勇者の軌跡閑話5:オーガ、自分を振り返る
俺はオーガ、巨人族だ。同族からは、「英雄」と呼ばれていた。
何故過去形なのかというと、追放されてしまったからだ。
俺が「英雄」と呼ばれていたのは、敵である「人族」の侵攻をことごとく退けてきたからだ。
あの連中は、個人の能力は大したことないのだが、何しろ数が多いので、倒しても倒しても湧いてくるのだ。
個人の能力では、俺たち巨人族の方が圧倒的に高いが、それでも次から次へと絶え間なく攻められたら、流石に息切れしてしまう。
そういった攻勢には、こちらから攻めるのではなく「防御」に徹して、相手が疲労で動きが鈍ったときに一網打尽する方が効果的だ。
俺はそう言った戦い方が得意なため、よく人族に侵攻されている場所に駆り出された。
ただ、同族の中には俺の戦い方を「格好が悪い戦い方」と
戦闘に格好良いも悪いもない、と俺は思っている。いくら格好よく戦っても敗北すれば意味がない。命が掛かっているなら
まあ、そのような事を外野からどうこう言われても俺の戦い方を変えるつもりはない。出来ないしな。
そんな中、俺たちの族長がその若い連中の思考に染まった奴に代わると、俺は冷遇され始めた。
冷遇されるのは特に何とも思わなかったが、族長が若い連中に
族長の気持ちはよくわかる。分かるが、やり方が
とはいえ、追放された身ではどうすることも出来ず、仕方なく俺は近くの島に移り住んだ。同族に何かあれば、すぐに駆け付けることができるからだ。
その島は、エルフ一族が住んでいる島だった。俺は、エルフたちの迷惑にならないように、ひっそりと暮らすことにした。
それから5年ほど経ったが、同族に何かあったという事もなく、平穏に過ごしていた。
そんなある日、いつものように襲ってきた魔物を追い払っていると、奥の方に人らしき気配を感じた。ただ、気配をほぼ消していたので、「たまたま」気が付いたといった方がいいかもしれない。
そいつは、エルフとも人族とも違う種族のようで、あくまでこちらの様子を観察しているだけで、こちらへの戦意は一切感じなかった。
そいつの気配が消えた後、暫くするとエルフと人族が来る気配がした。
エルフが人族と「一緒に」来るというのは、まずありえない。何故なら、エルフは人族を嫌悪しているからだ。
向こうが俺に気付いたとき、エルフの一人から戦意が感じられたが、何故かすぐにその感じが消えた。
それにしても、あそこにいる人族、かなり強い。もし戦うようなことになれば、下手すれば負けてしまう可能性すらある。
しかし、奴らから戦意は感じられない。まあ、こちらに危害を加えるつもりがないなら、特に気にしなくてもいいか、と思って無視していた。
すると、何か魂を揺さぶられる匂いが漂ってきたではないか。
これは、俺が過去一度だけ嗅いだことがある「ご飯」を炊くときの匂い!
俺は、一度だけ「ご飯」というものを食べたことがある。白い粒粒の種のようなものを、三角形に成型した「おにぎり」という食べ物。
あれを口に含んだときに、ふんわりとして、それでもしっかりと歯ごたえがあり、ほのかに甘い。味付けは塩だけと素朴なのだが、何故か感動するほど旨かった。
あれ以来、俺はもう一度食べたくてあちこち探したのだが、ついに見つけることができなかった。
俺は、その匂いの元へふらふらと近づくと、調理をしている人族の男に確認をした。
すると、やっぱり「ご飯」だった。俺は、
「ご飯」が出来上がり、俺が我慢できずに手を出した時、その男は「おにぎりを作ってやる」といった。
「おにぎり」!!俺が今まで恋焦がれてきた料理!!
俺はそいつが言うとおりに、「おにぎり」ができるまで待った。そいつは、熱々の「ご飯」を三角形に握り、塩を付けただけの「塩おにぎり」を作り、俺に渡してきた。
俺は男から念願の「塩おにぎり」をもらい、冷静さを装って「それ」を口に含んだ。
その途端、昔俺が食べたあの感動が蘇った。
俺が夢中で食べていると、その男が「仲間になれば、腹いっぱいおにぎりを食べさせてやる」と言ってきた。
何という事を言うのだ。今の俺にとっては正に「悪魔の
俺は積極的な戦闘をしない。相手の攻撃を受けて、疲れてきたら攻撃するやり方だ。
そのことをその男に伝えたら、快く受け入れてくれた。
その後、正式に仲間と認められ、自己紹介をしてくれた。
この男は「勇者」。確か「勇者」は「異世界の転生者」と言われていて、この世界の人族とは考え方が違うと聞いたことがある。
なるほど、それで人族を嫌悪しているエルフとも仲良くできているのか。
あとは、エルフの「聖女」と、先ほど俺を観察していたハーフリングの「アサシン」。
2人とも、見た目は子供だが、立派な成人とのことだ。
俺は、勇者から「魔族と敵対するけど、問題ないか?」と聞かれたが、別に魔族とは親しくしていたわけではないので、問題はない。相手が襲ってきたら、「敵」と認識して仲間を守る。ただそれだけだ。
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「野に咲く~、花のよ~うに~、風に吹か~れて~♪」
「お、ゆうしゃがうたっている。めずらしい。」
「そうね。何歌っているのかわかんないけど、パーティメンバーが揃ったから機嫌がいいんじゃないのかしら。」
そんなことを、聖女とアサシンが言っている。俺が加わって、嬉しそうにしている勇者を見ると、何だかむず痒い感じがする。
・・・それにしても、勇者が口ずさんでる歌だが、何か懐かしいものを感じる。何故だろう?
「ぼぼぼ、僕はだな、おおお、おにぎりがすすす、好きなんだな。」
自然と口からそのような言葉が出た。不思議だ。
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