勇者の軌跡40:勇者、最後の仲間を手に入れる

 偵察に行ったアサシンからの情報は、実に興味深いものだった。

 アサシンがそのオーガを見つけた時、丁度魔物との戦闘中だったそうだ。

 「戦闘中」とは言ったが、実の所魔物たちが「一方的」に攻撃していたらしい。

 それを、そのオーガは避ける事や防ぐこともせず、ただただ受けていた。

 それでも、オーガには全く攻撃が効かず、そのうち魔物たちが疲れてくると、オーガはそばに落ちていた棒を拾い、一振りですべての魔物を吹き飛ばしてしまったのだ。

 ちなみに、攻撃していた魔物は、アサシン曰く「たぶん、エルフでもてこずる」位に強い部類だそうだ。

 多分そのオーガ、物理防御力は当然として、魔術防御力も非常に高いんだろう。

 アサシンの話によると、その魔物たちは物理攻撃は勿論、炎を吐いたり雷を落としたりしていたらしいからな。尤も、「全く」効いていなかったそうだが。

 いいね、これはもしかして、聖女と同じくレア枠かもしれない。

 ただ、素直に仲間になってくれるかだよな~。何せ、オーガ含めた巨人族は、人族と「敵対」しているからな~。エルフ聖女ハーフリングアサシンとは事情が違うから、どうなることやら。

 そんなことを考えていたら、後ろから鈴が転がるような声が聞こえてきた。

「勇者様ぁ~、そろそろこの縄を解いてちょーだぁ?うちも、そのオーガに会うても『すぐには』戦きゃーたりせんでよー戦ったりしないからさー。」

 そう、亀甲縛りにされて未亡人エルフに担がれた変態戦闘狂ハイエルフ権威があるはずの女王が抜かしてきた。

 うん、絶対「噓」だな。ガキんちょはその場の言い逃れの為に平気で嘘をつく生き物だからな(大偏見)。

 俺がそう思って無視していたら、今度は未亡人エルフがお願いをしてきた。

「勇者殿、陛下がこのように申しているので、解いてもらえないだろうか?私も、陛下をこのように担いでいるのは非常に心苦しいのだ。」

 それを聞いて俺は立ち止まり、未亡人エルフ(と担がれた変態女王)の方に顔を向けると、とびっきりの笑顔を見せた。

「「ひっ!!」」

 おいコラ、人が笑顔を見せているのにその怯えた反応はなんだ。う~ん、勇者ショック。

「・・・何で、アイツ勇者の笑顔ってあんなに怖いのかしら...。」

「うん、ちょっとちびったかも。」

「・・・ガタガタ(顔面蒼白)」

 以上、合法ロリーズとちびっ娘エルフ未亡人エルフの娘の反応です。なんでやねん。

「別に解いてやってもいいけど、ちょっとでも約束を反故ほごにした瞬間、『ものすっごく「酷い事」をする』からね?おK?」

 俺がそう「笑顔」で言うと、未亡人エルフと変態女王はまるで壊れた人形のようにブンブンと首を縦に振っていた。

「「こわいこわいこわいこわいっ!!」」

「・・・ブクブク(失神)」

 はい、これまた合法ロリーズとちびっ娘エルフの反応です。失礼な、まるで俺の笑顔が物凄く怖いみたいではないか。(自覚なし)

 まあ、そんな微笑ましいやり取りをやった後、間もなくして問題の現場に着いた。

 ・・・奥の広場の真ん中に座っているのが、その「オーガ」か。遠目だが、結構デカいな。もしかしたら、俺の倍ぐらいのタッパ身長があるんじゃなかろうか?

