勇者の軌跡32:勇者、流浪のパーティになる

 魔族による食糧危機を防いだ俺たちは、いろいろなお土産をもらって町を後にした。

 その後、あてもなく(一応「魔王」を倒すという目的はあるが)あちこちふらふらしては、「たまたま」魔族や賊の被害に遭っている人たちを助けていた。

 南に盗賊に襲われ、笑顔を失くした子供がいれば、行って盗賊を倒して、笑顔を取り戻したり。

「眉毛ポーン!」

「きゃはははっ!勇者様って面白ーい。」

「アンタ、それがやりたかっただけでしょ...。」

 西に魔族により流行り病が起こり、人々が苦しんでいれば、行って魔族を倒して、病気を治して活気を取り戻したり。

「勇者様!一発ギャグを考えたので見てください!」

「うむ、ここにいるアサシンと一緒に審査をしてやろう。」

「いまのところ、せいこうりつ3わり。きたいしている。」

「何だろう、私が治してあげたのに、言いようがない疎外感...。」

 北に魔物の襲撃を受けて、人々が途方に暮れていれば、行って魔物を討伐し、生きる道を示したり。

「いいか、人を笑顔にするのが芸人の使命。と言うことで、全員ペアを組んでボケとツッコミの練習開始!」

「「「イエッサーッ!!」」」

「さすゆう。ここでも『げいにん』のふきょうかつどうをするなんて。」

 東に人族同士の争いごとがあれば、行って(物理的に)仲裁をして平穏を取り戻したり。

「ただでさえ魔族がちょっかい出してきてクソ忙しいのに、同族で争ってんじゃねえよボケ!いてこますぞワレ!!」

「アンタ、ボコボコにする前にそれ言いなさいよ...。」

 そんなことをしながら、ダラダラと彷徨さまようこと約20日、いい加減飽きてきたので本来の目的に向かって進もうと決めた。

「という訳で、これから海を渡って『西』に向かおうと思う。」

「さんせい。わたしもあきてきたから、ちょうどいい。」

「アンタ達ねぇ...。まあ、『結果的』に魔族退治と人助けをしているから、いいんだけどね。」

 うむ、皆飽きてきていたみたいだから、グッドタイミングだな。

「それにしても、何で『西』に行くの?アンタ前に『わざわざ海を渡って行くほどでも無くね?』とか言ってなかったっけ?」

 と、聖女が聞いてきた。

「確かにそうだが、このまま『東』に行っても人族しかいないから、それより最後の仲間をスカウトできる可能性がある『西』に行った方がいいと考えたのだ。それでいいのだ。」

「でも、『にし』にいってもまおうのところにはたどりつかない?」

 そんなことをアサシンが聞いてきた。ん?この世界は東西南北がつながっていないのか?

「いや、遠回りにはなるがいずれ魔族のいる土地に着くはずだが...、もしかして、この世界には『果て』があるのか?」

「え?何でずっと西に行くと東にある魔族のいる土地に着くわけ?あと、『果て』って何?」

 ふむ、どうやら俺の考えていたことが当たってしまったようだ。つーか、過去の勇者たちはその検証はしなかったのか?

「かこのゆうしゃは、『まおう』がいるほうこうにむかってたびしていたらしい。まえにそんなはなしをきいたことがある。」

 成程、俺みたいに「わざわざ」遠回りして行ったわけじゃないってことね。まあ、過去の勇者パーティは人族で構成されていたらしいから、わざわざ探す必要がなかったんだろう。

「俺の世界だと、東と西、北と南は繋がっていて、例えば西にずーーーーーっと進んでいくと、いずれ東に出られるんだ。」

「へー。」「ほー。」

 あ、この合法ロリーズ、興味ないというか信じていないな。

「まあ、とにかく行ってみようず。行き止まりにぶち当たったら引き返せばいいし。」

「分かったわ。」「りょーかーい。」

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 そんな訳で、大陸西の端にある港町に着きました。途中、性懲りもなく賊やら魔物が襲ってきたので、いつも通り(経験値的な意味で)美味しく頂きました。

「さて、西に向かうとしても定期便があるわけでもないだろうから、どこかで船と乗組員を都合しないといかんな。」

 俺がそう言うと、聖女が苦い顔をした。何だ、また拾い食いでもしたのか?

