勇者の軌跡36:勇者、エルフの島に着く

 船内に宿泊した翌日、特に何事もなく航海を続けていた。

 一夜経って、助けられたエルフたちはようやく落ち着いたようで、今食堂で聖女と一緒に朝食を摂っている。

 しかし、予想していたこととはいえ皆アホみたいに食べるな。結構な量の食料を積み込んだのだが、すでに底をつきそうである。あんなちっこい体のどこにそれだけのエネルギーが必要なのか、エルフの7不思議である。

 尤も、残りの6つは今から考えるので、実質1不思議だけどな~。

 その後、暫くすると陸地が見えてきた。どうやらあれが「エルフの島」らしい。

「恐ろしく早く着きましたね...。」

 と、俺の横にいるポンコツエルフが呟いた。

 この前俺が海の水雲もずく(誤記)にした蒸気船奴隷商船だと、彼女らを助けた場所まで約2日かかっていたらしい。それを一日足らずで来たものだから、驚いているようだ。

 まあ、この子たちを乗せていたから速度を落としていたのだが、それでも奴隷商船の2倍以上の速度(大体10ノット)を出していたことになる。

「ところで、エルフの島に港とかあるのか?あればそこに接舷したいんだけど。」

 というと、ポンコツエルフは困ったような顔をして答えた。

「え~っと、人族が『勝手』に作った『桟橋さんばし』がありますが、多分壊されていると思います。」

 あ、なるほどね。そらそうだ。俺だってそうするわ。つまり船が接舷できる場所はないという事か。まあ、予想通りだな。

「あっそ。それじゃあ、あそこの砂浜に乗り上げるよ~ん。」

 俺がそう言うと、ポンコツエルフが驚いていた。

「え?いやいや、そんなことをしたら、海に出られなくなりますよ?!」

 ふっふっふっ、確かに「普通」の帆船ならその通りだ。

 駄菓子菓子だがしかし!この船は「普通」の帆船ではないのだ!

 横で騒いでいるポンコツエルフを放っておいて、砂浜に船を乗り上げた。

「よし、それじゃあ今から乗降口を開けるから、アサシン偵察よろしこ。」

「あらほらさっさー。」

 いつのまにか俺の後ろにいたアサシンにそう言うと、俺は船体前方の扉を開け、渡し板を出した。直後、アサシンが渡し板を使って砂浜に降り立ち、そのまま森の奥に消えていった。

「は?な、何ですかあれ!?何で船の先端が勝手に開いて出入り口になっているんですかぁ!!?」

 実は、港湾設備がない場所でも上陸できるように、揚陸艇ようりくていの機能を付けておいたのだ。まあ、見た目は普通の帆船なので、離岸できなくね?と思われるだろうが、それはオーバーテクノロジー核融合エンジンなので無問題だ。フハハハハハ!

 暫くすると、偵察に行っていたアサシンが戻ってきた。どうやら、この場所にエルフが向かってきているようだ。

 俺たちは、船を降りてそのエルフたちを迎える準備をしていた。勿論、船には聖女が「結界」を張って入れないようにしている。

 そんな感じで、さらに暫くすると、森の奥から2人のエルフが出てきた。

「な、なんだ、あの巨大な船は!?」

「あ、お前たちは人族にさらわれた者たちか?!」

 現れたエルフたちは驚きの声を上げた。

 ふむ、一人はここにいる娘たちと同じちびっ子、もう一人は俺がイメージしていた「エルフ」(容姿端麗、ダイナマイトボデー)だな。

 そんなことを考えていると、ちびっ子エルフが俺たちを見て、

「なっ、人族かっ!?」

 そう言って弓を構え、臨戦態勢をとった。

 俺が身構えようとしたところ、助けたエルフたちが俺をかばうようにちびっ子エルフの前に立ちふさがった。

「やめてください!この方たちは奴隷商人から私たちを助けてくれた『勇者一行』なんです!!」

 そう、ポンコツエルフが弓を構えているちびっ子エルフに叫んだ。

 それを見ていたダイナマイトボデーのエルフが、

「待て、この者たちは『奴隷商人』の仲間ではない。かもし出している雰囲気が連中とは違う。」

 そう言った。

 俺は、目の前にいるポンコツエルフに、小声で聞いてみた。

「なあ、あのダイナ...『大人』のエルフは、お前が言っていた『絆を結んだ相手が死んだ』事例ケースなのか?」

 すると、ポンコツエルフは顔をこちらに向けて、

「あ、はい。そうです。あの方は一度結婚されて、つい先日旦那さんが亡くなられたんです。まあ、先日と言っても5年ほど前ですけどね~。」

 あ、「強制」ではなくて「合意」の方なのね。あと、5年って結構前じゃね?と思ったが、エルフ年齢からするとついさっきぐらいの感じだから、あながち間違ってはいないのか。

 そんなことを話している間に、その未亡人エルフは俺たちを観察していた。

「そこの、人族の教団の服を着た娘、もしかして『同族エルフ』か?あと、その後ろで気配を消している黒ずくめの娘は、『ハーフリング族』だな?」

 ほほう、この未亡人エルフ、「鑑定」スキルでも持っているかのように合法ロリーズの素性を言い当てたな。そんなスキルがあるのかどうかは知らんけど。

 特に、このエルフたちが現れた時から気配を消していたアサシンを認識しているなんて、中々の手練れだな。いや、いくら気配を消しているとはいえ、こんな明るい場所で黒ずくめの格好は目立つわな。

「そして、そこの人族の男、お前からは凄まじい力を感じる。この感じ、もしや『勇者』なのか?」

 いや、さっきポンコツエルフが「勇者一行」と言ったやろがい。つーか、この未亡人エルフ、もしかしなくても人の話を聞いていないな?

