第五章:エルフの島へ

勇者の軌跡34:勇者、エルフを助ける

 俺たちが造った船に泊まった次の日、現在ひたすら「西」に向かって航行中だ。

 何故「西」に進んでいると確信できるかと言うと、日の光が後ろから射しているからだ。この世界も「日の出は東、日の入りは西」だからな。(現在4刻半:午前9時ぐらい)

 そんなこと考えていたり、なーんにも考えずに操船していると、前方に煙を出している船が見えた。

「ん?魔物か何かに襲われているのか?」

 この時代は中世によく似ているから、船内に食堂があっても火は使わないはずだ。船体が「木」だから、うっかり燃え移ると大変だからな。

 そんなことを思っていると、さっきまで食堂で朝飯を食べていた聖女と寝起きのアサシンがやってきた。

「あ、あれは『奴隷商船』!?」

 ほほう、あれがそうなのか。つーか、相変わらず目がいいな。

「なあ、あれって何で動いているんだ?帆船のような帆柱マストが見当たらないんだけど。」

 俺が聖女に聞くと、彼女は「うーん」と考えて、

「確かに、帆船じゃないわね。確か、奴隷商船員アイツらが言ってた...、えーっと、『じょうきせん』だったっけ?」

 と答えた。

 ほう、「蒸気船」とな。それだと、確かに帆柱は要らんわな。と言うことは、あの煙はボイラーの排気煙か?分からんけど。

「このあたりは、まものがよくおそってくるので、がんじょうなあのふねをつかっている。ただし、あれいっせき一隻だけ、とまちのおっちゃんがいってた。」

 聖女の返事に、アサシンが補足説明をしてくれた。

「なあアサシン、あの船の船速...、速さだが、どのくらいだ?俺たちの世界での『蒸気船』は、帆船より速い印象なのだが?」

 確か、帆船は平均4ノットぐらいで、蒸気船が大体7ノットぐらいだった気がする。

「んにゃ、『はんせん帆船』とおなじくらい。ただ、かぜのえいきょうをうけないから、じっしつ実質『はんせん』よりはやい...かも?」

 とアサシンが答えてくれた。

 なるほど、あの「蒸気船」は多分初期型だな。確か初期の蒸気船は帆船と同じぐらいのスピードしか出せなかったらしいしな。

「・・・あれ、よく見てみると、何かと戦闘しているみたいね。」

 と、聖女が目を細めて奴隷商船を見ながらそう言った。どうやら「お取込み中魔物と戦闘中」らしい。

「なあ、あの船の船首だが、こっちを向いているか?」

「『せんしゅ』?...、ああ、船の先っちょのことね。...ん~っと、こっちを向いているわね。」

 ・・・なるほど、そうすると「お仕事エルフ狩り」の帰りか。となると、あの中に「獲物捕らえられたエルフ」がいる可能性があるな。

「よし、それじゃあ、あの船を助けに行くぞ。」

 そう俺が言うと、聖女が苦い顔をした。こればっかりは、見過ごすわけにはいかん。

「・・・『目の前に困っている人がいれば助ける』、それが『勇者』の使命って分かっているけど...。」

 そう、絞り出すような声で聖女が言った。

「ん?ああ、言葉が足らなかったようだな。『船の中に捕らわれているかもしれないエルフを助ける』だ。」

「「え?」」

 合法ロリーズが声をそろえて驚いている。はて、今の話で何か疑問になるようなことがあったか?

「いや、何で『エルフが捕らわれている』って分かったの?」

 ああ、そのことか。

「聖女が言っただろう。『船首はこちらを向いている』と。つまり、こちらに向かっているということになる。」

「あれが聖女の言うように『奴隷商船』なら、捕らえたエルフを乗せて港町に戻っている途中という可能性があるわけだ。」

 そう説明すると、2人は納得したようだ。

「でも、どうやって助けるの?いくらアイツらが戦闘中だとしても、そんな簡単に近づけないと思うんだけど?」

 フッフッフッ、その辺はちゃあんと考えていますよ?

「まずは、『お取込み中』の方々を海ごと氷漬けにして、俺たちは潜水して接近、接舷せつげんして中に乗り込み捕らわれているエルフがいたら救出、て感じかな?」

 うむうむ、我ながら完璧な策だ。

 俺がそう説明すると、聞いていた聖女がアホみたいな顔をしていた。

「・・・え~っと、要するに、アンタが氷魔術を使って氷漬けにして、その後私たちが水中から奴隷商船に近づいて、船内に乗り込んで同胞エルフを助ける、って感じで合ってる?」

「いえす、あいどぅ。」

「でも、あんなとおくまでいきがつづかない。どうするの?」

 ん?アサシンは何を懸念しているのだ?もしかして、ここから俺たち「自身」が海に潜ってあそこまで行くと思っているのか?