 ほう、向こうは既にこちらに気付いているな。なかなかの猛者と見た。

「あれが例の『オーガ』かね?ほだら早速...きゅっ?!」

 などと言って、さっき約束したことをすっかり忘れた鳥頭変態女王クルクルパーの戦闘狂(捕縛解除済み)が、早速戦闘を開始しようとしたので、すかさず背後に回り、チョークスリーパーで失神させた。

 その後、さっきの約束通り「すっごく酷い事」をした。勿論、未亡人エルフも「連帯責任」で付き合ってもらった。

 それを見た合法ロリーズはドン引きしている。ちびっ娘エルフはまた失神している。

 あ、「鳥頭」と言ったが、本物の鳥は賢いからな?可愛いし。鳥たちの名誉のために言っておかないといかん(義務)。

 さて、くだんのオーガだが、俺たちのことは興味がないようだ。「いつもの事」と思っているかもしれん。

 しかし、あのオーガ、何故か「既視感」があるのだが...?

 ・・・あっ、分かった。「前世の記憶」にある「放浪癖がある天才画家の某『裸の大将』」に雰囲気がよく似ている。

 とすると、「あの」方法が使えるかもしれないな。

 そう思った俺は、荷物から土鍋とコメを取り出すと、その場で早速ご飯を炊き始めた。

「・・・アンタ、いきなり何やってるのよ。はっ、もしかして空腹の私を見かねてご飯を作ってくれてい『違うわボケ。』」

 などと、涎を垂らしながらそう言ってきた聖女をばっさり斬り捨てた。

「ゆうしゃ、なんでいきなりごはんをたくの?もしかして、『はぐれオーガ』にかんけいしている?」

 うむ、流石はアサシン、察しがいいな。

「まあな。うまく行くかは分からんが、とりあえずやってみようず。」

 そう言って、団扇うちわを取り出して、立ち上る湯気をオーガがいる方向に行くように扇いだ。

 すると、今まで無反応だったオーガが「ぴくっ」と反応した。

 オーガはこちらを見ると、おもむろに立ち上がり、こちらに歩いてきた。

 そして、ご飯を炊いている俺の近くに来ると、立ち止まって口を開いた。

「おおお、お前、そそそ、それは『ご飯』なのかな?」

 ・・・おう、口調もよく似ているわ。やべぇ、思わず吹き出すとこだったわ。

「おう、そうだ。もうちょっとで炊き上がるからしばらく待ってな。」

 そう俺が言うと、オーガはその場に座り、じっと土鍋を見ていた。

 暫くして、ご飯が炊きあがると、徐に土鍋の蓋を開けて中を確認した。

「おおおーーー、ううう、うまそうなんだな。」

 オーガがそう言って、土鍋に手を伸ばしてきたが、俺は土鍋を持ってさっとかわした。

「まあ待て、そのままでも十分美味しいんだが、『おにぎり』にするとさらに旨いぞ?」

 俺がそう言うと、オーガは驚いた顔をした。

「おおお、おにぎりなのかな?おおお、お前、おおお、おにぎりを作れるのかな?」

 いかん、「おにぎり好き」も同じなのか。危うく声を出して笑っちまうところだった。つーか興奮しすぎだ。

「当たり前●のクラッカーだ。まあ、今回は『具』を用意していなかったから、シンプルにして至高の『塩おにぎり』にするぜ。」

 そう言って、熱々の白飯を火傷覚悟で握り、塩おにぎりを作った。

「できたぞ、ほれ。」

 そういって、俺ができたての塩おにぎりを差し出すと、オーガは手に取って食べだした。

「ううう、うまいんだな。ややや、やっぱり、ししし、塩おにぎりがいいい、一番なんだな。」

 そう言いながら、俺が次々と握るおにぎりを美味しそうに食べていた。

「なあ、アンタ。そんなにおにぎりが好きなら、俺と一緒に来ないか?そうしたら、何時でも腹いっぱいおにぎりが食べられるぜ?」

 そう言うと、オーガが一旦食べるのを止めて、俺を見た。

 さて、「食い物で釣る作戦」、うまく行くかな?

