勇者の軌跡27:勇者、名(迷?)推理で魔族を倒す

 俺たちがたまたま立ち寄った漁師町で起こっている「魔物」による漁船襲撃事件。

 一泊した次の日、現状を確かめるため町長のいる役場に向かった。

 役場の前に着いた俺は扉を開けて...、閉めた。

「アンタ、何してるのよ...?」

 聖女が「コイツ何やってんだ?」と言う顔で聞いてきたが、無視。

 そして、扉を開け閉めしながら、俺はこう叫んだ。

「開けてー、閉めてー、開けてー、閉めてー、開けてー、閉めたら入れなぁーい!」

 ドテッ、とアサシンがずっこけた。聖女はアホみたいな顔でポカーンとしている。

「さすゆう。『ながしのげいにん』はだてじゃない。べんきょうになる。」

 起き上がったアサシンが尊敬の眼差まなざしで俺を見ている。はっはっはっ、もっと尊敬したまへ。

「『入れない』って、当たり前じゃない。何言ってるのよ...。」

 一方、聖女の方は呆れた顔で「普通」のことを言ってきた。いかんな、そんなしょっぱい反応をしては。まだまだ修行が足りんな。

 という、ちょっとした笑いを提供した後、俺たちは役場に入った。

 中の職員たちは、聖女と同じようにポカーンとしていたが、再起動して「何もなかった」かのように業務を行っていた。流石公務員。

 受付でここに来た経緯を話すと、すぐ町長に会える手筈てはずを整えてくれた。

 程なくして、町長がやってきた。おや、女の人なのね。「漁師町」の町長と言うと無骨なおっちゃんのイメージがあったんだけど、何か「普通」っぽいな、見た目は。

「勇者様、ようこそ我が町においで下さいました。ささ、こちらへどうぞ。」

 そう挨拶した町長は、俺たちを町長室に案内してくれた。

 案内された部屋は、至ってシンプルで、今までのおさが使っていた部屋と比べてぶっちゃけ「何もない」感じだ。

「どうぞそちらにおかけください。今お茶を用意しますね。」

 と言って、町長自ら俺たちにお茶を入れてくれた。

「お口に合うか分かりませんが、ささ、どうぞ。」

 と、何かやたらと勧めてくる。まあいいや。

 俺たちがお茶を飲んでいるのをじっと見つめる町長。

「ぷはぁー、まずい!もう一杯!」

 俺たちが飲み干して、お代わりを頼んだことに、町長は目を見開いた。

「ん、どうした。もしかして、『なんで眠らないのよ?強力な睡眠薬を入れたのにっ!?』とか思ってる?」

 俺が「ニヤリ」と笑うと、町長は慌てて目を逸らした。

 俺が感じていた「違和感」。昨日アサシンが町の人たちから情報収集を行った結果を聞いたことで分かったこと。

 昨日、俺に話しかけてきたおっちゃん。今思えば、「わざわざ」俺たちの近くにいて、実に絶妙なタイミングで話しに割り込んできたからな。その時は分からなかったけど。

 それと、聞き込みを行っていたアサシンからの情報と、この役所の雰囲気。

 そして、今この「町長」が起こした所業である。

「もしかして、気づいていないと思った?アンタ馬鹿ね、ホホホー。」

「うふふ、残念だったわね。私達『勇者』パーティは、『状態異常』が効かないのよ?」

 と、聖女が相変わらずの大平原の小さな胸を張ってドヤった。いや、お前の能力ちからちゃうやん。

「い、何時いつ気が付いた?」

 化けの皮がはがれた町長(らしき者)は、俺を睨んでそう言った。

 ふむ、いいだろう。勇者様の名推理、とくと聞くがよい。ではBGMスタート!

