勇者の軌跡38:勇者、女王にウザ絡みされる(何故か名古屋弁)

 現在、この国の女王ハイエルフが宴の会場のど真ん中で泥酔して騒いでいる。

 で、女王が俺を見つけて発した言葉がなんと「名古屋弁」だったでござる。

 お前は何を言っているんだと思われるだろうが、俺も何を言っているんだと思うくらい混乱している。

「つーか、さっき会ったばっかりなんだから『やっとかめ久しぶり』じゃねーだろ。」

 そう俺が言うと、そばにいた未亡人エルフが驚いた顔で俺を見た。

「ゆ、勇者殿、もしかして『エルフなまり』が分かるのか?!」

 え、「エルフ訛り」?「名古屋弁」じゃなくて??

 そう思って、聖女の方を見ると、彼女も驚いた顔で俺を見ていた。

「そう、私達みたいな『若い』エルフはほとんど使わないけど、年長のエルフはよく使っているわ。」

「でも、まさかアンタが『エルフ訛り』まで理解できるなんて...。アンタ勇者の『自動翻訳』スキルって、凄いのね...。」

 違うよー。「自動翻訳」スキルは「他種族との会話」を翻訳するので、訛りまでは対応していないぞー。多分。

「そうじゃない。たまたま俺のいた世界に似たような言葉があったから、それでわかっただけだ。」

 そう答えると、聖女は「へー。」と抜かしやがった。あ、コイツ信じていないな?

 つーか、言葉だけ似ているのかと思ったけれど、意味も一緒なのね。とか思っていたら、

「にゃはははは~♪」

 と、突然笑い声が聞こえたのでそちらに目を向けると、女王が真っ赤な顔で満面の笑みをたたえて、おぼつかない足取りで俺に近づいてきていた。手に一升瓶とコップを持って。飲兵衛のんべえ親父かお前は。

 しっかし、改めて冷静に見ると本当に俺より年下なのか?と思うくらいのパーフェクトボデー、それに加えて酔っぱらっているからか白い肌がピンク色に染まってめっさエロい。

「な、なあ。女王って本当に俺より年下なのか?」

 俺が横にいる未亡人エルフに聞くと、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そうだ。驚いただろう?陛下は今年で8歳になられたが、小さい時からあのお姿なのだ。」

 マジか。普通のエルフと逆の成長をするんだな。ロリ巨乳とは実にけしからん。

 とか話していると、いつの間にか俺の目の前に女王がいた。かと思ったら、

「ゆうしゃさまぁ~♪」

 と言って抱き着いてきた。

 おおう、何と言うボリューム、いままで大平原ばっかりだったから、実に刺激的である。全くもってけしからん。もっとお願いします!めっさ酒臭いけど。

「陛下、そのように『絆』を結んでいない男性に軽々しく抱き着くなど、はしたない真似はおやめください。」

 と、未亡人エルフが余計な事を言った。いや、はしたなくて結構毛だらけ猫灰だらけ、おケツの周りはクソだらけでござる。

 すると、女王ロリ巨乳は俺に抱き着いたまま、顔を未亡人エルフに向けて、

うるしゃ~ようるさいな~。近衛隊長は堅物でかんわなんだからもちっと肩の力を抜きゃあせもう少し肩の力を抜きなさいよ。」

 と言ったかと思ったら、今度は俺の方を向いて、

「ゆうしゃさま~。うちがついでやるで私が御酌をしてあげるから、遠慮なくのみゃあせ呑んでくださいね。」

と言って、一旦俺から離れたが、言葉に反して手酌で自分女王が飲んでいた。お前が飲むんかい。

「ゆうしゃさまぁ~?何で呑みゃあせんのぉどうして吞まないんですかぁ?あ、ひょっとして、うちがついだ酒は呑まれせんいうことかね私が注いだ酒は呑めないってこと?」

 ぐでんぐでんになっている女王がそんなことを言ってきた。ただの酔っ払いである。面倒くせぇ~。

ほりゃあ~ほらぁ~早よぉ飲みんしゃい早く飲みなさいよー遠慮することにゃーて遠慮しなくてもいいんだよ。にゃははははっ!」

 とか言いながら、自分で注いではガバガバ飲んでいる。

 だめだ、こいつロリ巨乳の女王完全に出来上がっている。いくら絶世の美女+パーフェクトボデーだとしても、これはいかん。はっきり言ってウゼぇ。何とかしてくれ。

 そう思い、周りに(無言で)助けを求めたが、皆全力で顔を逸らしやがった。おのれ、薄情者どもめ!

 その後も、泥酔出来上がっている状態の女王からは「愚痴」という名のウザ絡みをされるわ、周りのエルフ共は「触らぬ女王に祟りなし」を決め込んで放ったらかしにされるわ、何故か聖女からはしばかれるわで散々な「歓迎の宴」になったでござる。

 ちなみに、へべれけの女王は、暫く俺にウザ絡みをした後、一升瓶を抱いて寝てしまった。こんな姿絶世の美女でパーフェクトボデーしているのに、やっていることはその辺にいる飲んだくれのおやじである。正に「残念美人」だ。ん、意味が違うか?