「『勇者』...、くっ、流石に相手が悪い。私では勝ち目がない...。」

 臨戦態勢のちびっ子エルフがそんなことを呟いていた。こいつも人の話を聞いていないな。もしかして、ここのエルフって、「人の話を聞く」という能力がないのか?

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「すまない、わが同胞を助けてもらったにもかかわらず、疑ってしまったことを許してほしい。」

 未亡人エルフが、そう言って陳謝した。

「ほら、お前も謝らないか。」

 そう、隣にいるちびっ子エルフに言うと、彼女は渋々頭を下げた。

「・・・う、疑ってごめんなさい...。」

 全く悪いとは思っていないようだが、この宇宙よりも広い心の持ち主である勇者さんは気にしないぞ?あ、ちょっとは気にするかも。

「私は、女王様の近衛隊長をしている。この子は私の娘で部下だ。」

 なんと、親子だったのか。確か、前に聖女から、エルフは成人になるまでは人族と同じ1年に1歳年を取り、その後は10~20年に1歳年を取るとか聞いたな。そうすると、このちびっ子は俺と同い年(エルフ年齢)位なのか。

「それで、どうだろう、非礼の侘びと報告も兼ねて、女王様にお会いしてもらえないだろうか?」

 未亡人エルフ(近衛隊長)が、そのような事を提案してきた。

 へー、エルフ族って、人族と同じように王政なんだな~。つか突然だなオイ。

「それは願ってもないことなんだが、俺が行っても大丈夫なのか?一応『人族』だけど。」

 俺がそう尋ねると、近衛隊長は笑顔でこう答えた。

「確かに、『普通の人族』であれば、私たち近衛隊がそれこそ『命を懸けて』阻止するのだが、お前は『勇者』だ。『勇者』は『この世界』の人族とは異なる考え方を持つ『転生者』と言われているので、恐らく大丈夫だろう。同胞を助けてくれたしな。」

 いやー、いいですわ、この未亡人エルフ。あの容姿で輝くような笑顔(勇者主観)をされたら堪りませんわ~。「未亡人」というのもポイント高いですわ。おまけが付いてくるのはあれだけど、一応「成人」してるからな、無問題ですわ。

 うちの聖女と代わってくれないかな?あ、こら、後ろから「幻●脚」を放つんじゃない。地味に痛いわ。

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 そんなちょっとした寸劇があったが、俺たちは近衛隊長未亡人エルフの招きでエルフの女王に会うこととなった。

 道中、女王についてのことをいろいろ聞いた。

 何でも、女王は普通のエルフではなく「ハイエルフ」ということだ。

「ハイエルフ」といえば、俺のイメージは某ロードス島●記の「ディードリ●ト」なのだが、期待していいのかしら?とか思っていたら、その女王、なんと俺より年下ということらしい。つまり「未成人」だ。

 つーことは、またちびっ子なのか?もうお腹いっぱいです。

 そんなことを考えていると、未亡人エルフが俺の心を読んだのか、悪戯いたずらっぽく笑った。

 あれ?あのポンコツエルフの話だと、「絆」を結ぶ前のちびっ子にしか相手の心を読む能力がないとか言っていたけど?

 あー、これはエルフの「特殊能力」ではなく近衛隊長未亡人エルフの「経験則」だな、多分。

「はっはっはっ、確かにお前の思っているように、『エルフ』だとそうかもしれないが、『ハイエルフ』である女王様は、我々とは異なるのだよ。まあ、実際お会いすればわかるさ。」

 ふーん、まあいいや。

 あと、「ハイエルフ」は「エルフ」の完全上位互換らしく、凄まじい戦闘能力があるそうだ。

 ただ、「ハイエルフ」は非常に希少種で、長命のエルフの歴史でも今の女王を含めて3人しかいないそうだ。

「『女王』といっても、人族の王とは違い、『権威の象徴』なので、政治的な事にはほぼ関わらない。なので、極端な話、赤子でも『女王』となられるのだ。」

 とは未亡人エルフの話。

 なるほど、前世でいう「日本の天皇」みたいな感じか。

「ちなみに、『ハイエルフ』として生を受けた場合、無条件で『女王』になるんです。なので、『女王』がいない期間もあるんですよ~。」

 これは、ポンコツエルフからの情報。まあ、長いエルフ歴で3人目だったら、そうだろうな。「ハイエルフ」の寿命がどれだけか知らんから、断言は出来んが。

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 そんな話をしながら、俺たちは「女王」のいるに着いた。

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