勇者の軌跡35:勇者、エルフ族の性質と現状を知る

「勇者様。この度は、我々をお救いいただき、ありがとうございます。」

 捕らわれたエルフたちの代表と思われる人物から、お礼を言われた。

 うむうむ、やっぱり人助けは気分がいい。

「気にすんな。こちらは単なる気まぐれでやったことだ。それで、これからどうする?」

 俺がそう問いかけると、エルフ(の代表)は少し考えた後、こう言った。

「我々を元の場所、あなた方が言われる『エルフの島』にお連れいただけませんでしょうか?」

 俺がエルフたちを見ると、皆頷いていた。

 おれはエルフ(代表)が少し考えたのが気になったが、皆が希望しているのであれば特に問題はないと考え、承諾した。

「分かった。それじゃあアンタ、『エルフの島』までの道案内を頼む。他の人たちは聖女が面倒を見てやってくれ。」

「分かったわ、任せて!それじゃあみんな、行きましょう!」

 俺が聖女にお願いすると、彼女は張り切ってエルフたちを連れて行った。

 しかし、傍から見ていると、小学生の登下校風景みたいだな。みんなちびっ子だし。

 ちなみに、アサシンは「一仕事」終えて、さっき食堂で昼食をとって、お昼寝中だ。

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 さて、俺が操船している横で、エルフ(代表)が向かう先を指示してくれているわけだが。

「え~っと、あっちかな?あ、違うこっちだ。あれ?そっちかな?」

 とこんな感じである。結局どっちやねん。

 もしかして俺を惑わそうとしてわざとやっているのか?と思って観察していたが、どうやらそんな感じではなく、ただの「方向音痴」のようである。

「すみません...、私はよく道に迷ってその度に助けられていましたので、こういうことは苦手なんですぅ...。」

 あっそ。まあ、方向音痴はともかく、こんな海原で目印がないところでは色々大変だろうから、別に責めたりはしないが。

「分かった。とりあえず、このまま『西』に向かっていけばおK?」

「え、はい。...、って、どうして方角が分かるんですかぁ?!」

「いや、日の光が前から射しているでしょ?今は夕方(8刻:16時ぐらい)だから、太陽...、日は西にある。だから日が沈むまで前から日が差す方向に進めば『西』に向かっているということになる。Do you understand分かったか?」

 と言って彼女を見てみると、目をドリー●キャストぐるぐるにしてふらふらしていた。

「す、すみませ~ん、あまりに情報量が多いので、理解が追い付いていましぇ~ん...。」

 うん、ダメだコイツ。あいつら(助けたエルフたち)の代表と思っていたけど、どうやら「取りまとめ役」と言うより、単にこいつが一番年上だからみたいだな。

 あ、ちなみにこのポンコツエルフ、このなり(見た目小学生高学年)で聖女(見た目中学生)より年上だった。びっくりくりくりくりっくり。

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 目を回してラリっていたポンコツエルフが復活して、その後何事もなく船は進んでいた。

 特に話すこともなかったので、2人で水平線を眺めていたのだが、ふと気になったことがあったので、俺の横でアホ面をしてぼーっと海を眺めているポンコツエルフに聞いてみた。

「そういえば、最初の時にこれからどうするかを聞いた際、アンタ少し考えたよな?あれなんなの?」

 俺がそう聞くと、ポンコツエルフは驚いた顔をしてこちらを見た。

「えっ!気付いていたんですかぁ?!」

 いや普通気付くだろ。あからさまに考えたふりしていたんだから。

 もしかして、エルフってアホなのか?聖女もアホだし。それか俺たちを馬鹿にしているとか。

「おっかしいなぁ~。絶対バレないと思っていたんだけどなぁ~?」

 うん、コイツがアホなだけだった。エルフの皆(ただし聖女は除く)、疑ってごめーんね?

