境保護団体の活動家で、エコファッショニスタの肩書を持つ数か国語を操る才女だった。美和は、エコファッショニスタとして、エコフレンドリーなファッションアイテムを提案する活動を行っていた。既存のファッションブランドと提携し、自身のブランドを立ち上げて、自身のSNSのチャンネルを通じてエコファッションのスタイリングや商品紹介を行い、フォロワーたちに環境に配慮したファッションの楽しみ方を提案していたのだ。その活動を通じて、一程度の支持と知名度は持っていたが、まだまだ影響力は小さかった。彼女は環境保護団体に所属し、自然保護やプラスチック削減などのテーマに関する情報を広める広報の役割も担っていた。
美和は、「デジタル・カリスマ」と呼ばれるKENTAROの圧倒的な影響力を自分の活動に生かしたいと、KENTAROの影響力を利用したいという魂胆を隠さず堂々と言って、率直に協力を求めて来た。
接見は、WEB会議で二人だけ行われた。美和は、彼女が行っている事業と、KENTAROの事業とのコラボに関しての詳細なプレゼンテーションを行った。そこには、環境活動家としての主張も織り交ぜていた。美和は、長身に長い黒い髪、切れ長の目に理知的な顔だちをした美女で、その瞳には強い意志を宿していた。
「美和さん。ありがとう。ご提案の趣旨内容はよくわかりました。あなたの事業拡大にこのコラボは大きく貢献することは理解できたのですが、僕のメリットは何でしょうか?」
KENTAROは、なぜか靄がかかったような画面の中で、淡々と美和に尋ねた。
「KENTAROさんにとっても、環境問題への取り組まれているというのは、印象面で大きなプラスだと思いませんか?このまま独り勝ちし過ぎると周りから恨まれますからね。私利私欲の為でなく、社会貢献もしっかり考えているというスタイルは、最終的にはあなたにとってもイメージアップと大きな利益を生むと私は信じています。」
美和は不敵に笑った。
KENTAROは薄い笑みを浮かべて言った。
「僕も自分の影響力を社会にプラスになる方向で利用できないかと考えていたところなんです。偶然ですね。しかも、環境問題はある方から取り組むように示唆も受けていました。」
KENTAROはWEB会議システムの画面の向こうで笑みを深めた。何か靄がかかったように霞んで見える画面も少し奇妙だったが、美和は、初めから何故か背筋が凍るような威圧感を感じていた。目の前に映るKENTAROは、まだ十代の男性の幼さを顔立ちに残しつつも、落ち着いた雰囲気を持っており、穏やかに笑っていた。それなのに、美和は、何故か心をみすかされているような錯覚に陥っていた。
「それでは、私共の申し出を前向きに検討していただけるということでしょうか?」
「そうだね。すぐにでもアクションを起こしましょうかね。」
美和は、「(うまく載ってくれたわね。よかったわ。)」と心の中で安堵していた。
「そうだね。」と画面の向こうのKENTAROも笑っていた。
「(嘘、声に出てたの。)」美和は、驚いて画面の向こうで輪郭がかすみそうに見えるKENTAROを見つめた。かれの表情は静止画像のように止まって見えていた。
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「KENTARO」と環境保護活動家であり、エコファッショニスタである加藤美和とのコラボはすぐに注目を集めた。まず、活動として、ビーチクリーンアップ活動を展開し、日本の美しい海岸でビーチクリーンアップ活動を提案してイベントも実施した。これにより、自然環境の保護や海洋プラスチックの問題に注意を喚起した。そして、モデル並みの容姿を持つ美和、自らが、エコフレンドリーなファッションアイテムを着こなす姿をSNSで披露した。
KENTAROを取り巻く日本の有力インフルエンサーたちとも、美和はコラボの機会を得て、かれらに、自分のスタイルに合ったエコファッションを提案して大きな反響を得た。
そして、環境配信と称して、美和とKENTAROの取り巻きインフルエンサーたちは、自然保護団体と連携して、生配信で自然保護に関するトークショーや情報を提供しだした。その配信には、初期段階ではKENTAROも参加して持論を展開し、多くの視聴者を持つことになったのだが、途中から美和が配信を仕切り出し、仲間のインフルエンサーたちを全面に出して、時事ネタを扱い、政治や経済、そして著名人の暴露ネタのようなものまで扱うようなワイドショー的なものに変わっていった。
当初は、環境問題にかかわることで、KENTAROの『多くの過激なフォロワーを持つ危険なインフルエンサー』という印象が薄れて、社会から絶大な支持を得るようになったのだが、一方では、美和のこの「配信内容の方向変換」により、過激フォロワーがそちらの配信に集まり、その数はむしろ拡大していったのであった。
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