「違うわよ。実は、エルフがいる島までの定期便があるのよ。」

 ほう、エルフの島とな。そう言えば、このちびっ子も船に乗ってこの大陸に来たんだっけな。

「んじゃ、それに乗ってとりあえずエルフの島に行くか。」

 と、俺がそう提案すると、アサシンが口を挟んできた。

「ゆうしゃ、そのふねは『どれいしょうせん』。えるふをつかまえてどれいとしてここにはこぶためのもの。」

 ・・・成程。聖女が苦い顔をするわけだ。それにしても、「定期船」と言うことは、結構頻繁に人(エルフ)さらいをしているということか。

 もしかして、コイツ聖女も「奴隷」として連れてこられたクチなのか?

 そう思い、聖女の方を見ると、彼女は頷いてぼそぼそと話し出した。

「・・・アンタの思っている通り、私は『奴隷』として連れてこられたの。この港に着いたときに、隙を見て逃げたしたのよ。」

 良く逃げられたな。こういうのって、結構警備が厳重で、そう簡単には逃げられないと思うんだが。

「私が『エルフの子供』だと思って油断していたのかもね。その時だけは、この姿に感謝したわよ。」

 なるへそ、その「トラウマ」で容姿が幼いことに過剰反応するのかもな。

 う~ん、そうすると、その「定期便」を使う訳にはいかないな~。折角都合よく目的地に行く船があるんだし、使わせてもらおうかな~、なんて思っていたが、これが「奴隷商船」となると話が変わってくる。

 いくらこの国で「合法」だとしても、世界では倫理観の関係で印象最悪だろうしな。

 尤も、この世界に前世の「倫理観」があるとは思えんが、「人族」が他種族から嫌われているのは事実だから、わざわざ好感度を下げる必要はないわな。これでも一応「勇者」だからな。だれが「一応」じゃ!

「それじゃあ、誰か船に乗せてくれる人を探すか。」

 そう俺が提案すると、聖女が何か閃いたようでこう言ってきた。

「それより、『船持ち』の『船乗り』を雇ってみたらどうかしら。そうすれば、船でどこにでも行けるじゃない?」

 なるほど、それもそうだな。一々現地調達する手間が省けるしな。

「よし、それじゃあ仕事斡旋所に行って探してみるか。」

「「はーい。」」

 ・・・

 とは言ったものの、そんなに都合がいい条件の人がいるわけなく、俺たちは一旦宿屋に入って作戦会議をしていた。

「う~ん、そうしたら『自作』するか。」

 そう俺が呟くと、聖女が驚いたような顔をした。

「えっ、アンタ『船』が作れるの?!...というか、まあ、アンタならできるかもね。何しろ『歩く非常識』『理不尽が服を着ている』だしね。」

 などと抜かしおった。失礼な。そんなことを言われたら照れるではないか。

「それで、どんなふねをつくるの?」

 と、アサシンが尋ねてきた。さて、どんな船を作ろうかな~。

 一応、俺には必殺「ご都合主義」があるから、「基本」俺が考えた物はできると思うんだけどな~。

「う~ん、俺たちが使うだけなので、そんなに大きな船は要らんしな~。」

 俺がそう言うと、合法ロリーズが頷いた。

「そうね。この前寄った漁師町にあった『漁船』位でいいんじゃない?」

「うん、むだにおおきくても『まと』になるだけ。」

 まあ、そうだわな。

「それじゃあ、『設備』にこだってみるかな~。」

「いいわね!私は「食堂」が欲しいわ!あと、お風呂も!」

「わたしは、おひるねできるへやがほしい。」

「はいはい。」

 それじゃあ、それらの部屋はマスト必須として、さてどうするかな~。

「まずは荒波や嵐にもびくともしない船体がいるな。とすると、素材は『ヒヒロイカネ』にするかな~。あとは、速力も欲しいから、動力は『核融合エンジン』にするか~。『波●エンジン』にすると『そら宇宙』に行けちゃうから、流石にそれはやりすぎだよな~。」

「そうすると、炉の外壁は同じ『ヒヒロイカネ』にするか。耐えられるかどうかはやってみないと分からんな。」

「それから、敵の襲撃に対する『武装』がいるな。漁船ぐらいの大きさだと、小型化した速射砲にするか。あ、砲弾は作るの面倒くさいから、魔術でなんとかするか。あとは...、」

 俺が今から造る船をいろいろ考えているとき、合法ロリーズは難しい顔をして話していた。

「ねえアサシン、アイツ勇者の言っていること分かる?」

「んにゃ、ぜんぜんちっともすっきりさっぱりわかんない。」

「あ、やっぱりね。」

「そもそも、わたしたち『ぼんじん凡人』がゆうしゃのことをりかいしようとおもうことがまちがい。」

「・・・それもそうね。」

 そんなことを考えていたら、夜もけてきたので、その日はお開きにした。

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