 結局、そのことは有耶無耶うやむやにされたが、その代わりと言ってはなんだが、このポンコツエルフから「エルフ族」についていろいろ聞いた。俺が知っている情報との齟齬そごの確認もあるからな。情報収集は大事だぞ。

まず一番気になっていたのは、この世界の「エルフ」はちびっ子が多いのか?という事。これに対してポンコツエルフは、

「え~っと、私達エルフは、『絆』を結ぶ前は皆この姿なんです。『絆』を結んだ後に急成長して、人族でいう『大人』の姿になるんです~。」

 なんてこった、パンナコッタ。

 つーことは、人族の街で見かけた所謂いわゆるラノベでよく出てくるダイナマイトボデーの「エルフ」達は、皆「絆」を結んだ奴等ばっかりと言うことかぁーーーーーっ!!(血涙)

 ・・・神は死んだ。悪魔は去った。太古より(中略)。神も悪魔も降り立たぬ荒野に、我々はいる...。(「あの~、勝手に殺さないでくれません?」)

「あ、でもこれは『エルフ族』の中でも極一部の者だけが知っていることなので、ほとんどのエルフは『年を重ねればそのうち大人の姿になる』と思っているみたいですよ~。」

 という追加情報を得た。

 あー、とすると、聖女は間違いなく「ほとんど」の方だな。

 もしかして、あんなにアホみたいな量を食べているのって、早く成長したいからなのか?...、違うな。あれは単に「食い意地」が張っているだけだ。

 あと、会話の中でよく出てくる「絆」だが、エルフにとって重要な事らしく、一度「絆」を結んだ相手とは、相手が亡くなるまで浮気をしない(と言うかできない)そうだ。

 まあ、この情報は図書館の資料にあったから知っていた。なのでさっきのリアクションだったのだけどな。(泣)

 問題は、「絆」を結ぶのに「双方の意思」は関係ということだ。

 なるほど。一度「絆」を結んでしまえばその人一途になるんだから、「奴隷」としては理想だわな。それで街中にいたエルフが嫌がっている感じがしなかったのか。

 で、ここからは俺の知らない追加情報で、「絆」を結んだ相手が亡くなると、相手に関する「記憶」が消えてなくなるらしい。

 その場合、エルフの姿は、ちびっ子には戻らず「大人」のままだそうだ。

 それと、「エルフ」から生まれてくる子供は、全て「」ということ。

 そうか、それでこの世界には「男のエルフ」がいないんだな。

「なので、私達は『種をつなぐ』ために『他所よそ』から異性を連れてくるんです。まあ、その時に色々トラブルがあったりしますけどね~、アハハ...。」

 ・・・ほほう、なるほど。このポンコツエルフが少し考えた理由が分かった気がしてきた。

 ぶっちゃけ、人族もエルフ族も似たような事をやっているのか。違いは「強制」か「合意」というところか。

 なので、わざわざ探しに行かなくても向こうからきてくれる「エルフ狩り」の連中は「ある意味」好都合だということだな。

 アイツは、多分「このまま島に戻るより、人族のいる町に行った方が『種を繋ぐ』にはいいのではないか?」と考えたんだろう。

 うん、それは言えんわな。表向き「エルフ狩りで奴隷にする」行為に、人族のことを憎悪しているのに、実は奴隷になることで「エルフ」と言う種族が生き延びられているなんてな。なんともまあ皮肉なもんだ。

 とすると、俺は「余計なこと」をしたかな?多分、暫くは奴隷商船はこない、もしかしたら廃止になるかもしれないしな。

 そんなことを思っていると、ポンコツエルフが慌ててフォローしてきた。

「そ、そんなことないですよ!?幾ら『都合がいい』とはいえ、『奴隷』なので、自由はないですし、雇い主から暴力を受けて亡くなる人も多いんです。なので、助けていただいたことについては、本心から感謝しているんですよ~。」

 こいつ、俺の心を読んだのか?聖女もそんなときがあったから、「エルフ」は相手の考えていることが分かるのか?

「あ、はい。エルフでも、私達みたいに『絆』を結んでいない者は、ある程度相手の気持ちが分かるんです。えっへん。」

 そう言って、ポンコツエルフが大平原の小さな胸を張った。


 そんな感じで、俺たちは助けたエルフたちを届けるべく、エルフの島に向かった。

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「あの~、もうすぐ日が沈むんですけど、どうするんですか~?」

「え?停泊して船内に泊まるよ?」

「えっ、この辺りって、魔物が結構いるんですけど、大丈夫なんですかぁ?!」

「大丈夫じゃね?この辺の魔物程度だったら、この船に傷一つ付けられないどころか、自爆すると思うぞ。」

「はあ...?」

 ゴンっ!「ギャアアアアアッ!!」

「ひっ!?」

「な、こんな感じ。」

「・・・なんなんですか、この船...。」

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