「いや、この船を『潜水モード』にしてあそこまで行くんだが?『接舷』って言ったでしょ?」

「「は?」」

 アサシンの問いに答えると、2人から素っ頓狂な声が上がった。何だ、変なこと言ったか?

 ・・・そこから、「潜水モード」のことや、そもそも「船が海を潜る」仕組みなどをこの異世界娘共に説明した。

「何と言うか、アンタのいた世界って、凄いのね...。」

「それを「このせかい」でじつげんさせるゆうしゃは、すごいをとおりこしてへんたい。」

 何か、尊敬されているのか馬鹿にされているのか分からんが、そのような細かいことは気にしない。

「それじゃあ、早速やりましょうかね~。そぉーれ、『凍れ』~。」

 俺がそう言うと、「エターナル・ブリザード」が発動し、戦闘中の奴隷商船の辺り一帯を海ごと氷漬けにした。

 その光景を見ていた合法ロリーズは、目を丸くしていた。

「・・・何度見ても、非常識よね...、『無詠唱』だし。」

「・・・わたしたち、いる?」

 何かぶつぶつ言っててキモイが、ちんたらしてはいられない。あれが蒸気船なら、早くしないとボイラーの熱で氷が溶かされるからな。

 俺はちびっ子共を船内に押し込んで、「潜水モード」で一路奴隷商船へ向かった。

 途中で何かにぶつかった感じがしたが、特に問題なくものの数分で奴隷商船の真下に着いた。

 え、何故「正確」な位置が分かったかって?それはアナタ、「ソナー」で確認したからですよ?「潜水艦」なんだから「ソナー」はマスト必須装備よ?帆船だけに。(審議拒否)

 まあ、アサシンの「探知」魔術のサポートもあったけどね。

「さて、これから乗り込むわけだが、先にアサシンが行って捕らえられたエルフがいるか確認してくれ。」

「あいあいさー。」

「あと、余裕があったら『お掃除』も頼む。」

「ほいほいさー。」

 そう言って、アサシンは帆柱の中を登って行った。

 実は、帆柱は偽装のためだけではなく、潜水時の潜入口になっているのだ。何でもありだな、「ご都合主義」。

 それからしばらくして、アサシンから連絡があった。

 やはり、捕らえられたエルフがいたようで、俺たちはすぐに現場に直行、救出し、即座にその場から離れた。

 監視の者たちは、当然の如くアサシンに「お掃除」されていた。流石は「暗殺者アサシン」である。

 救出されたエルフたちは、はじめは怯えていたが、聖女が「同族」とわかると安心したようだ。

 救出したエルフは総勢10名、全員「見た目」子供である。まーたーでーすーかー。この世界のエルフって、(見た目)ちびっ子しかいないのか?あ、でも町中で見かけた「エルフ」は俺の想像通りだったな。

 まあいい。とりま、この人攫エルフさらいどもには「因果応報いんがおうほう」というのを身をもって教えてしんぜようではないか。ふっふっふっ。

「・・・アンタ、物凄く酷い顔をしているわよ。」

 俺の顔を見た聖女がそんなことをほざきおった。おいコラ、誰が「醜いオーク顔」じゃ。イキュ●スキュオラ記憶消去すんぞボケ。

「ほんじゃま、お掃除しますかね~。『おりゃ』。」

 そう俺が言うと、手から光線(ガンマ線)が放たれ、氷漬けになっている奴隷商船(と襲っていた魔物たち)を一瞬で消滅させた。

「・・・あ~、ちょっとやりすぎたかな~。」

 目の前の光景は、正に「モーゼの海割り」。それが水平線の彼方まで続いていた。

「まあ、やっちまったものは仕方ない。目撃者たち合法ロリーズと助けたエルフたちには口止めしておこう。無いとは思いたいが、被害に遭った場所には先に謝っておこうかの。」

 そう言って、「気を付け」の姿勢をとると、謝罪の言葉を口にした。振り付きで。

「ごめんなさーい、悪かった。二度と失敗いたしません。」

 うむ、完璧だ。

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 船内で勇者の所業を見ていた合法ロリーズとエルフの(見た目)ちびっ子たちは、言葉を失っていた。

「・・・アイツを怒らせないようにしようね、アサシン。」

「・・・うん。おにくそこわい。」

「あと、最後にやった『変な踊り』は何?」

しょうりのまい勝利の舞?」

 その後、勇者がエルフたちに緘口令かんこうれいを敷いたが、皆素直に従ってくれた。うむうむ、流石俺。

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 攻撃から運よく逃れ、這う這うの体で港町に辿り着いた奴隷商船の船員の話から、その後奴隷商船の運航が途絶えることになる。

 港町の住人は口を揃えてこう言った。

「我々の行いが、神の怒りに触れた」と...。

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