勇者の軌跡28:勇者、魔物たちを釣り上げる

 さて、今回の事件の犯人と思われる魔族は倒したが、魔物が暴れているという問題は残されたままである。

 もし、「魅了術」が掛かっているのであれば、術が解けて大人しくなるはずだが、そうはなっていないので、原因は別にあると思われる。

「そういう訳で、調査に向かいたいと思う。」

 魔族の一件の次の日、俺は湖のほとりに立ち、聖女とアサシンにそう伝えた。

「『調査に向かいたい』って言ったって、どうやって行くつもりなの?」

 うむ、聖女よ、実に的確な質問だ。10ポインツ!

 ちなみに、100ポインツ達成すると、なんと!「おめでとう。」と俺が褒めてあげるのだ。すげえ。(自画自賛)

「ふねでいっても、しずめられるのがオチ。どうするの?」

 確かにアサシンが言うように、アホ正直に船で向かったら沈められるのが分かり切っているので、そんなことはしない。

「ここで、俺が『エターナル・ブリザード』で湖を氷漬けにしてもいいんだが、そうしたら対象まで氷像になってしまうので、それはしない。」

 俺がそう言うと、周りにいた漁師のおっちゃんたちや町長が「ほっ」とした顔をする。

「・・・と思ったけど、面倒くさいからそれにするか。その方が手っ取り早いし。」

「「「やめて下さいお願いします。」」」

 と、漁師のおっちゃん達と町長が懇願してきた。え~。(不満)

「だったら、誘き寄せてみたどうなの?別にわざわざ行く必要はないでしょう?」

 ほう、聖女にしてみれば真面まともな提案をしてきたな。こりゃ明日は隕石が降ってくるかな?やだそんなの、面倒くさい。

「で、どうやっておびき寄せるんだ?」

 俺が聖女に聞くと、彼女は「え?」と返してきた。考えてなかったんかい!

 そんなことで、みんなでわちゃわちゃしていると、ふと大事なことを聞いていないことに気が付いた。

「そういえば、その『魔物』ってどんな奴なんだ?」

 そう俺が聞くと、町長が答えた。

「沢山の触手?を水中から出してきて、船に絡みついてから巨大な矢尻のような頭が出てきて破壊するんです。」

「反撃しようとすると、『黒い水』のようなものを吐き出して視界を遮るのです。」

「私も何とか倒そうとしましたが、その黒い水を浴びてしまい惜しくも逃げられてしまいました。」

 ふむふむ、町長の言葉を信じるとすれば、恐らく「デカいイカ」ではなかろうか。

「黒い水」は多分「墨」だろうな。しかし町長、アンタやっぱり強いな。

 すると、別の漁師のおっちゃんが話し始めた。

「俺の時は、デカくて丸い頭と沢山の触手を使って、同じように船に絡みついて壊しやがるんだ。」

「あと、そいつはいきなり『黒い水』を噴き出してきたな。」

 ほうほう、多分そいつは「デカいタコ」だろうな。つまり、被害を出している魔物は「タコ」と「イカ」と言うことか。

「ねえ、それってあそこで争っているのじゃない?」

 と聖女が言った方向を見てみると、はるか遠くに何やら2体の魔物(らしき物体)が争っているように見える。しかし、相変わらず目がいいな、このちびっ子聖女。

「ふむ、目標は視認したが、さてどうやってここまでおびき寄せるかだが...、だれか『エサ』になりたい人いる?」

 と、俺が提案すると、全員一斉に首をブンブンと横に振った。

「仕方がないな~、それじゃあ、エギングで一本釣りをしますか。」

 と俺が言うと、勇者パーティの合法ロリーズが聞いてきた。

「え、釣るの?道具は?と言うか、あそこまで届くの?」

「ゆうしゃ、『えぎんぐ』ってなに?」

 ふむ、当然の疑問だな。よかろう、この勇者様が教えて進ぜよう。

「まずは、アサシンの言った『エギング』だが、これは『エギ』と言う疑似餌ぎじえ...、偽物の餌を使って釣る方法だ。」

「次に、聖女が言った『道具』だが、別にその辺にある釣り竿で無問題問題ナッシングだ。ただ、それだけだと強度が足らないので、『強化魔術』を釣り竿と糸に掛けてくれればいい。」