 俺がそう思うと、どこからともなく某警部補名探偵の曲が掛かってきた。

「んふ~、んふんふ~。え~、どうも勇者です~。」

「アンタ、何変な喋り方をしているのよ。あと、いつの間にかかかっているこの曲は何?」

 聖女が何やら言っているが、とりあえず無視。

「え~、この役場に入ったときです~。」

「役場に入ったとき...?」

「はい~。」

「な、何かおかしなことがあったのか?皆『普通』にしていたが。」

「はい~、そこなんです~。」

「確かに、『普通』の時でしたら、私も気にしませんでした~。」

 すると、聖女が何か気付いて、口を開いた。

「・・・そうか、今は『魔物の襲撃で漁に出られない』状態。しかも、それが解決したわけではなくて、『継続中』。」

「はい~。昨日、私に話しかけてきた『おじさん』、いえ、『変装したあなた』ですか?がこう言っていました~。」

『ああ、つい数日前から、湖に巨大な『魔物』が現れて、船を沈めてくるんだ。全く、このままだとおまんま食いっぱぐれちまうぜ。』

「な、何もおかしなことは言っていないではないかっ!?」

 町長らしき人物が、そう叫んだ。

「んふ~、そうでしょうか~?『数日前』からにしては、やけに静かでしたね~?」

「・・・そうね。漁師さんたちにしたら『死活問題』なわけだから、結構な騒ぎになっているはずよね。」

「はい~。うちの『優秀』な情報屋が聞き込みを行ったところ、『まあ、漁が出来ないのは確かだが、近場なら影響がないからそんなに困ってはいない』とのことでした~。」

「あとは、泊まっていた漁船ですね~。見た限りでは、湖の奥に行くような大きな漁船ではなく、近場で漁をするような小型船ばかりでした~。」

「くそっ、何て鋭い奴だ...。」

 町長らしき者は、そう言って唇をかんだ。

「なるべく表に出ないようにして、『アイツら』に任せっきりにしていたのが仇になったか...。」

 町長らしき者が何かぶつぶつ言っている。キモイ。

「し、しかし!お前たちはもうここから出られない!ここは、私が作った『次元の狭間』だからだっ!!」

 もう化けている意味がなくなったため、町長から本来の姿(魔族:男)に戻って、勝ち誇ったかのように叫んだ。

「え、まじで?」

「うそでしょっ!?」

 その事を聞いた聖女とアサシンが慌てている。それを聞いた魔族の男は不敵な笑みを浮かべた。

「う~ん、それは困りましたね~。どうしましょうかね~。」

「フン、余裕ぶっていられるのも今のうちだ。お前たちはここから出られずに、このまま朽ち果てるのだ。」

「「そ、そんなぁ~。」」

 聖女とアサシンがまたシンクロして項垂うなだれた。

 そんな中、俺はとあることを言った。

「いや~、それにしてもここの職員さんは親切ですね~。私が先ほど『ところでさ、もしここに閉じ込められちゃったらどうやって出るの?』と聞いたら、実に懇切丁寧こんせつていねいに教えていただきました~。」

「「「へ?」」」

 3人が素っ頓狂な声を上げる。

 まあ、その情報がなくても、「次元刀」でぶった斬ればいいだけだから、特に問題ナッシングだ。

「んふ~、『魔族』の方は毎度『詰め』が甘いようですね~。」

 そう言って、魔族の男の方を見て、決め台詞を言った。

「残念でした~。」

 そして、職員(魔族の眷属けんぞく)から教えてもらった方法で、次元の狭間から無事脱出して、役場の前に出ると、そこには漁師たちが待ち構えていた。

「え~、それではご紹介します~。こちらはこの魔族に騙されていた漁師の方々です~。」

「アンタ、いつまでそのキャラを続ける気なのよ...。」

 やかましいわ。一度やってみたかったんじゃ。もうちょっと続けるぞい。

「勇者様、ありがとうよ。おかげで漁に出られないストレスが解消できるぜ。」

 よっぽど鬱憤うっぷんが溜まっていたのか、漁師のおっちゃん達はる気満々である。

「いえいえ~、それじゃあ後のことはお任せします~。思いの丈をこの魔族の方にぶつけちゃってください~。」

 まあ、魔族は「普通」の攻撃「だけ」じゃあ倒せないからな。思う存分やっちゃってください。

 あ、ちなみにこのおっちゃんたちは、例の「魔物」に船を壊された遠洋漁業の漁師さんです。一応「被害」は出ているのよ?

 と言うことで、漁師のおっちゃんたちに囲まれた魔族の男は、文字通り「袋叩き」に遭い、瀕死状態になっていた。

「ほんじゃま、とどめをお願いしまんにゃわ。」

 と、聖女の方を見て言った。

「はいはい、分かりましたよ。」

 と言って、聖女は魔族の男に向かって神聖魔術を放ち、とどめを刺した。魔族の男は、例のごとく例のように塵になって消えていった。

 何故「聖女」にとどめを刺させたかと言うと、アサシンでは今持っている武器だと魔族にとどめを刺せないからだ。

 俺?面倒くさかったからやらなかっただけ。某警部補の真似ができて満足したからな。

「でも、まもののけんがかたづいていない。どうするの?」

 そう、アサシンが言ったように、まだ「魔物襲撃」の件は解決していない。

「そのことなら、この後『話し合い』に行くから心配するな。」

 そう言って、俺は「ニヤリ」と笑った。

「うわぁ~、今までにない邪悪な笑顔だわ~。」

 聖女がそう言うと、アサシンは「うんうん」と激しく同意し、漁師のおっちゃん達はドン引きしていた。何故だ。

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 ちなみに、本物の町長と職員たちは、あの魔族により俺たちと同じく「次元の狭間」に幽閉されていたが、魔族が消滅したことにより元の世界に戻ってきた。

 驚いたことに、本物の町長も女性だった。ただ、某「霊長類最強女子」のような「いろいろな意味で」力強い方であった。

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