「・・・ぼぼぼ、僕はかかか、体が硬いだけがととと、取り柄なんだな。そそそ、それでもいいい、いいのかな?」

 はい、それは「肯定」ととりました。キャンセル不可だよ?

「おう、俺は『仲間の盾になってくれる』者を探していたからな。OK牧場だ!」

 俺がそう言ってサムズアップすると、オーガは俺に一礼した。

「わわわ、わかったんだな。こここ、これからよよよ、よろしく。」

 そう言って、再びおにぎりを食べだした。

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 おにぎりを食べ終わったオーガは、正式に俺たちのパーティメンバーになった。

「私は『聖女』。エルフよ。よろしくねっ!」

「わたしは『アサシン』、ハーフリング。よろしく。」

「で、改めてだが俺は『勇者』だ。人族だが、『神の使徒』とも呼ばれている。」

「ぼぼぼ、僕は『重戦士タンク』なんだな。ししし、種族は巨人族なんだな。よよよ、よろしく。」

 よし、これでパーティメンバーが揃ったな。旅立ってからここまで約1年か。長かったような短かったような。

「よし、それじゃあこれから世界を回る旅にレッツらゴー!だ!!」

 俺がそう宣言すると、聖女が呆れたような声を出した。

「アンタねぇ...。私達は、『魔王』を倒す旅に出てたんでしょ!しっかりしなさいよっ!!」

 あれ、そうだったけか?まあいい、些細な事だ。

「ま、そういう事らしいが、タンク、それで問題ないか?」

 俺はオーガにそう聞いた。巨人族は人族とは敵対しているが、魔族とは特に何もない...というか、そういう情報がないので、念のための確認だな、うん。

「べべべ、別に問題ないんだな。ててて、敵には容赦しないんだな。」

 と、オーガはそう答えた。特に問題なさそうだな。

「さて、自己紹介も済んだことだし、目的は達成できたから、エルフの集落に戻るとするか。タンク、早速ですまないが、そこに逆さはりつけにされているエルフ(とハイエルフ)を持ってくれないか?」

 そう言って指さした方向に、罰として亀甲縛り+逆さ磔にされたクルクルパー女王と連帯責任を取らされた未亡人エルフがいた。

「わわわ、分かったんだな。こここ、この位おおお、お安い御用なんだな。」

 そう言うと、オーガは両肩にエルフたちを担いで、全員でエルフの集落に戻った。

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 勇者たちが旅立ったあとの女王の屋敷にて。


「陛下、暫くは自室からお出になってはなりません。」

「にゃっ!?うちは何にも悪いことしてにゃーがね?!」

「陛下、近衛隊長から聞きましたが、勇者様からのお約束を一方的に破り、ご迷惑をお掛けしたそうですが?」

「うぐっ、おにょれ近衛隊長、『宰相には言わんでちょーだぁ』てお願いしたがね!何で言うかね、このたーけ近衛隊長のバカ!!」

「何を言っているんですか、陛下の軽率な行動のため、私も『連帯責任』で酷い事をされたんですから、当然です。」

「そういう事なので、暫く大人しくしていてください。」

「はぁーい。(ニヤリ)」

「・・・そうそう、勇者様からの御伝言をうけたまわっております。」

「勇者様からの伝言?なぁーんか嫌な予感がするがね...。」

「『そこのクルクルパー女王、どうせお前はその場限りの返事をするだろうから、お前が返事した「瞬間」に、ハイエルフの能力を封印する「術」を仕込んでおいたから、そこんところヨロシク。多分、これを宰相から聞いたお前は『何ちゅーことをしとりゃーすかーっ!!』とかわめくだろうな。プークスクス。いやー、「ご都合主義」って本当に便利。』だそうです。」

「な、何ちゅーことをしとりゃーすかぁーっ!!」

「「あ、本当に言った。」」


 そういうことで、ハイエルフの能力を封印された女王は、宰相の許しが得られるまで大人しくせざるを得なかった。正に「身から出た錆」である。m9(^Д^)プギャー。


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