「それから、距離の問題は、俺に『強化魔術』を掛けてくれればいい。おk?」

 俺の説明を聞いて、合法ロリーズは納得したようだ。

「成程ね~。アンタにだけではなく道具にも『強化魔術』を掛けるなんて発想はなかったわ。」

「にせもののえさ...、あいてをだますというのは、わたしたちはとくい。こんどやってみる。」

 ん?武器や防具に「魔術」を掛けるのと同じ発想だが、この世界には知られていないのか?この前のデカい嬢(ダンジョンの町にいた美人巨乳受付嬢)が装備していた「ミニスカメイド服」があったではないか。まあいいけど。

 あと、疑似餌はないのか。まあ、あれは「餌」と誤認するように作らなきゃいけないから、そこまでの技術がこの世界にはないのかもな。知らんけど。

 そう言うことで、近くにいた漁師のおっちゃんから釣り竿と糸を借りて、俺が用意したエギ(ご都合主義のおかげ)を付け、聖女に俺を含めて丸ごと「強化魔術」を掛けてもらった。

「ところで、2体いるけど、どっちを狙うの?」

「出たとこ勝負だな。うまく2体とも掛かってくれればラッキー池●だな。」

「らっきーい●だ?」

 アサシンが首を「コテン」とかしげて聞いてきた。

「あー、気にしなくてもいいわよ。どうせアイツの戯言ざれごとだから。」

 おいコラロリババア、戯言とは何だ戯言とは。まったくもってその通りだ。

「そんじゃま、やりますか。そぉーれ、うまく食いつけーっ!」

 そう言って、俺は釣り竿を振って魔物がいる場所にキャスティングした。

「うわぁ~、本当にあんなところまで飛んでいったわー。」

 聖女が目を細めて、確認していた。

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 程なくして、ヒットした手ごたえがあったので、俺は思いっきり引き上げた。

「そーら、どっせーーーーーーい!!」

 俺の掛け声とともに、2体の魔物が糸に引っ張られてみるみる近づいてくる。

「あ、その辺にいる人たち、そこにいると潰されるから退避してね~。あと聖女、魔物が打ち上げられたら俺たちの周りに『結界』を張っておくんなまし。」

 そう俺が言うと、漁師のおっちゃん達と町長が慌てて俺たちの元にやってきた。

「それにしても、いくら『強化魔術』で強化しているとはいえ、あんな大きな魔物2体をいとも簡単に釣り上げるなんて...。」

 聖女がそんな感想を言っている間にも、魔物2体がどんどん近づいてきて、見事に釣り上げられた。

「「ズドドーーーーンッ!!」」

 地響きとともに、2体の魔物が地面に叩きつけられた。

「・・・・・・・・」

 皆、おかに打ち上げられてうねうねしている2体の魔物(タコとイカ)を見て、唖然としている。

 ふぅむ、それぞれ大体20m位の大きさだな。思ったより大きくないな。確か「ダイオウイカ」の最大が18mぐらいだからな。

「・・・うわっ、何これ気持ち悪い...。」

 そんなことを思っていると、早々に復帰した聖女が、そんな感想を漏らした。他の皆も、同じような反応をしている。

 まあ、俺は「旨そう」とか「イカ焼きとタコ焼き食べたくなってきた」と思っていたけどな。あ、ちなみに俺が思っていた「イカ焼き」は屋台でよくある「イカの姿焼き」ではなく粉もんの「イカ焼き」な。

「ね、ねえ。あの魔物、私、見たことないんだけど、アンタ何か知ってるの?」

 そう聖女が聞いてきたので、

「あれはな、『俺たちの世界で』生息している水棲すいせい生物のデカい奴で、丸い頭の奴が『アシハポーン』、槍みたいな頭の奴が『アシジュポーン』だ。」

 と、そう答えると、聖女はなぜか疑いの眼差しを向けてきた。

「アンタ、私が分かんないと思って適当な事を言っているんじゃないでしょうねぇ?」

 聖女よ、疑心暗鬼ぎしんあんきは良くないぞ?何故バレたし。


 そんなわけで、これから打ち上げられたタコとイカの魔物への尋問が始まるのであった。

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