「ふう、すまない、勇者殿。普段の女王様は『王』としての威厳があり、私も尊敬しているのだが、酒が『一滴でも』入るとこのようになってしまうのだ。」

 使用人におんぶされて、会場を出ていく女王を見ながら、未亡人エルフがそう言った。

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 翌日、俺たちは女王の招きにより、共に朝食を頂いている。

 広い部屋の真ん中に、長~いテーブルがあり、奥に女王(と従者)、その対面に俺たちと未亡人エルフ母娘が座っている。

「あ゛~、頭痛がいてゃあ痛い~。どえりゃあえらいでかんわもの凄くつらいよ~。すまんけど、お水ちょーだぁ頂戴。」

 そう言って、女王のそばについている従者から、水をもらって飲んでいる。思いっきり「二日酔い」である。

 しかし、素面しらふになっても、エルフ訛り名古屋弁で話しているな。

 他のエルフたちは特に驚いた様子がないから、これが普段の姿なんだろう。

「陛下、お喜びになられる気持ちは大変よく分かりますが、宴の前であのように羽目を外されては、陛下の『威厳』にかかわりますので、その辺りを特にご留意いただきますよう重ねてお願いいたします。」

 と、女王の傍にいるお目付け役(?)のエルフ(ちびっ子)が、そう言って二日酔いの女王をたしなめた。

わかっとるがね~分かっているよ~そんな『やいやい』言わんといてちょーよそんなに『小言』を言わないでよ~頭に響くで二日酔いの頭に響くからさ~。」

 女王が、頭を押さえながらそう言った。

 ・・・それは兎も角ともかく、予想通りというかなんというか、朝食なのに物凄い量だな。

 俺の目の前には、テーブルから溢れんばかりの料理が鎮座している。見ているだけで胸焼けしてくるわ。

 女王は流石に二日酔いであまり食が進んでいないようだが(それでも俺より食べている)、そばにいる聖女や未亡人エルフ母娘は、物凄い勢いで食べている。

 エルフたちにとって、この量は普通なのだろう。信じがたいことだが。

「なあ、毎回これだけ食べるとなると、食料の確保が大変じゃね?」

 俺が横で食べているアサシンに聞くと、一旦食べるのを止めてこちらを見て答えた。

「うん。だから『エルフ』はかずがすくない。」

 あ、なるほど。そういう事ね。人族と同じ数でこの量だったら、あっという間にこの世界の食料はなくなるからな。「自然の摂理」ということだな、うん。

「そういえば、アサシンって余り食べないよな?聖女が『あれ』だから、相対的に少ないと感じるのかもしれないが、『ハーフリング族』って、皆小食なのか?」

 良くラノベで出てくる「ハーフリング」は、健啖けんたん家として描かれているからな。

 すると、アサシンは「うーん」と少し考えて、こう言った。

「んにゃ、ふつうの『ハーフリング』はもっとたべる。わたしみたいな『しょくぎょう』のばあいは、いろいろ『じゃま』になるから、あまりたべないように『くんれん』する。」

 そうか、「暗殺者アサシン」という特性上、その辺は「仕事」の上で支障があるんだろうな。知らんけど。

 それはともかく、あれだけ食べる連中を見ていると、逆に食欲がなくなるんだよな~。

 それを知らない給仕係のエルフに体調の心配をされたが、「アンタらの食べる姿を見ていたら食欲がなくなったんじゃボケ」とも言えず、愛想笑いをしながら食べていた。

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「ところで、勇者様は、なぜ私たちの所にいらしたのですか?」

 朝食を無事(?)に済ませ、二日酔いから復活した女王が、俺にそんなことを聞いてきた。

 あ、ちなみにあの物凄い量の料理は、綺麗になくなりました。びっくりくりくり(以下略)。

 う~ん、何て言おうかな~。「とりあえず西に向かっていたら、たまたまエルフが捕らえられている船に遭遇して、助けたら成り行きでここに来た」なんだけどな~。

 そう考えていると、女王は「なるほど」という顔をして俺を見た。

「なるほど、そういうことですか。これも『精霊のお導き』なのかもしれませんね。」

 そうだ、「絆」を結んでいないエルフって「相手の心が読める」んだった。「エルフ」の上位種の「ハイエルフ」なら猶更だな。しまったしまった(以下ry)。

 というか、今何か不穏な事を言ってたよな?また面倒ごとに巻き込まれるのか?勘弁してください。

「うふふ、やはり言い伝えにあったように、『勇者は面倒ごとがあるところに現れる』なのですね。」

 などと目が眩むほどの笑みを湛えて、女王がそんなことを抜かしおった。

 だーかーらー、人の心を読むんじゃないっつーの。

 あと、何だそのはた迷惑な言い伝えは?俺は面倒ごとが嫌いなんじゃボケ!


 そんな訳で、「勇者の運命」に逆らうことができずに、また「面倒ごと」に巻き込まれる俺たち勇者パーティであった。

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