勇者の軌跡33:勇者、船を造る(普通の船を造るとは言っていない)

 明けて次の日、俺たちは港町から離れたところの海岸に打ちあげられて、そのまま放置されている「元」帆船の所にいた。

「ちょっとおおきいけど、じょうけんをみたすのはこれしかなかった。」

 昨日の作戦会議で、「流石に船体を一から造るのは効率が悪いので、どこかに廃棄された船があればそれをベースに改装しよう」と言うことになったので、朝一でアサシンに情報収集してもらっていたのだ。

「いいんじゃね?『大は小を兼ねる』と言うし、そもそもお前らの要望を叶えるには、漁船サイズじゃ小さすぎるからな。」

 この「元」帆船、帆柱マストは根元から折れているし、船体にはそこら中に穴が空いているが、船体自体は原形を留めているので、補修さえすれば使えるんじゃね?多分。

「さて、それじゃあ始めるとするか。まずは船体の穴を塞がなきゃないかんな。ということで、手分けして作業開始~。」

「「はーい。」」

 そう言って、俺たちは船体の修理を始めた。

 ・・・

 作業を始めて1刻(約2時間)、船体の穴を全て塞いだ。

 早くね?と思われるだろうが、強化魔術を掛けているからこんなもんですわ。いやー、強化魔術はすんばらすぃ素晴らしい~。

「ほんじゃ次は、外板の強化だな。ということで、これを手分けして船体に張り付けてくれる?」

 そう俺が言った先には、山積みになった「ヒヒロイカネ」があった。

「・・・アンタ、何時の間いつのまにこんなのを用意したのよ?」

「・・・これだけあれば、このたいりくぜんぶのくにをばいしゅう買収できる。」

 そうなのか?これは、その辺の「土」を「錬金術(ご都合主義仕様)」で「錬金」しただけだから、なんぼでも出来るけどな~。

「細けぇことは気にするな。それより、まだまだやることが沢山あるから、ちゃっちゃとやらないと日が暮れるぞ?」

「「はーい。」」

 ・・・

 船体を「ヒヒロイカネ」で補強する作業は、半刻(約一時間)で終わった。まあ、外板に張り付けるだけの作業だからな。そんなもんですわ。

 あ、どうやって張り付けたかと言うと、俺が用意した「超強力瞬間接着剤」でやった。これでくっつけると、なんとお互いの素材が融合して、一体となるのである。今回の場合は、ヒヒロイカネ+木=ヒヒロイカネの特性を持つ「木」となる。流石は「ご都合主義」製。

「さて、船体はこれでいいとして、次は『エンジン』か。」

 俺がそう言うと、合法ロリーズが口を揃えて「「えんじん?」」と聞いてきた。

「そうだな、簡単に言うと、『物を動かすための力を継続的に出せる機械』だな。」

 そう説明したが、2人の頭の上に「?」が沢山出ている。えー、結構分かりやすく説明したつもりなんですけどー。「機械」が分からなかったのか?

「えっと、つまり『風力』とか『手漕ぎ』と同じようなものなのね?」

「そそ。この船を動かすための『動力』てことだ。」

「なるほど、よくわかんないけどわかった。」

 どっちやねん。まあいいけど。

 で、問題はその「エンジン」だな。俺は「核融合エンジン」を作ろうと思ったんだが、本当にできるのかいな?俺がいた時代でも実用化されていなかったからな~。

 そんなことを考えていると、突然頭の中に何かの声が聞こえてきた。

 ・・・ほうほう、なるほど。そういう仕組みなのか。

 で、実現するためには...、ふむ、結構簡単に作れそうだな。

 俺が「核融合エンジン」の作り方を「謎の声」から教えてもらっているとき、合法ロリーズはそんな俺の姿を見て、困惑した顔をしていた。

「せいじょ、ゆうしゃがなにかぶつぶついっている。あたまおかしくなった?」

「アイツの頭は最初からおかしいけど、あれは何か「とんでもない」ことを考えている状態よ。」

 何か失礼なことを言っている気がしたが、それどころではないのでスルーするー。(審議拒否)

 ----------

 そんな訳で、日が落ちかけてくる頃に、ようやく出来ました。

 合法ロリーズの要望された設備は勿論、他にもいろいろこだわりました。

 見た目はただの帆船だが、圧倒的な船速(核融合エンジン)と堅牢な船体(ヒヒロイカネ)、うむ、予定通りである。フハハハハハ!

 ちなみに、武器の類はつけていない。前回「つけなきゃイカんでしょ」と言った気がするが、よーく考えたら、別にこの船で本格的な戦闘をするつもりはないし、もし万が一敵の手に渡ったときに対処が面倒だからな。(難しいとは言っていない)

 俺が満足げに目の前の海に浮かんでる「船」を見ていると、横で合法ロリーズが何かぶつぶつ呟いていた。相変わらずキモイ。

「・・・なにこれ、何かの魔道具アーティファクトなの?」

「さすゆう、よくわかんないけど『すごい』のはわかる。」

 まあ、あの二人の反応は想定通りだな。

「それじゃあ、早速乗り込みましょうよ!」

 聖女が何か意気込んでいるようだが、その前にすることがあるだろうが。

「こらこら、入る前に挨拶をしなさいと前にも言っただろうが。」

「えっ、自分たちで作ったものにもやらなきゃいけないの?」

 まあ、確かに要らないかもしれないが、こういう「習慣」を付けておくことは大事だからな。例外はナッシングだ。

 そう説明して、俺は乗船口に立つと、「気を付け」の姿勢をとった。

「お邪魔します...か?」

「なんで『疑問形』なのよっ!?」

「え、何かおかしいことを言いました。」

「そこは『疑問形』にしなさいよっ!!」

 そんな俺と聖女のやり取りを横で見ていたアサシンは、目を輝かせていた。

「さすゆう。せいじょをいちにんまえの『ツッコミ』にそだてあげている。」

「違うわよっ!!」

 うんうん、立派な「ツッコミ」役になっているな。勇者さん嬉しいぞ。

「それじゃあ、乗り込むとするか。あ、よいとせのこらせっ、あ、よいとせのこらせっ。」

 俺がそう言って生まれ変わった(見た目)帆船に歩いて行くと、後ろで聖女が呆れた目をしてこう言った。

「アンタ、何でそんな変な歩き方しているのよ...。」

 失礼な。これは新築物件に入るときの由緒正しい歩き方なんだぞ?

 そんなことをしながら、俺たちは船に乗り込んだ。

「ところで、船に乗り込んだのはいいんだけど、誰が操船するの?」

 などと聖女が聞いてきたので、こう答えた。

「誰って、『俺』。」

「「え?」」

「え?」

 よくよく考えると、「勇者」って万能だから、操船もできるでしょ。知らんけど。

 そんなことを合法ロリーズに言うと、納得したらしい。

「まあ、勇者アンタならできるかもね...。」

「うん。さすがは『あるくひじょうしき』。」

 と、困惑した顔でほざいていた。


 そういうことで、俺たちは無事に船を手に入れた。

 よし、これで放浪の旅が続けられるぞ!やったね!(目的喪失)

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